基本スキルを身に着けることこそが、安全なパドリング上達の近道ではないかと考えます。
今回はアクシデントに対応するためのスキル、「キャッチ篇」です。
カヤックを車にたとえると、駆動のパワーを生むエンジンは、カヤックに乗る人の腹筋、背筋、胸筋などの筋肉。パワーを地面に伝えて推進力に換えるタイヤに相当するのが、パドルのブレードです。どんなに優秀なエンジンを載せた車でも、すり減ってグリップ力のないタイヤでは、推進力が生まれず、不安定で操作性もよくありません。カヤックの操作性と安定性も、ブレードで水を正しくキャッチすることで生まれるのです。
では、正しくキャッチするにはどうすればよいのか?
答えは簡単。「ブレード部分をネックまで全部入れてから漕ぐ」ことです。
「それだけ?」と、いう声が聞こえてきそうですが、一見簡単に見えることほど、奥は深いんです。
(文・写真・動画=嘉藤暖博)
■正しいキャッチ
まずは、キャッチの正解から。写真はフォワードストロークをしているところですが、ブレードの全面で水をとらえています。こうしたキャッチを「アンカーキャッチ」といいます(錨のようにガツンと重いキャッチという意味)。
正しく水をキャッチしてストロークできれば、水面は割れず、ブレードを動かしたときの水音も静かです。
■キャッチできていない状態
キャッチがうまくできて状態でストロークすると、写真のように水面が割れて「ドッポン」と大きな水音が発生します。
■よくあるキャッチの失敗例
× パドルを持つ位置が低い
持ち手の位置が低いと、パドルはネックまで水に入らず、ブレード全体でキャッチできない。また、シャフトがカヤックのデッキに当たり漕ぎにくい。
[改善方法]
掲げ手は肩の高さに挙げ、シャフトの角度が45度前後になるよう意識する。
× ブレードを入水しながら漕いでしまう
完全にキャッチする前にストロークが始まっているので水割れが起きている。
[改善方法]
イメージとしてブレードをスライス(水を切るように)して入水させ、ネックまで完全に水中に入ってからストロークを始める。
× ブレードの入水角度が悪い
ブレードの入水角度が悪く、さらにシャフトを強く握っていると、ブレード角度が固定されるのでスライス気味のストロークとなり、非常に不安定になる。
[改善方法]
ストロークする方向にパワーフェイスを向けてブレードを入水する。シャフトが固定されるほど強く握らず、手のなかで転がるくらい優しく持つのがよい。
■ブレードの入水位置
○ 正しい入水位置
ストローク中は常にパワーフェイス面が艇の真後ろを向く(=ノンパワーフェイスが進行方向を向く)よう意識し、入水位置を調節する。
× 遠すぎる(前すぎる)入水位置
ブレードの入水位置が(前方に)遠すぎると、パワーフェイスが下方を向いて水をうまくキャッチできない。
× 近すぎる(後ろすぎる)入水位置
入水位置が近すぎると、結果的に後方までストロークすることになってパワーフェイスの向きが進行方向とずれ、キャッチできなくなる。
■キャッチ感覚の掴み方
膝下くらいまで水に入り、まずブレードの7~8割を水に入れ漕いでみる。
次にブレード全面を水中に入れ漕いでみる。ブレードの7~8割を水に入れ漕いだときににくらべてはるかに重く、体が持って行かれそうな感覚を覚えておこう。
※本記事は『カヌーワールド』VOL.17の連載「カヤッカーのためのリスクマネジメント教室」から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
(著者プロフィール)
嘉藤暖博(かとう・あつひろ)
日本セーフティーカヌーイング協会(JSCA)公認カヌースクールBLUE HOLIC代表。JSCA安全委員会委員。福岡県北九州市出身の50歳でカヤック歴は30年。趣味は料理とバックカントリースキー。春~夏は北海道小樽でカヤックガイド、秋は九州沖縄方面で釣りとカヤック、冬は山ごもりでバックカントリースキーという生活を送る。
http://www5c.biglobe.ne.jp/~b-holic/