月刊『ボート倶楽部』では、2019年から「フネのDIY術」という記事を連載し、東京ボート(埼玉県八潮市)のベテランスタッフの協力のもと、ボートに関するDIYの技術や船体に対する情報をお伝え中。今回は、2020年3月号に掲載した、「ネジ① ネジの種類って?」から内容を抜粋してお届けします。
インチか、ミリか
普段から頻繁にボートに乗っている人でも、意外と見過ごしがちなのが、ネジの存在である。ネジは、なにかとなにかをくっつけるための部品であり、つまり、なにかがなにかにくっついていれば、そこにネジが用いられている可能性が高いということになる。例えば、ハンドレールやロッドスタンド、航海計器類など。それらは、よく見ないとネジが使われているかどうかもわからないように、巧妙にネジの存在を隠しながら、取り付けられていることがある。そこに、ボートビルダーの職人たちの苦労が垣間見えるのだ。今回は、そんな隠れた巨人でもあるネジにスポットを当てて、話を進めていきたいと思う。
ひと口にネジといっても、数多くの種類がある。その中でも、まず覚えておくべき区別が、インチネジとミリ(メートル)ネジだ。インチネジは、ヤード・ポンド法を採用している国の工業製品で用いられていることが多く、国産のボートには、基本的にミリネジが使われている。インチやミリは、ここではネジ部の太さや、山同士の間隔を表すピッチにおいて使われる単位である。ネジを外したり、付けたりする際に、そのネジがインチネジなのかミリネジなのかを正しく理解することは、基本中の基本といえるだろう。誤ったネジを取り付ければ、最悪の場合、ネジが脱落し、危険を及ぼす可能性もあるのだ。
ネジ山を切る加工をするぶんだけ、胴部分が細くなるため、強度は落ちる。ただ、胴部分すべてが螺旋(らせん)加工されているほうが、さまざまな箇所に使いやすくなる。用途に合わせて、使い分けることが重要だ
ネジ穴の種類も多種多様になっており、必然的に、それに対応するようドライバーの種類も多くなる。プロでない限り、ここまでの種類を用意する必要はないと思うが、よく使うものについては、しっかりと規格にあった、いいものを準備したいところ
そのネジが、インチネジかミリネジかの違いとしては、まず表記が挙げられる。インチネジは、らせん状のネジ部の太さが何インチか、また、1インチの中にいくつネジ山があるのか、といった形で表記される。例えば、「UNC3/4‐10山」だと、太さは4分の3インチで、ネジ山の数は1インチ中10個、という感じである。
対して、ミリネジはというと、「M4×10」などと表記され、太さが4ミリ、長さは10ミリということを意味している。メートル法に親しんでいるわれわれ日本人としては、ミリネジのほうが体感的に理解しやすい規格といえるだろう。
そのほかのネジの種類
単体で見比べたとき、同じ太さのネジであれば、ミリネジのほうがピッチが細かくなるという傾向があるので、一つの目安にしてみてもいいかもしれない。ただし、それも並目の場合のみなので、要注意だ。ネジのピッチには、細目、並目、粗目などがあり、ネジ部が同じ太さであっても、ピッチが細かいものから、一般的なもの、粗いものなど種類がいくつかある。
「ピッチが細かかったり、粗かったりするのにはいくつか理由があります。一つ取り上げるとすれば、ピッチが細かいネジのほうが強度が高いということになるんです。というのも、ピッチが細かいということは、そのぶん、谷が浅くなりますよね。だから、ネジ部の内径が、ほかのピッチのものより太くなるぶん、強くなる、というわけです」(東京ボートのサービス部長、伊藤幸洋さん。以下同)
また、ネジの胴体部分すべてにネジ山を切っているものもあれば、一部のみネジ山が切られたタイプもある。これらに関しても、前述と同様の理屈から、一部のみらせん加工されたタイプのほうが、太い部分が多くなるので、強度は高くなるといえる。
「人がよく触るところ、例えば、電車のつり革などには、通常、長さがぴったりのネジが使われています。ネジが飛び出ていたら、ぶつけたりして危険ですからね。でも、長さがぴったりということは、そのぶん取り付け時に苦労するんです。取り付けるものを押さえながら作業しなくてはならないので。ですから、人がめったに触らないような場所に使うネジは、長めのネジを使って作業したほうが早くて効率的です。あるいは、長く飛び出した部分を切ってしまうという手もありますが、その場合、一度外して再び入れるときに、ネジ部が先細りになっていないので、入れにくいというデメリットがあります」
専門的にネジについて学んだことがない人は、すでにネジの奥深き世界に飲み込まれそうになっているのではないだろうか。とはいえ、ここまでの話はまだまだ序の口。次回以降、さらに詳しく、ネジの世界をのぞいていく。
右のドライバーの先端部は、上から3番、2番、1番、0番。写真のネジ溝は3番に対応している。この場合は、2番のドライバーでも回せなくはないだろうが、適切なサイズでないと、ネジ溝をすぐになめてしまう
大場川マリーナのバンには、よく使われるネジや工具が詰め込まれていた。実際には、ボートでよく使うサイズのネジや工具というのが、ある程度定まってくるという。また、「なべ」「皿」「ボルト」「タッピング」などの文字が見えるが、これらに関しては、別項で解説する
黒とオレンジのハンドルが付いているものも、ネジの一種だ。市場では、「ノブスター」などの名称で出回っている。手で簡単に締めたり緩めたりできるので、一時的に固定したい部分に取り付けられることが多い
(文・写真=BoatCLUB編集部)
※本記事は『BoatCLUB』2020年3月号から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
東京ボート
新艇・中古艇の販売や保管、メンテナンス関連部品の販売、ボート免許取得のための講習など、ボートに関する幅広い業務に携わる。
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