おや? この可愛らしいヨットとイルカ。どこかで見覚えがあるような・・・。
そう、現在発行されている舵社の『マリングッズカタログ2020-2021』の表紙に掲載されているウッドモデルなんです。そして、この作品を製作しているのが、今回ご紹介する前島秀光さんです。
色の異なる数種類の木材を組み合わせ、「組木象眼」という手法で造られるのが前島さんの作品の特徴。この作品の大きな波、ヨット、イルカも、異なる木材を組み合わせた木の固まりから削り出します。
風をはらんだように膨らんだセールも、薄い板を曲げたのではなく、メインセールなら1.5センチ、ジブなら2センチ以上ある厚い木材から、豆カンナを使って、厚みわずか3ミリほどに削り出しています。
神社や仏閣などの欄間(らんま)に見られるような装飾彫刻をする職人さんを、宮彫り師(堂宮彫刻師)というそうですが、前島秀光さん、実は、日本古来の匠の技を受け継ぐ、堂宮彫刻の四代目なのです。
その前島さんが船の世界に入ったきっかけは、月刊『ボート倶楽部』や月刊『Kazi』でもおなじみのイラストレーターのTadamiさんとの出会いでした。Tadamiさんに船に関するノウハウを教えてもらい、自らもディンギーを購入しセーリングをしている中で、船の世界にのめりこんでいったそうです。
そして、宮彫り師としての技を注ぎ込んでヨットやボートのウッドモデルを製作するようになった前島さん。その作品は、他人には真似のできない前島さんオンリーのものといえるでしょう。
ちなみに、プロとして船のフルモデル、ハーフモデルを作る木工師は、日本では前島秀光さんただ1人です。
東京都大田区にある前島さんの工房(前島木彫所)にお邪魔してみました。
工房はご自宅の地下にあり、階段を下りると、木の香りに包まれて、まるで森林浴に来たよう。工房には大小さまざまな、たくさんの道具が並んでいます。それらのほとんどが、前島さんの手作りというのですから驚きです。木工を愛する人にとって、憧れの聖地ではないでしょうか?
彫刻刀で船を彫っている前島さん。作品もさることながら、リズムのよい音と、削り出される木くずにも見惚れてしまいます。
作品の表面は、豆カンナで仕上げていきます。サンドペーパーじゃないんです。前島さんにしかできない匠の技です。
サンドペーパーは、どんなに番手を細かくしたところで、拡大してみれば、結局おろしガネで削って整形するイメージ。鋭利な刃物で整えていくカンナ仕上げとは、たとえ同じ形を作ったとしても、発想が根本から違いますし、仕上げた面の美しさはもう圧倒的に違います。
それこそが前島さんモデルの価値のあるところ。カンナで仕上げてモデルシップを作ることができるのは、たぶん世界でも前島さんだけじゃないでしょうか。
使うカンナは、曲面に合わせてさまざまなサイズを前島さん自ら自作するそう。写真の豆カンナの大きさは、なんと! 3センチほどの可愛らしさです。
舵社 用品事業部では、愛艇のウッドモデルが欲しいというお客さまのリクエストにお応えして、今までたくさんの作品を前島さんに作っていただきました。しかし、その作品はオーナーのご自宅にあり、お見せできないのが残念。ここにあるのは、前島さんの手元にある作品の一部です。
写真後ろに積み重なった木材は、工房で10年は寝かせているとのこと。何十年たっても、曲がったり割れたりすることがない秘訣がここにあります。
前島さんは、格式高い茶道具の世界でも高い評価を受けています。年に何度か木工の仲間と個展も開いています。また、ご自宅では、木工教室も開催しています。
こちらは30年ほど前に作ったというJクラス〈エンデバーII〉のハーフモデルです。船体の曲線と、セールの美しさを忠実に再現しています。
あまりの美しさに無理を言ってお借りし、自宅の玄関に飾ってみました。
なんということでしょう! 玄関が一気に華やかになり、ドアを開けるたびに笑みがこみ上げてきます。
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さて、ヨット&ボートのオーナーのみなさま、前島さんの匠の技で、愛艇のハーフモデル、フルモデルを作ってみませんか? お部屋に飾ったら、ステイホームが楽しくなるのは間違いありません!
ご注文時には、側面図と上面図、実際の写真などをお送りください。素敵なモデルをお作りします。また、ヨットやボートのほかにも、トロフィーや記念楯など、ご予算に応じて注文製作いたします。ぜひ、お手伝いをさせてください。注文製作のため、サイズ、価格、納期などはお問い合わせください。
(文・写真=舵社 用品事業部/大山英里子)