海で出合う鳥たちは、釣り人に魚の居場所を教えてくれる貴重な存在だが、その鳥に魚が付いているかどうかを見極めるのはなかなか難しい。そこで、鳥をヒントに魚の位置がわかるようになるにはどうすればいいのか、編集部コーノがさまざまなボートアングラーに話を聞き、自分なりの答えをまとめてみた。
※本記事は月刊『ボート倶楽部』2022年4月号に掲載された「編集部の自由研究② 鳥の飛び方から魚の位置は把握できるのか?」を再編集したものです。
鳥を見て、魚を探す
いつか釣りたい憧れの魚について、過去に大規模な読者アンケートをとったことがある。そのときはマグロやヒラマサ、ブリ、カジキ、カンパチなどの回遊性のフィッシュイーターが上位を占めていた。迫力のあるファイトや魚体の格好よさから、釣りたいと願う釣り人が多いのだろうと推測するが、そんなフィッシュイーターを探す代表的な方法の一つが、鳥をヒントにする、というものだ。
海の中では、フィッシュイーターとベイトフィッシュ(以下、ベイト)の食物連鎖が常に繰り広げられている。フィッシュイーターは、ベイトを海面付近に追いやり、逃げきれなくなったところを捕食する。海面付近に追い込まれたベイトは、同時に空から鳥たちにもねらわれるが、そのときにできる鳥の群れ(トリヤマ)を見つけることで、間接的にフィッシュイーターを見つけることができるというわけだ。
トリヤマが、フィッシュイーターたちの居場所を教えてくれる目印の一つであることは間違いないが、いつもあちこちでトリヤマが発生しているわけではない(そうだったらどれだけ幸せなことか)。むしろ、ただ別の場所に移動しているだけだったり、釣り人からおこぼれをもらおうと旋回しているだけのことも多く、やみくもに鳥を追いかけていては燃料の無駄遣いになってしまう。
したがって、効率的にフィッシュイーターを探すには、”あの鳥には魚が付いている”、”あれはただ移動しているだけだ”というのがわかることが重要になってくる。
ボート釣りをしていると、写真のように浮いてずっと付いてくる鳥がいる。これは、ボロボロになったエサや本命じゃない魚を釣り人が放るのを待っているのだ。個人的には、こういう鳥が周囲にいるときは、あまり釣れない気がする
月刊『ボート倶楽部』筆者たちの見解
というわけで、ベテランボートアングラーたちに、トリヤマや鳥についていろいろと話を聞いてみることにした。まずは、ベテランボートアングラーの森安正樹さんから。コーノ「トリヤマってどうやって探すんですか?」
森安:
「トリヤマかぁ。正直あんまり詳しくないんですけど・・・潮目にできることが多いですよね。潮目って、プランクトンがたまる場所なので、それを求めて小魚が集まって、さらにその小魚を求めてフィッシュイーターたちが集まります。なので、潮目に沿ってトリヤマができることは、結構あるんですよ。ただ、東京湾は、他船の航跡が潮目みたいに見えることもあったり、すべての潮目に魚が付いているわけでもないし、そもそも潮目を探さないといけないので、なんともいえませんけどね」
コーノ:
「飛んでいる鳥を見ていて、あの先にトリヤマがあるなってわかることもあるんですか?」
森安:
「うーん、なんか、こう、『魚を食うぞ』って雰囲気を出している鳥は、たまにいますよね。なんというか、こう、強い意志をもって飛んでるというか・・・」
*
「魚を食うぞ」っていう強い意志を持った鳥か。なんだかわかったような、わからないような(笑)。くじけずどんどん聞いていこう。
数万羽にもおよぶ鳥の群れに遭遇したときの様子。飛んでいるのはボートが近づいたからで、多くは海にぷかぷか浮かんでいるだけだった。しかし、意味もなく休んでいるのかというとそうではなく、魚探にはベイト反応がたっぷり映っていた。おそらく、魚が浮いてくるのを待っているのだろう
こちらは、浮かんで休んでいる鳥と、激しくベイトを追いかけている鳥が混在している様子。写真だとわかりづらいが、鳥は潮目に沿って飛んでいた
お次は、貸しボート釣りでおなじみのMr.ツリック。
コーノ:
「師匠(ツリックの編集部内での愛称)、鳥の飛び方で知っていることはありますか?」
Mr.ツリック:
「ありませんナ」
*
そうか、そういえば、師匠がトリヤマを探してボートを走らせているようなシーンは、あんまり
見たことがなかったな。
続いては、ダイワ・フィールドテスターの小野信昭さん。聞いたのは、連載「そんなの無理ナンダイッ!?」取材中だ。
コーノ:
「遠くの鳥の飛び方を見ていて、近くにナブラがあるとか、魚がいるとかってわかるんですか?」
小野:
「わかるよ! ほら、ちょうどあそこに鳥が見えるけど、あれはたぶん何かを捕食しているか、魚が上がってくるタイミングを見極めているようなところだと思うよ。海面の様子をうかがっていて、同じ場所をぐるぐると回っていたり、海の中の何かの動きに合わせて飛ぶ方向を変えたりするのがわかるでしょ」
コーノ:
「ほんとだ、海中のベイトの動きに合わせて飛んでいるように見えますね。森安さんの言っていた『魚を食うぞ』っていうのは、こういうことだったのか」
海面付近にいるベイトにねらいを定め、ホバリングしているカモメの仲間。小野さんの言うように、海の中をうかがっているのがわかる
しばらくタイミングを見計らっていたが、意を決したように海に飛び込んだ
その口には、カタクチイワシが!
海上で鳥を見つけたら
少しずつ、鳥についての知識は深まっていったが、まだまだわからないことがある。というわけで最後に、月刊『ボート倶楽部』筆者陣の中で最も鳥に詳しいと思われる、オフショアアングラーの小谷健志さんに聞いてみた。
コーノ:
「無視してもいい鳥っているんですか?」
小谷:
「よく沿岸にいる脚の赤いアジサシは、シラスを食べているので、マグロやカツオのような大型の青ものをねらっているときは無視します」
コーノ:
「一羽の鳥でもちゃんと気にしたほうがいいんですか?」
小谷「ほかに何もヒントになるようなものがなければ、ついて行ったりもしますね。ときどきビックリしたように、おっとっとっていうふうに飛ぶことがあるんですけど、そのあとに近くでドカッてボイルが出るときがあるんです。なので、どんな鳥でもいたらどういうところにいたのか、つまり潮目があったかとか、水温はどうかっていうのは気にしたほうがいいです」
前方を向いて、高いところを真っすぐ飛んでいるような鳥自体は、それほど重要ではないかもしれない。とはいえ、その鳥がどこにいたのかや、向かっている先などは気にしておいたほうがいいだろう
おそらく、リアルに出合う可能性の高いトリヤマはこのくらいの規模のものだろう
遠くにトリヤマを発見! と思いきや、これは養殖イケスに付いた鳥の群れ。このほか乗合船や底引き網漁船のおこぼれをねらっている鳥の群れもあるので、判断は慎重に
コーノ:
「高いところを真っすぐ飛んでいる鳥は、ついて行ったらいいことありますか?」
小谷:
「んー、そういうのは、そんなにチャンスじゃない気がします。サワラがいるときは、高いところで旋回しているような飛び方をするときもありますが。低めの高度で、急いで飛んでいるような鳥の先を見るとトリヤマが出来ていることは多いですよ。いずれにせよ、トリヤマとかナブラの上にボートをつけるとベイトは沈んでしまうので、遠くから様子をうかがうようにしてください。まぁでも、やっぱりなんていうか、魚が付いてる鳥っていうのは、そういう雰囲気がでるんですよね、オーラというか、においというか」
オーラ? におい? なんとも抽象的で、わかりづらい!
小谷「オフショアの釣りばかりやっていると、わかるようになるんです。なんかいつもと違うなとか、一日釣りやって、あの鳥はちょっと気になるな、みたいな。始めてすぐにわかるようなことじゃないから、とにかく場数を踏むのが大事だと思いますよ!」
やっぱり一朝一夕でわかるような世界ではないのかー。とはいえ、ヒントはあった。それに偶然にもこの数カ月で鳥の写真を山ほど撮影することができた。これらを参考にこれからも鳥を観察して、戦闘モードに入った鳥のオーラを見極められるように、頑張ってみよう。
遠州灘で出合った、ミズナギドリの仲間と思われるトリヤマ。ベイトに合わせて高速で移動しており、ボートで追いかけるだけでもひと苦労だった
ミズナギドリの仲間は、水面の気流を利用して飛ぶのが得意。そのため、低いところを飛ぶ姿が目立つ
このとき釣れたのは、カツオ
研究結果
海中のベイトに合わせて不規則な飛び方をしている鳥だったり、戦闘モードに入って“オーラ”を放つ鳥が魚の居場所を教えてくれる。ただし、それがわかるようになるためには何度も海に出て、経験を積む必要がある。
(文=BoatCLUB編集部/幸野庸平 写真=BoatCLUB編集部)
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