■28艇が40度帯を航く
11月24日。シャルリー・ダラン(36歳/男性/フランス)の〈APIVIA〉がトップで南緯35度(ケープタウンの緯度)を通過。
最後尾から追うジェレミ・ベユー(44歳/男性/フランス)の〈CHARAL〉も、12月6日には南緯35度を越え、この時点でリタイアしていた〈CORUM L’EPARGNE〉と〈HUGO BOSS〉を除く31艇が吠える40度を東へ進む第3幕に顔を揃えた。
トップをひた走るシャルリー・ダラン〈APIVIA〉
photo by Charlie Dalin / Apivia
そして昨日、12月10日21:00(UTC)。スタートから32日と9時間後のポジションがこちら。
南アフリカ沖で、〈PRB〉、〈INITIATIVES-COEUR〉、〈ARKEA PAPREC〉と、有力艇が次々にリタイアし、現在は28艇。
先頭を航く〈APIVIA〉で、東経94度7分まで進んでいる。
前回(2016-2017)は、スタートから32日後というと、トップ艇は東経150度付近まで達している。
日数にすると6日ほど遅れている計算だ。
南大西洋に入ってから、安定した風に恵まれなかったこと。あるいは、艇速に勝ると思われていた最新世代艇が次々リタイア、あるいは修理のために遅れたこと。……などが原因だろう。
■50ノットの風の中
逆に、最後尾は前回(2016-2017)とほぼ同じペースといえる。
ということで、28艇の艇団は、先頭から最後尾まで、かなり詰まっている。
特に先行の11艇は密で、1位の〈APIVIA〉と2位の〈LinkedOut〉は経度にしてわずか3度40分。
そこからわずか2度30分後方には、ノン・フォイルの3艇を含む6艇がダンゴ状態で迫る。
(ちなみに、緯度の1分が1マイル、1度は60マイルだが、経度のほうは、南緯45度だと1度は約42マイルになる)
このコースを、東にボトムマークがあるダウンウインドレグと考えると、南北に広がった3位争いの艇団の動きがおもしろい。
12月9日夜の〈APIVIA〉の動きも、風の振れに合わせて後続艇をカバーするという、戦略/戦術的なレース展開となっている。それも、風速50ノットの前線を前にして……。
■後方集団は…
後続の第1集団は、かなりばらけてきた。
12月7日 0330(UTC)。
やはり、フォイルの有り無しで艇速差があるようで。まずはフォイル艇4艇が集団で抜け出す。
12月7日 1535(UTC)には〈L’OCCITANE EN PROVENCE〉が一番南から、その艇速にものを言わせて前に出る。さすが、2020年進水の最新世代艇だ。
そのままアイスゾーン沿いに東進できた〈L’OCCITANE EN PROVENCE〉に対し、後続艇は上りになってしまったようで、一旦タックして北へ出さざるを得なくなった。
12月10日 0400(UTC))。さらには、先行艇団からこぼれてきたロマン・アタナシオ(43歳/男性/フランス)の〈PURE - Best Western®〉、クラリス・クレメール(30歳/女性/フランス)の〈BANQUE POPULAIRE X〉に迫ろうという勢いだ。
次週のレポートでは、後続第1艇団は完全にバラバラになっているかもしれない。
■コージローが追う
後続第2艇団はかなり固まっている。
先頭は、スタート後すぐにハリヤードのトラブルで引き返したファブリス・アメデオ(42歳/男性/フランス)の〈NEWREST - ART & FENÊTRES〉。
艇は元〈No Way Back 〉。前回(2016-2017)Pieter Heeremaが乗って17位で完走した艇で、このときの優勝艇〈Banque Populaire〉(今先頭艇団にいる〈Bureau Vallée 2〉)のシスターシップだ。
ということで、潜在能力は準最新艇。
9日遅れで再スタートを切ったジェレミ・ベユー(44歳/男性/フランス)の〈CHARAL〉もいよいよ追いついた。優勝候補の一角を占めていた艇で、壊れたラダーはスタート地点まで戻ってキッチリ修理を終えている。つまりバリバリの最新世代艇。
今日のポジションが東経8度45分。1日10度と計算すると……東経98度に達し、つまりトップに立っていたはず。
やっぱり速い。
戦線復帰し追走を続けるジェレミ・ベユー〈CHARAL〉。ベユーが手にするのは、スポンサーである食品メーカー「CHARAL」の製品
photo by Jeremie Beyou / Charal
そして、やはり修理で遅れた白石康次郎の〈DMG MORI GLOBAL ONE〉が、その中間にいる。
破れたメインセールの修理は洋上での応急的なもので心許ないが、一昨日から非常に良いペースで前に出てきている。
そもそもはオートパイロットのトラブルからワイルドジャイブとなり、メインセールを破いてしまったわけで。そのオートパイロットはMAD IN TEC製(下の写真)。
photo by Yoichi Yabe
多くの外洋レーサーが採用しているので信頼は高いブランドのようだが、他の艤装と違って "電気信号" という目に見えない部分だけに、厄介だ。
先頭艇団で2位争いをしていたルイ・バートン(35歳/男性/フランス)の〈Bureau Vallée 2〉も、12月7日、電気系統のトラブルで順位を落としている。電気系統というより、電子系統と言ったほうがいいのか。
……と、訳ありの3艇を含む最後尾の艇団は着実に追走し、後続第1集団最後尾のピップ・ヘアー(46歳/女性/イギリス)〈MEDALLIA〉も見えてきた。……いや、まだ結構あるか。
吠える40度は、まだまだ続く。
「ヴァンデ・グローブ 第3幕」は始まったばかりだ。
(文=高槻和宏)
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高槻和宏(たかつき・かずひろ)
1955年生まれ。神奈川県在住。ヨット、ボート、カヌーなど、ジャンルを問わず海を遊ぶマリンジャーナリスト。月刊『Kazi』の人気筆者として、長年さまざまな記事を手がける。『虎の巻』シリーズ、『ヨット百科』など、ヨットに関する著作多数。