第36回アメリカズカップの舞台から、われらがディーン・バーカーが去ってしまった……。
前大会で日本チーム、ソフトバンク・チーム・ジャパンを率いた、ディーン。第35回アメリカズカップ・ワールドシリーズ・福岡大会の現場、博多の地行浜で、その雄姿を間近で見たセーラーも多かったことと思う。
今大会は、名門ニューヨーク・ヨットクラブから参戦したシンジケート「アメリカンマジック」のヘルムスマンとして、参戦艇〈パトリオット〉のヘルムスマンを任されたディーンは、プラダカップ(アメリカズカップ挑戦者決定シリーズ)のダブルラウンドロビン3日目に大事故を起こし、最前線から離脱した。
痛ましい事故ではあるが、悲しみを押し殺し、その一部始終を検証していきたいと思う。
事件はプラダカップ・ラウンドロビンDAY3に起こる。アメリカンマジックの〈パトリオット〉(アメリカ。ポートエントリー)、ルナロッサ・プラダ・ピレリの〈ルナロッサ2〉(イタリア。スターボードエントリー)のマッチレース。日本人ファンの多いディーン・バーカーは左端だ! 余談だが、イタリアのヘルムスマン、ジミー・スピットヒル(右端)って、サイボーグっぽくないですか? プーチン大統領的な
プラダカップラウンドロビン3日目、第3レース。スタートはイタリアに先行されるも、第1レグの風上ゲートからリードしたアメリカチーム。その第5レグ。ポートタックで風上ゲートにエントリーするアメリカチームは、左マークを回航するため、タッキングを選択した
風上ゲートのランディングでタッキング。このとき、イタリアチームとの差は500m。ほぼ盤石なリードであったが……
いわゆる、「タッキング、即ベアダウン」。セーラーならば誰しも思う「危険」なシークエンスだ……
激しくバウを振り上げ、ノーズダウンした〈パトリオット〉。スタビリティー(復原力)の多くを、フォイル(水中翼)に頼っている最新世代のフォイリングヨット、AC75は、艇速がなくなったときほど、その復原力を失い、キャプサイズ(ノックダウン)してしまう。このとき、〈パトリオット〉は、ランニングバックステイのトラブルで風下側のランナーをリリースできず、さらに複合的に起こったメインシート・トラブルによって、ベアアウェイ時のメインシート・リリースができなかった……
photo by COR 36 / Studio Borlenghi
力なくノックダウンした〈パトリオット〉
まさかの〈パトリオット〉(右端)のノックダウンに驚き、異常なオーバーセールを見せた〈ルナロッサ2〉(イタリア。左端)
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沈した〈パトリオット〉に集まる、全チームのサポート艇。緊急時には敵も味方も関係ない! マリンスポーツの「当たり前」な光景である
防衛チーム、エミレーツ・チームニュージーランドのヘルムスマン、ピーター・バーリングが率先して〈パトリオット〉に乗り込み、危険なロープをナイフで切断した
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事故のあった1月17日。バウセクション左舷に大きな穴をあけてしまった〈パトリオット〉
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そのおよそ2週間後。2月1日に不死鳥のごとく返り咲いた〈パトリオット〉
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協力してくれたライバルチームに敬意を表し、各チームの国旗で陥没箇所に絆創膏を貼ったアメリカンマジック。こういう心意気、まじで泣ける!
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その後、修理はできたものの肝心なアップデートまでは手が回らず、精彩を欠いた走りでセミファイナルで敗れたアメリカンマジック
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はっきりいって、アメリカズカップ・ワールドシリーズのディーンは冴えまくっていた。
プラダカップ・ラウンドロビンでは不運な事故で戦線から離脱した。
それでも、ACファンの心に大きな爪痕を残してくれたディーン。
われらがディーン・バーカーよ。最高のアメリカズカップをありがとう!!!!!
(文=Kazi編集部/中村剛司)
※関連記事は月刊『Kazi』2021年4月号にも掲載予定
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