日本の海に姿を現した全長46mのスーパーヨット|〈APRIES W〉の世界

2024.01.24

近年、日本でもにわかに脚光を浴びているスーパーヨット。一般的にスーパーヨットは「個人が所有する全長24メートル以上のプライベートヨット」と定義されるが、ミリオネア、いやビリオネアと呼ばれる超富裕層が所有する巨大なプライベートヨットは、究極のインバウンドの一つとして、大きな経済効果をもたらすことが期待されている。日本の場合、停泊地などハード面(インフラ)の問題、寄港後に快適に楽しむためのソフト面の問題、さらには法律や規制の問題など、数多くの障壁があることは否めないが、行政も巻き込んで誘致活動が行われたり、いくつかの法律上の規制緩和が実現するなど、世界基準に向けて着実な変化が見られる。

2019年には2桁を超える数のスーパーヨットが訪日。コロナ禍で中断したものの、アフターコロナの2023年、海外から日本へやって来るその数は、再び上昇カーブを描いている。

2023年、日本に長く滞在した〈APRIES W〉も、そんな海外艇の一つ。2023年晩秋の横浜で、日本での寄港に際してサポート業務を行ったSYLジャパン社(代表:稲葉健太氏)の協力の下、この巨大なプライベートヨットの船内に入り、撮影させていただくという非常に貴重な機会に恵まれた。

 

〈APRIES W〉は全長46メートルのモーターヨットで、イタリアのサンロレンツォで2012年に建造された。エクステリアデザインは、同じイタリアのフランチェスコ・パスコフスキーが担当し、船体はスチール製、上部構造物はアルミ製。トライデッキの壮観な威容を誇る、美しいスーパーヨットである

 

エンジンはCAT 3512B(2,040馬力)の2基掛けで、最高速度は17ノット。60,000リットルの燃料タンクを有し、連続航行距離は約4,800マイルと、世界の海を舞台に長距離航行も可能な性能を誇る

 

船内へのエントランスとなる、メインデッキ後方のスペース。左右の通路を進んでいくと、アッパーデッキにアクセスすることができる

 

船内の各フロアには、広大なサロンスペースが用意されている。写真はメインデッキのサロン。前方の右側には通路があり、階段を挟んでその前方には、広大なオーナーズルームが設けられている

 

今回、普段はまず見ることのできない巨大プライべートヨットの撮影を許可されたわけだが(もちろんオーナーズルームはNG)、その驚きの世界を以下の写真でじっくりとご覧いただきたい。

 

アッパーデッキの後方には、広々としたオープンエアのスペースが設けられている。日光浴を楽しむには最適なエリア。チーク張りのデッキが美しい。船の上のどこにいても、オーナー、そしてゲストが特別な時間を過ごせるようになっている

 

アッパーデッキの船内空間は、後部に大きなラウンジエリア。テーブルなど船内のデコレーションは、オーナーの滞在中は毎日変えるのだそうだ。この部屋の前方は、オーナーやゲストが利用する空間とはセパレートされていて、キャプテンズルームとヘルムステーション(操船席)が配置されている

 

アッパーデッキの一番前に、最新の機器が並ぶヘルムステーション。8台のカメラが映し出す映像を、常にモニタリングできる。

 

居住空間としては、オーナーズルーム以外に、写真のようなゲストルームが四つ設けられており、最大10人がゆったりと快適に過ごせるようになっている

 

艇を安全に運航し、オーナーと特別なゲストをもてなすためのクルーは9人。乗船中はオーナーやゲストの目に触れず、それでいてすぐに動ける場所にいるということが、スーパーヨットのクルーには必須の心得。高いプロ意識の下、安全な運航を実現している。

〈APRIES W〉は台湾を拠点とし、シンガポールなど、アジア圏を中心としてクルーズを楽しんでいる。今回は6月に基隆(台湾)から2日間で石垣島に到着。その後、西宮や和歌山、横浜へと寄港しながら、日本の海を満喫してきた。

 

台湾のSavanna Yacht Management社が運航管理を請け負っており、キャプテンは張 浩藝さん(32歳/写真右)と張 博凱さん(38歳/写真左)の二交代制。クルーは台湾人によって構成されており、みな年齢が若いことが印象的だ

 

エンジンルーム脇の部屋では、エンジンや電気系統などを、常にクルーがモニタリングしている

 

 

「日本は治安もよく、観光地もたくさんあって、とてもすばらしい目的地だと思います。海もとても美しく、釣りが好きなオーナーも大変喜んでおられました」(張 浩藝さん)

「〈APRIES W〉は、進水から10年が経ちましたが、とても洗練されたデザインが特徴的です。一方で、航海機器などは最新のシステムを導入しており、安全に、そして快適に航海ができるようになっています。香港から台湾に向かう際には、最大風速30m/sの嵐に遭遇しましたが、安全にやり過ごすことができましたよ」(張 博凱さん)

一方、改善点についても次のように語る。スーパーヨットの誘致を日本が進めていく上では、耳を傾けるべきだろう。

「例えば、3カ月とか半年とか、長期間連続で留められる場所がほとんどないのは残念です。スーパーヨットの寄港地は、補給や修理の拠点であることが求められますし、長期滞在しながら、ヨットを拠点として観光を楽しみたいというニーズもあります。また、船に発電機はありますが、係留地には給電設備も必須です」(張 博凱さん)

取材を終えた翌週(2023年11月)、同じ横浜の新港ふ頭8号ビジターバース(ハンマーヘッド)には、全長72メートルの別のスーパーヨットが寄港していた。世界には約10,000隻を超えるスーパーヨットが動いているというが、彼らにとって、日本が魅力的な目的地の一つとなることを願ってやまない。 

 

(文=舵社/安藤 健 写真/ドローン写真=松本和久 協力=SYLジャパン)
special thanks to M/Y APRIES W & Savanna Yacht Management

 

【M/Y APRIES W】

〇全長:46m
〇全幅:9m
〇喫水:2.6m
〇総トン数:499t
〇燃料搭載量:60,000L
〇清水搭載量:17,000L
〇ハル:スチール製
〇エンジン:CAT 3512C(2,040馬力)×2
〇最高速度:17kt
〇巡航速度:13kt
〇進水:2012年
〇建造:サンロレンツォ(イタリア)

 


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