月刊『ボート倶楽部』では、2019年から「フネのDIY術」という記事を連載し、東京ボート(埼玉県八潮市)のベテランスタッフの協力のもと、ボートに関するDIYの技術や船体に対する情報をお伝え中。今回は、2019年10月号に掲載した、「磨き② ポリッシャーってなに?」から内容を抜粋して、フネの磨きに関する情報をお届けします。
<CAUTION>
研磨することで、表面に傷がついたり、塗装がはがれるなどの損傷が生じる場合があります。リスクをしっかりと認識して、作業は自己責任で行ってください。
ポリッシャーは必須?
今月も、前回に引き続いて、東京ボートの伊藤幸洋さんにお話を伺いながら、船体の「磨き」について話を進めていく。今回のメインテーマは、ポリッシャーだ。
ポリッシャーとは、円盤状のバフを高速回転させるための道具。マリーナを歩くと、ポリッシャーで船体を磨いている整備スタッフの姿をよく見かけるが、そもそも、磨き作業を行うには、このポリッシャーが絶対に必要となるのだろうか。
「ポリッシャーを使わずに、ポリッシャーと同じ効果を得る方法が一つだけあるんですが、なんだと思いますか? 答えは、『ポリッシャーと同じ速度でバフを動かして磨く』、です(笑)。結局、ポリッシャーも手磨きも、やっていることはほとんど同じです。時間があるなら、手磨きで30フィート艇の船体を全部磨くことだってできますし、失敗も少なく、フネにも優しいと思います。ただ、それだと、終わるころには、最初に手を付けた部分はくすみ始めているかもしれません(笑)」
効率を考えるなら、やはりポリッシャーは必要だ。しかし、ポリッシャーは機械なので、当然、気をつけなくてはならないことがある。
「ポリッシャーを高速回転させて、長時間、同じところに当て続けると、摩擦で熱を持っちゃうんです。熱を持つと焼けます。焦げて、変色するんです。触ってみてください。ほら、熱いでしょう」
そう言われて、強く押し付けてバフがけをした板を触ってみると、やけどしそうなくらいの熱さで、茶色く変色していた。しかも、ちょっと焦げ臭い。もし、こうした焼けを回避したいなら、速度調整可能なポリッシャーで、低速回転にして作業すればいい。あるいは、押し付ける力を弱くしたり、常にポリッシャーを動かしたりする。バフに、スポンジのような柔らかいものを使うのもオススメだ。
ちなみに、こうしてポリッシャーで研磨作業をすることを「バフがけ」と呼ぶが、バフがけのコツについても、伊藤さんに聞いてみた。
試しに、表面にゲルコートを塗布した板の切れ端を用意
バフの角度を付けて、10秒ほど、力強く押し当てると……
摩擦熱で焦げて変色してしまった。完全なる失敗だ
バフがけのコツ
まず、船体にバフがけを行うときには、コンパウンドをバフか船体に塗りつけるが、そのままいきなりポリッシャーを作動させると、コンパウンドが周囲に飛び散ってしまう。そのため、ポリッシャーを回す前に何度か船体にたたきつけるようにしてなじませるといいだろう。
また、バフがけするときは、基本的には面で当てるようにする。角を使ったほうが汚れ落ちはよくなるが、削りすぎてしまうリスクもあるし、ムラの原因となる。また、作業しやすいように、逆さにしたビールケースの上に乗ったり、「馬」と呼ばれる作業台を使うと、無理な姿勢にならず力が入りやすい。
このような無理な姿勢では、体力を消耗するし、なによりバフを面で当てられなくなってしまう
高さを確保するには、ビールケースを裏返したものや、左のアルミの階段タイプの作業台がうってつけ
「馬」と呼ばれるこの種の作業台は、横移動に適している。脚立に木の板を渡したもので代用している人もいるが、不安定で作業効率が悪くなる
ある程度の範囲でバフがけが終わったら、ムラができていないか、逐一、マイクロファイバークロスやタオルできれいに拭き取ってチェックしよう。このとき、船体表面には、まだコンパウンドが残っているため、厳密にいえば、コンパウンドを拭き取る動作だけで、表面に傷がついてしまうことをお忘れなく。また、万一、地面に落として砂粒のついたウエスで拭いてしまったら、傷だらけになるので要注意。ちなみに、水で洗い流してもいいが、次に研磨する範囲に水がついていると作業できないため、きれいに水分を拭き取る必要がある。
バフの素材も重要だ。主に、ウールとスポンジ(ウレタン)があるが、スポンジよりもウールのほうが硬い。硬い素材のウールバフで磨けば、研磨力は高まるが、熱を持ちやすくなるし、柔らかいスポンジで磨けば、研磨力は落ちるが、熱は持ちにくくなる。ただ、伊藤さんは、スポンジだと、コンパウンドを含みすぎてしまい、多量のコンパウンドが必要になったり、汚れやすくなるので、あまり好きではないと語っていたことは記しておく。
バフは、バフホイールと呼ばれることもある。右がスポンジ(ウレタン)で、左がウールだ
大場川マリーナで使用しているマイクロファイバークロス。さまざまな柔らかさのモノを用意している
これまでのことをまとめると、いろいろな要素(ポリッシャーか手作業か、ポリッシャーの回転速度、バフの素材など)を組み合わせて、「失敗のリスク」と「効率のよさ」の間のちょうどいいところを見つけることが重要となる。あとは実際にやってみて、やりやすい方法や道具を選べばいいだろう。
バフがけしにくい段差や溝のような箇所は、ミニサイズのポリッシャーを使うか、手作業で行う
(文・写真=BoatCLUB編集部)
※本記事は『BoatCLUB』2019年10月号から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
東京ボート
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