月刊『ボート倶楽部』では、2019年から「フネのDIY術」という記事を連載し、東京ボート(埼玉県八潮市)のベテランスタッフの協力のもと、ボートに関するDIYの技術や船体に対する情報をお伝え中。今回は、2019年8月号に掲載した「FRP⑤ 施工で最も大事なことって?」から内容を抜粋して、FRPに関する情報をお届けします。
ていねいな脱泡
前回、不運にもあなたの愛艇の艇体が損傷したと仮定して、FRP補修の具体的な作業について解説を始めた。そこで、最初に行う工程で最も大切なのは、「目標を決める」ことだと述べた。というわけで今回は、できる限り元の状態に戻す、という目標を設定して、話を進めていきたい。
基本的には一番下の「FRP施工の手順」の通り。
損傷がどこまで広がっているかを確認するために、目に見えているより広い範囲を削っていくことは、前回説明した。その工程には、損傷範囲の確認だけでなく、艇体と、新たに積層するFRPの接着を強固にするという意味もある。
例えば、大きく開いた穴をFRPで埋めていくとき、穴の部分にだけFRPを重ねていっても、接着面が少なく、すぐにはがれてしまうのは容易に想像できる。穴の周囲を緩やかに傾斜ができるように削れば、そのぶん新たに積層するFRPとの接着面が増え、FRPがはがれにくくなるのだ(下図)。
施工する船体側の面を緩やかに傾斜ができるようにしておくことで、接着面が増える。また、表面をざらざらにし、十分に脱脂することも大切だ。分厚い箇所の場合は、パテで底上げしてからFRP積層していくこともある
開いた穴をふさぐには、まず裏当てをしてから作業を行う必要がある。裏当ては、金属の薄板など、表面が平滑で硬く、樹脂に侵されないものならなんでもいい。裏当てのオモテ面に離型剤を塗り、損傷箇所に当てて裏側で固定。裏当てのオモテ面にウールローラーでポリエステル樹脂を塗布し、穴より少し大きいくらいのガラスマットを置き、さらにポリエステル樹脂を塗布して、ていねいに脱泡する。この脱泡が、FRP施工の最も重要な工程の一つといっても過言ではないと、東京ボートの伊藤幸洋さんは言う。
「脱泡をしっかりしておけば、あとで削るときに平らになりやすいんです。気泡が入っていると、でこぼこになるわけですから。もちろん、気泡の有無は強度にも関わってきます」(伊藤さん、以下同)
脱泡は、時間に追われる作業となるが、ていねいな仕事を心がけたい。ちなみに、1プライ(層)目の気泡を、2プライ目の脱泡で取り去ることはできないので要注意。
「上手な人は、穴の形状に合わせたガラスマットを置いていって積層します。そうすることで余計なでこぼこができず、そのあとに、削るぶんを少なくすることができます。結局、削るだけで平滑にすることはなかなか難しく、微細なキズにはパテを入れますが、パテにはガラス繊維が入っていないので、強度が落ちてしまうんです」
十分な下処理
脱泡と同じくらい重要なのが下処理だ。この場合の下処理は、施工面のサンディングと脱脂を指す。
「施工する船体側の面は、サンダーでサンディングして、表面をざらざらに粗くしておきます。また、アセトンなどで、その表面の油脂を取っておくことも重要です。離型剤も、要は油脂分ですからね。結局、艇体と新しく積層するFRPは樹脂の粘着力でくっついているので、艇体側の面がつるつるだったり、油脂分が付着していれば、接着力は弱くなってしまいます」
最後にFRPを施工するうえで、大切な心構えを伺った。
「汚さないようにする、といいと思います。樹脂を使ってペタペタと貼っていく作業なわけですから、作業エリアはとかく汚れがち。僕は手袋を2~3枚重ねて装着して、汚れたら取っていくようにしています。汚れた手でいろいろなものを触っていくと、余計なところに樹脂が付いたりしますから」
凝固剤が入った樹脂が、仮に近くに置いていた道具に付いてしまったとする。樹脂は化学反応を起こし、熱くなっていくので、次にその道具を使おうとしたときに熱くて持てなかったりする。そうこうしている間に、肝心の施工箇所が固まってしまって作業をやり直さなくてはいけなくなることも。もちろん、船体のきれいな部分に樹脂が付けば、見た目が悪くなり、削ったり再塗装したりする必要も出てくる。
「僕が見ていて、上手だなと思う人は、やっぱり周辺がキレイな人が多いです。それは、道具がきちんと整頓されていたり、必要な道具が近くに置かれていたり、切った繊維をそのままにしていなかったり。また、上手な人は、材料を無駄にしないような気もしますね」
FRP施工の手順
①離形剤を塗布した裏当てに、樹脂を塗る。写真では、裏当てに一斗缶を穴に合わせて切ったものを使用
②穴より少し大きいサイズのガラスマットを置き、ポリエステル樹脂をローラーで塗りつけていく
③ていねいに手早く脱泡。ガラスマットのサイズを徐々に大きくしていきながら、この工程を繰り返す
④表面のでこぼこをパテを使って埋めていく。パテは削っては塗りを繰り返すと、仕上げがキレイだ
(文・写真=BoatCLUB編集部)
※本記事は『BoatCLUB』2019年8月号から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
※「フネのDIY術」過去記事
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