月刊『ボート倶楽部』では、2019年から「フネのDIY術」という記事を連載し、東京ボート(埼玉県八潮市)のベテランスタッフの協力のもと、ボートに関するDIYの技術や船体に対する情報をお伝え中。今回は、2020年4月号に掲載した、「ネジ② さらなるネジの種類って?」から内容を抜粋してお届けします。
なべ? さら?
「基本的には、ネジの胴体の部分の太さ、ピッチの幅、ピッチの粗さ、頭部の形状などの組み合わせになるので、ネジの種類はそれこそ無限にあると思います。ステンレスや鉄、真鍮(しんちゅう)、樹脂などの素材の違いもありますし、ネジ溝のプラスやマイナスの違いもそうですよね」
そう語るのは、東京ボートのサービス部長の伊藤幸洋さん。前回に続いて、奥深きネジの世界について語っていただいた。
「ネジの太さやピッチ幅については前回お話ししたので、今回はネジの頭部について解説したいと思います。さて、ネジ溝のプラスとマイナスの違いはわかりますか? 一般的には、ほこりが多い現場では、マイナスを使ったほうがいいといわれています。溝が両端まで走っているので、ほこりやゴミが取れやすいんですね。でも、プラスのほうが、ドライバーとの接触面が大きいので、回すトルクは大きくなります」
ピッチ幅がわからないネジのピッチを計るときに使う、ピッチスケール
だいたいのピッチ幅を予想して、スケールを当てて確認していく。ミリネジとインチネジで、似たようなピッチ幅のものもあるので、要注意
頭部の形状やネジの留め方によってさまざまな種類や呼び名がある
ネジ頭部については、次に形状の違いが挙げられる。上の写真を見ていただきたいが、「なべ」「さら」「トラス」などがあり、あらためて用途を確認しておきたい。
「なべ」はいわゆるスタンダードな頭部形状のもので、お鍋をひっくり返したような形をしている。「さら」は浅皿に近く、真横からみると逆三角形をしていて、ネジの頭が外に飛び出さないため、締結面がフラット(いわゆるツライチ)になる。「トラス」は頭部の径が大きいため部材との接地面が広く、しっかりと留めたいときなどに用いられる。また、トラスは安全面やデザイン的な意図で用いられることもある。
ボルトとタッピング
ネジにはさらに、ボルトとタッピングの区別がある。
「ボルトは、基本的にナットと組み合わせて用いられます。穴の開いたところにボルトを通して、ナットを締めて締結していく、アレです。タッピングっていうのは、木やFRPなどに、穴を開けながら、キリのように入っていくタイプのもの。木材など柔らかい部材の場合は、そのままタッピングをねじ込んでいくこともありますが、基本的には、タッピングを使用するときは下穴を開けます。その下穴の大きさをどうするかは、かなりの経験が必要になると思います」
ネジの種類をいうときは、さきほどの頭部の形状と合わせて、「さらボルト」「トラスタッピング」などと呼ぶので、覚えておこう。
ロッドホルダーなどを取り付けるマウント。四隅を、プラスのネジ溝のさらボルトでしっかりと留められている
マウントの裏側。写真ではわかりづらいが、ナイロンナットが用いられている。バックプレートと呼ばれる金属の板は、締め付ける力を分散させるためのもの
また、部材自体に雌ネジ加工を施してボルトを取り付けたり、ボルト自体が雌ネジ加工を施せるようになっていて、ナットを必要としないものもある。ネジは、各メーカーの努力などもあり日々進化を遂げていて、便利で性能の高い商品が次々に誕生している。DIYに興味のある人は、こうした新商品についても、情報を仕入れておきたいところだ。
さて、ナットについてはどうだろうか。
「もちろん、ナットにも種類があります。一般的なナット、袋ナット、蝶ナット、ナイロンナットなどなど。特に、ナイロンナットは、振動の多いフネではよく使われるナットです。通常のナットとボルトの組み合わせでは、振動を受けると、次第に緩んでしまうんですが、ナイロンナットや、ナットを二つ使うダブルナットなどを用いれば、振動があっても緩みにくいんです」
ナットの一例。蝶ナットは手でも回すことができ、袋ナットは安全やデザイン面から利用される。ナイロンナットは雌ネジ部分の上部にリング状のナイロンがはめ込まれていて、雄ネジがそこに食い込んで緩みを防止するようになっている
スプリングワッシャー(ばね座金)。ばねのように、ボルトやナットにテンションをかけて、振動などで緩まないようにする
スプリングワッシャーも、ボルトやナットにテンションをかけて、緩みを防止する目的で取り付けるので、こちらも併せて覚えておきたい。
さあ、次回はいよいよネジ最終回。これまで説明したことを踏まえて、より実践的な内容へと進んでいく。
ワイヤなどを引っ張るときに用いられるターンバックルもボルトの一種といえるが、これは片方が通常のネジ、もう片方が逆ネジになっており、中央部を回転させて締め付け(または緩め)ていく。写真は、セーリングクルーザーのシュラウド(マストを横方向に支えるワイヤ)に付いているもの
伊藤さんいわく、絶対にネジを使わなくてはいけないわけではなく、それほど接着力を必要としない場合は、接着剤やシーリング材で部材をくっ付けることもあるという。柔軟な発想が大切なのだ
(文・写真=BoatCLUB編集部)
※本記事は『BoatCLUB』2020年4月号から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
東京ボート
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