陸上と違って、海の上では携帯電話のエリアの圏外となってしまう場面は多い。だから陸から遠く離れたエリアを航行するような場合には、通信手段について配慮する必要がある。
海の上で万が一のトラブルが発生したときに通信手段がないということは、命の危険にもつながることを忘れてはいけない。そのリスクを考えたなら、何かしらの準備をしておくのに越したことはない。
そこで紹介したいのが、2024年9月にリリースされたガーミンの衛星通信コミュニケーター「inReach Messenger Plus(インリーチメッセンジャープラス)」だ。コンパクトなサイズながらも、便利な機能を多数備えた新世代のデバイスである。
ガーミン「inReach Messenger Plus(インリーチメッセンジャープラス)」
●サイズ:7.8×6.4×2.3cm
●ディスプレー:160×68ピクセル
●重量:117.2g
●電池:内蔵リチウムイオン電池
●稼働時間:10分おきにテキストメッセージもしくは位置情報を送信した場合、メッセージ通信-低電力モードで約600時間
●防水:IPX7
●双方向通信:あり*
●現在地の共有:あり*
●価格:83,800円
*別途、衛星通信契約が必要
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このデバイスの主な機能は、メッセージの送受信。スマホと同じようにメッセージのやりとりをしたり、デバイスをWi-Fiのルーターのように使って(デバイスとスマホはBluetoothで連携)、スマホアプリ「Garmin Messenger(ガーミンメッセンジャー)」で利用することもできる。
「だったらスマホで十分じゃないか」と思うかもしれない。でもこのデバイスは、イリジウム衛星を使用した通信機能を備えているので、たとえ携帯電話の圏外にいても全地球エリアで通信網が確保されているのだ。外洋を走るヨットやボート、あるいは登山愛好家や冒険家にとって、「いつでもつながる安心」が得られるのは心強い。
メッセージは、携帯電話(SMS)やメールアドレスのほか、スマホアプリ(無料)をダウンロードしているユーザーらに送ることが可能で、グループ送信もできる。上の画像は、本体のディスプレーでの表示例。
基本的には本体をWi-Fiルーターのように使い、スマホで操作するのが楽。本体のボタンは小さいが、スマホなら文字を打ち込むことも容易だ。
ちなみに1回に送ることのできる文字量は1,600バイト(日本語の場合533字まで)と、先代モデルに比べて大幅にアップ。専用のウェブサイト「Garmin Explore」経由で定型文(クイックテキスト)を10個まで登録できるので(上の画像)、ワンプッシュで返信ができる操作性のよさもポイントだ。
専用の無料スマホアプリ「Garmin Messenger App」を使えば、写真やボイスメッセージ(最大30秒間)を送ったり再生したりすることもできる。また、携帯電話の電波がつながらないエリアでは、自動で衛星通信に切り替える機能が付いている。
メッセージと併せて位置情報を送信でき、受け取った側はリンク先のマップ上で把握することも可能(MapShare機能)。トラッキング機能を使えば、一定の間隔(2分、5分、10分、30分)ごとに自動で位置情報を送信できるので、陸にいる人が見守るようなこともできてしまう。
スマホアプリ「Garmin Messenger App」では、陸と海の天気情報を得ることも可能だ。
「Garmin Explore App」というアプリ(無料)を利用することで、トラッキング機能を使うことも可能。
Garmin Exploreのトラッキング情報はマップ上で随時更新されていく。マップのURLを家族や友人と共有しておけば、いつでも位置情報を確認することが可能。また、航跡を残しておくことができるので、クルージングの思い出を振り返ったり、釣りのポイントを記録しておくような使い方もよいのではないだろうか。
そして、なんといっても注目したいのが、「SOSメッセージを発信できる」ということ。本体右上のSOSボタンを押すと、ガーミン社の応答センターにSOSメッセージと位置情報が送られる(365日24時間日本語対応)。すると、事前にウェブ上で登録してある緊急連絡先に連絡して確認してくれるほか、センターで状況を判断し、該当する救助機関へと情報提供する仕組みになっている。
SOSメッセージの送信後には、センターからデバイスにメッセージが返ってくる。「SOSメッセージを送ったあと、なんらかの返信がある」「双方向通信ができる」という点は、危機に直面しているユーザーにとっては大きな心のよりどころになるはずだ。
気になる料金体系だが、衛星通信を使う場合には別途サブスクリプション契約が必要。いくつかプランが用意されており、1カ月単位での契約も可能だ。
バッテリーは充電式で、10分間隔で位置情報を発した場合でも、なんと約600時間(=約25日間)ももつ。また、デバイスとスマホなどの機器をつなげばリバース充電もできるので、非常時には役立つはず。
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インリーチメッセンジャープラスは、マルチな機能を備えた最強のコミュニケーションデバイスといえそうだ。
(文=安藤 健/舵社 写真=松本和久)
(問い合わせ)
ガーミンジャパン
TEL: 0570-049530
E-mail: jp_Info@garmin.com
https://www.garmin.co.jp/
◆インリーチメッセンジャープラス
外洋セーラーに聞く
通信機器としての可能性
外洋ヨットレースで豊富な経験を持つセーラーの大坪 明さんに、インリーチメッセンジャープラスの使い勝手や機能について感想を伺った。
「OSR(外洋特別規定)では、カテゴリー2以上ではパーソナルAIS、カテゴリー0ではPLB(個人用遭難信号発信機)を持つことが記載されています。ただ、日本ではパーソナルAISの利用は法律で認められていない。このガーミンのデバイスは衛星通信も携帯電話の電波も使えるということですが、パーソナルAIS的に使うこともできるのではないかと思いました」
インリーチメッセンジャープラスには、一定の間隔で位置情報を自動で発信する機能もある。受け取った人(陸上、船上)が、マップ上で落水者の位置情報(緯度経度も表示される)を把握できるのは心強い。
「もう一つは携帯電話の圏外でも、衛星通信を使ってSOSメッセージを送れる点。例えばPLBの場合は救助機関にダイレクトで遭難信号が発信されますが、こちらはガーミンのセンターを経由するということなので、極限の緊急事態でなくてもボタンを押すことができそうです」
PLBのように免許も不要だし、導入や利用にあたってのハードルは低いといえるだろう。
「日常的に別の使い方ができるのもいいですね。海上で携帯電話の圏外になる場面は多いですし、そんなときでもメッセージや写真を送れるのは便利だと思います。また、10分間隔で位置情報を送信しても、約600時間もバッテリーが持つことに驚きました。聞いたところでは、レースなどで使われるトラッキングシステムの送信機としても使われているようですね」
大坪 明(おおつぼ・あきら)さん
トランスパック(太平洋横断レース)からキールボートでのインショアレースまで、シーンを問わず活躍する現役セーラー。安全に関する造詣も深く、講習会の講師を務めることもある。