このところ、日本でもすっかりおなじみとなった東欧のプレジャーボートビルダー。その多くは、もともと造船にかかわる長い歴史を持ち、また、大手ビルダーのOEMを手がけていたようなところも少なくない。そんなバックボーンを持っているだけに、現在では、ローコストかつクオリティーの高い魅力的なモデルが、東欧のビルダーから数多く世に送り出されている。
今回紹介する「グリーンライン39」も、そんな東欧生まれのモデルの一つ。このモデルを手がけるグリーンラインヨット社(Gleenline Yachts)はスロベニアのビルダーで、2008年創業と大変若い会社だ。わずか10年ほどの短期間で右肩上がりの急成長を遂げたのは、同社の扱うモデルに秘密がある。
グリーンラインのボートの設計を担当するJ&Jデザイン社が図面を描き始めた2008年の翌年には、最初のモデルである「グリーンライン33」がデビュー。このモデルは、28カ国で550隻以上が進水する大ヒットとなったが、「ハイブリッド」をキーワードとしていた点が、環境保護に対する関心が高まる一方の時代の流れに共鳴したといえる。そう、同社の手がけるモデルは、ハイブリッド仕様のパワーユニットを搭載していることを最前面に打ち出しているのだ(ラインアップには、ディーゼルエンジン仕様も用意される)。
このハイブリッドシステムは、通常のディーゼルエンジンに加え、大型のリチウムイオンバッテリーによるエレクトリックモーターとの切り替えができるというもの。いずれのモデルでも、エレクトリックモーターでの航行速度は5kt程度、連続航行可能距離は約20マイルとのこと(オプションで一回り大きなバッテリーを搭載した場合は約30マイル)。5ktという速度はパワーボートとしては物足りなく感じるかもしれないが、駆動時も静穏でCO2を排出することもなく、セールボートを考えれば十分に足りる速度である。また、この大型リチウムバッテリーを搭載することの副産物として、発電機を搭載せずとも、さまざまな電子製品を快適に使えるということがある。
現在、グリーンラインヨット社では、この定番のトローラーシリーズにおいては、33、39、40の3モデルをラインアップ。また近年は、クーペタイプやフライブリッジ付きのモデル、大型のオーシャンクラスなど、取り扱いモデルのバリエーションの拡充を図っている。
GLEENLINE YACHTS社の公式動画
さて、2020年12月に、日本に入ってきたばかりの「グリーンライン39」(ディーゼルエンジン搭載モデル)の試乗取材をする機会を得た。写真とともに、紹介していくことにしよう。
J&Jの手に成るスタイリッシュなデザインが目を引く。船内はもちろんのこと、デッキ全体を含めた船上空間で、快適に楽しい時間が過ごせることがイメージできるはず。
ハイブリッドボートを手がけるビルダーだけに、ソーラーパネルを多数設置するためにフライブリッジを排したようにも思える。
前後の行き来は、右側の通路(幅370mm)を通じて行う。ハウス右サイドにはスライドドアが設置されており、ドライバーがすぐにここから出入りできるようになっている。
トランサムを外側に展開することで、アフトコクピットの面積が広がり、船外の乗り移り、あるいは水へのアプローチがしやすくなる。
明るく、洗練された印象の強いメインサロン。
右舷側は、前方からドライバーズシート、カウンター(テレビ収納スペースあり)、大型の冷蔵庫、左舷側は、前方からコの字型のソファ、ギャレースペースという配置。使い勝手がよさそうだ。
メインサロン前方から、後方を望んだところ。ハウス後面のスライドドアを全開にして、ギャレー側の窓は上に跳ね上げている。この開放感!
ギャレーをこの位置に配置することで、船内外を一体化した空間として使い、飲食をサーブするにも便利。試乗艇は、2口のIHコンロを装備していた。
フォアデッキのキャビントランク部分にクッションを敷けば、サンベイジングスペースが完成。クッションのサイズは203mm×124mmと、ゆとりあるもの。
さらに、このエリアにはビミニトップ(オプション)をセットすることも可能! 角度の調整も容易で、非常に具合がいい。ビールでも飲みながら、のんびり読書・・・つい、そんなシーンを夢想してしまう。
ロワーデッキの船首部分に、マスターステートルームが設置されている。外観を前方から見た写真をご覧いただければわかるが、バウ全体にボリュームがあり、また、ステムが直立気味のデザインの効用もあって、これだけ広いスペースを確保することが可能になった。
写真右手前の位置から、シャワー&トイレルームにも直接アクセスできる。
十分なスペースと高さを備えたシャワー&トイレルーム。ウオッシュボウルも、おしゃれなデザインなものを採用している。
ミジップにはゲストルームを配置。シングルバース(200mm×75mm)が2本並ぶ。窮屈な感じもせず、居心地のよい空間となっている。
また、手前のシートの頭上あたりに小さなハッチがあり、ドライバーズシートのカウンターの反対側(左舷側)に通じている。例えば、操船中やハウスでくつろいでいるときに、この部屋で寝ている子どもの様子をチェックなどというシーンでは、とても具合がいい。
取材艇はディーゼルエンジンを搭載。ヤンマーの最新世代のモデル「8LV3」(370馬力)の1基掛けだ。駆動方式はインボード。
エンジンルームには、メインサロン中央の床からアクセス。防音対策も十分に施されており、走行中も大変静かだった。
風弱く、静穏なコンディションに恵まれた、東京湾・横浜ベイサイドマリーナ沖での試乗。2人が乗船した状態で3,500回転/分までスロットルを開けた状態で、22ktを超える速度を記録した。
「GLEENLINE 39」/ビルダーの公式動画
フネの上でゆったりと過ごすスタイルが、日本でも主流になってきた。居住性が抜群でマリーナステイも楽しくなり、なおかつこれだけの走行性能があれば、クルージングなどアクティブに行動できるはず。
グリーンライン39は、「マルチに使えるファストトローラー」という表現がぴったりのボートだろう。
なお、取材時のレポート記事は、月刊『Kazi』4月号(3月5日発売)に掲載予定。こちらもぜひご覧になっていただきたい。
(文=舵社/安藤 健 写真=鈴木教之)
SPEC
●全長:11.99m
●ハル長:11.40m
●全幅:3.75m
●喫水:0.90m
●排水量:7,000kg
●燃料タンク:700L
●清水タンク:400L
●駆動方式:インボード×1
●エンジン:ヤンマー8LV3(370HP)※試乗艇(ディーゼルエンジン仕様)の場合
(問い合わせ)
オカザキヨット
TEL: 045-770-0502(横浜)、0798-32-0202(西宮)
https://okazaki.yachts.co.jp/