リタイア後に、のんびりと日本各地の島々をフネで訪れる。そんな憧れのヨットライフを送っているのは田中 洋さん。
千葉県在住ながら、長崎県の九十九島パールシーマリーナに愛艇〈Yukikaze〉(ベネトウ・オセアニス323)を置いて、定期的に長期滞在してクルージングを楽しんでいる。
ベテランセーラーの知識を学びながら、九十九島から五島列島に向かう旅に同乗した。その模様を3回に分けてお届けします。
田中 洋 さん(71歳・取材時)。山口県出身、千葉県在住。大学時代は長崎大学ヨット部でスナイプ級に乗る。その後、約25年のブランクをへて、40代後半からクルージング中心のヨットライフを再開。関東在住ながら、長崎県の九十九島パールシーマリーナに愛艇〈Yukikaze〉(ベネトウ・オセアニス323)を置き、クルージングを楽しんでいる。
今回の取材で同行したコース。複雑な海岸線の島々が並ぶ九十九島から五島列島は、日本有数のクルージングゲレンデ。
■島好きがはまった平戸島とガルフ諸島!?
「今までにこのフネで何十という島を訪れてきましたけど、私がとにかく島に魅力を感じてしまうのは、大学生のときにスナイプ級5隻で仲間と出かけた平戸島一周クルージングが、本当に楽しかったからかもしれないですね」
そう話す田中 洋さんは、筋金入りの島旅愛好家。愛艇の〈Yukikaze〉で島を目指すのはもちろん、フェリーやオートバイでも島を訪れるのが、とにかく楽しいという。これまでに50以上の島を訪れた。
「島の民俗学というか社会学というか、その島ならではの歴史を思い描くのが好きなんです。もう、島という島すべてが好きですね」
18歳~20代でスナイプやシーホースなどのディンギーに乗った後、約25年のブランクをへて、48歳のときに再びヨットにはまるきっかけとなったのも、やはり島。
「北米に勤務していたときに、勤続25周年で、1週間の休暇をもらいました。そのとき、カナダ(バンクーバー)の『ウインドバレーセーリングスクール』でガルフ諸島を旅しながら学べる1週間コースがあることを偶然に知り、参加しました。そこで、ガルフ諸島の魅力にぞっこんになってしまい、25年ぶりにヨットへの情熱が再燃したんです。最初のきっかけが18歳のときの平戸島で、転機となったのが30年後、48歳のときのガルフ諸島です。不思議なものですね」
ウインドバレーセーリングスクールは、ボブ・センドウ氏がカナダ・バンクーバーで主宰するヨットスクールで、バンクーバー周辺(ブリティッシュコロンビア州)の多島海を旅しながらクルージングの技術を学べるのが特徴。日本人の受講生も多い。
その後、ウインドバレーセーリングスクールが運用していたセーリングに関する国際的資格プログラム「ISPA」のプログラムを次々と受講してセーリングクルーザーの技術を磨いた田中さんは、61歳のとき、ついにISPAのインストラクター資格まで取得。島への情熱おそるべしである。
■島を目指すために、ホームポートを転々と
ちょうど60歳のときに現在の愛艇〈Yukikaze〉を手に入れた田中さんは、神奈川県の横浜を拠点に約6年間、伊豆諸島などをたびたびクルージング。伊豆半島や三重県の伊勢志摩エリアにも足を延ばすも、クルージング目的地のバリエーションに限界を感じ、香川県の仁尾マリーナにホームポートを移す。
仁尾マリーナといえば、日帰り圏内に多くの島々がある、クルージング愛好家に人気のマリーナだ。この地を拠点に約2年間(2014~2016年)、瀬戸内海の島々を満喫した。
「2014年にセミリタイアして、ヨットに使える時間が増えたので、瀬戸内海の島々を見てやろうと思いまして。20~30の島に寄港したと思います。2014年に行われた、瀬戸内国際ヨットラリーにも参加したんですよ」
日本の島めぐり拠点としては、ほぼ最高と思われる瀬戸内海中部から、さらに田中さんはホームポートをお引っ越し。その先は、大学生時代に初めて島クルージングの楽しさを知った、長崎県。県内の多くのマリーナの中から田中さんが選んだのは、その名の通り近隣に無数の島々が連なる「九十九島パールシーマリーナ」。九十九島の複雑なリアス式海岸を楽しむのはもちろん、この場所を拠点に、対馬や壱岐島、五島列島、天草諸島、甑島列島を目指せる、島フリークにとっては夢のような立地である。
「ここが本命でしたね。この九十九島からだと、鹿児島や沖縄の島々も“圏内”に入ってくるんですよ。リタイア人生の前半は九州でフネに乗り、後半は、海が穏やかな瀬戸内海に戻るつもりです」
(つづく)
2016年の夏から田中さんが愛艇のホームポートとしている九十九島パールシーマリーナ。
パールシーマリーナを出港して約1時間、松浦島の入り江のアンカリングスポットに到着。
地元のセーラーが設置した係留ブイを拾って……。つかの間のコーヒーブレイク。
〈Yukikaze〉のクルージング流儀①
■ナビゲーションはデジ/アナハイブリッド
〈Yukikaze〉は、レイマリン社の航海計器とGPSプロッターを装備。事前の航海計画を立てるときは、タブレットPCで「Navionics」というチャートアプリを活用している。加えて、海図とSガイド、潮汐表を常備。九十九島の海域は潮流が速く、狭い水道も多いため、潮流の把握は重要だ。
レイマリンの航海計器に加え、オートパイロットも装備。
海図にも事前に調べた航行ルートを綿密に記入。
出航直後のGPSプロッターの表示画面。
〈Yukikaze〉のクルージング流儀②
■ワンラインドッキングをフル活用
着岸時にフネを一時的にとどめる方法として、田中さんがセーリングクルーザーの運航を学んだISPAでは「ワンラインドッキング」を推奨しており、田中さんもあらゆる場面で活用している。
着岸時は、船尾から全長の1/4程度の場所からとったロープを最初に固定する。
舵を中立にして、エンジンのシフトを微速前進に入れておくと、バウが離れないで保持できる。
落ち着いてバウ側の係留ロープを固定することができる。
(文・写真=Kazi編集部/中島 淳)
※この内容は月刊『Kazi』2019年7月号に掲載された記事をベースに再構成したものです。この号の特集は「ベテランたちのクルージング流儀」と題し、田中さんをはじめとする熟練セーラーたちのクルージングに同行。真似したくなるノウハウやアイデアを多く紹介しています。ご興味のある方は、バックナンバーもお求めいただけます。