現在注目のフォイリング・モス級のレースシーンで、最も速い艇の一つとして数えられる「EXOCET(エグゾセ)」。このEXOCETは、イギリスの造船所「マグワイアボート」で建造されている。
日本から、この最強モスをオーダーしたプロセーラー、脇永達也さんと荒川海彦さんは、ハルが完成した2019年6月、フィッティングを自分たちの手で行うため現地イギリスへ飛んだ。 その模様は『Kazi』3月号で荒川さん執筆により「マグワイアボート探訪記」として掲載したが、誌面では紹介しきれなかった貴重な写真をいくつか紹介していきたい。トップの写真は、マグワイアボートでフィッティングを待つ、荒川さんのボートだ。
荒川さんは、オーストラリアで開催されたモスワールド2015で、イギリスのトップセーラー、クリス・ドレイパーから EXOCETのすばらしさを教えてもらったことが、この名艇との最初の出会いだった。
ニューミルトンにある、マグワイアボートのシップヤード。ロンドンの西方、車で2時間ほどの距離にある
ボートにラミネートされた日本国旗と荒川海彦さんの名前。心熱くなるおもてなしだ
デッキレイアウトを相談し、各ベースを仮置きしたところ。荒川さんと脇永さんの細かな希望通り、ミリ単位で設置されていく
次に、ベースを固定するため、カーボンデッキに穴をあけていく。慎重な作業だ
マグワイアボート社長のサイモン・マグワイア自らフィッティング作業をしてくれた
マスト下部のフィッティング。写真ではまだ各ブロック類はすべて設置されていない
おおむね各ベースとブロック類を設置し、コントロールロープをフィッティングしたところ
次に、マストを立てて、各コントロールロープを微調整 。脇永さんがセッティングしているのは、もちろん自身がオーダーしたEXOCETだ
実際にセールアップして、すべてのコントロールロープを限界まで引いて確認する
■最も重要なベースセッティングの様子
メインフォイル・フラップの通常時の角度=ベースセッティングは、非常に大切な調整のひとつ。ストラットをボートに装着する前に、メインフォイルにアングルテンプレートをあてる。ストラットとフォイルの迎角を、デザイナー指定値に合わせ6mmボルトで固定する。ここが一番重要で、ここで合わせないとすべてが合わなくなってしまう。
次に、フラップをコントロールするためのステンレス製プッシュロッドと、フラップへの感度(敏感、鈍感)を調整するベルクランクを調整しセット。 フォイルとストラットをボートに装着し、フォイリング時の高さ調整をするために、写真のようにアングルテンプレートを当てる。
フラップをテンプレートでベース状態に固定する。フォイリング高さをアジャストするためのワンドの角度を微調整するためにライドハイトアジャスターの長さを調整していく。
実に清潔に保たれたマグワイアボートのヤード内。ゴミひとつ落ちていない。脇永さんと荒川さんのEXOCETは、オーダーが殺到した時期だったため、注文から納品まで3年かかった。月産生産数は1 ~ 2隻のペースと変わらないが、現在は1 年半ほどで入手できるという。もちろん、バックオーダーを抱え過ぎるとオーダーストップすることもある。人気が出ても造るスピードは変えないその姿勢は、まさに職人気質といえる
こちらは塗装前のハルの画像。貴重な一枚だ
日本での進水式を無事終え、葉山の森戸海岸沖でテストセーリング
EXOCET
■ 全長:3.355m(バウスプリット、ラダーガントリー含まず)
■ 全幅:2.250m
■ 喫水:1.030m
■ 重量:30kg
■ セール面積:8.25m2
■ 乗員:1人
■ 価格:4,000,000円(税込み。輸送費込み。2019年時)
EXOCETユーザー、クリス・ドレイパーのインタビューは45秒くらいから。現在、モス級をけん引するブランドは、EXOCETだけではなく、ROCKET、THINNAIR、そしてBIEKERなどがその頂点を目指し、しのぎを削っているのだ
(文=Kazi編集部/中村剛司 写真=荒川海彦)
※本記事は月刊『Kazi』2021年3月号にも掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ
荒川海彦さん(右)
国内外のオフショア、コースタル、インショアで幅広く活躍するプロセーラー。昨年からKYC(関西ヨットクラブ)にて活動をスタートしたMart Spirit Sailing Teamのチームキャプテン。激戦のKYCポイントレースIRCクラスで、年間優勝に輝いた。好きな食べ物は、ポン酢でいただく豚しゃぶ。
Simon Maguire(中央)
マグワイアボート代表。剛性に富み、その高品質の均一を保ったEXOCETによって、モスシーンにセンセーションを起こした。現在もアップデートを繰り返し続ける職人だ
脇永達也さん(左)
Wakinaga Racing。五輪出場3回、アメリカズカップ参戦4回。誰も認めるプロセーラー。国内だけでなく世界のレースシーンで現在も活躍。好きな食べ物は、もつ鍋(葉山の「さかもと」派)