車に例えるなら、クラシカルなオープンカー。モダンクラシック、ここに極まれり|ワーリーナノMk II(2)

2025.03.29

もしそのヨットを車に例えるならどのようなものになるだろう。

まずはクラシカルなオープンカー。もちろんツーシーターであろう。荷物はほとんど積めない。クラシカルではあるがスポーティー。峠の走りは小気味よく、クイックなコーナーリングは操縦するだけで笑みがこぼれてくる。それがデイセーラーというジャンル。週末の一泊くらいはできるから、デイセーラー&ウイークエンダーなんて呼ばれたりもする。

そんな趣味性の高いヨット、デイセーラーに魅せられたひとりが、新西宮ヨットハーバーをベースにセーリングを楽しむ野村耕治さん。その愛艇は〈タラゴ〉(ワーリーナノMk II)。モダンクラシックの代名詞ともいえる、戦闘力を秘めたデイセーラーである。この1艇にたどり着くまでの道のりとは。話を伺いに、西宮へ飛んだ。

※本稿は前後編の後編です。前編はこちら

 

◆メインカット

photo by Shigehiko Yamagishi | Kazi | 新西宮ヨットハーバー沖を走るデイセーラー、〈タラゴ〉(ワーリーナノMk II)。広大なプープデッキ(船尾楼甲板)、美麗なるシアーラインがひときわ目を引く。このスタイリングにして船体はフルカーボン。まさにヒツジの皮を被ったオオカミといえる1艇である

 


〈TARAGO〉WALLY NANO Mk II 
〈タラゴ〉ワーリーナノMk II

 

正しく美しく水を切る船体、チークデッキに白帆が映える。セールはノースセール・ヨーロッパの3Diのホワイト仕様。最高水準のレースセールである

 

WALLY NANO Mk II 

全長:11.35m(バウスプリット除く)
●全幅:2.60m
喫水:2.60m / 2.40m
排水量:2,875kg
●バラスト重量:1,225kg
●セール面積:アップウインド75m2 、ダウンウインド 160m2
●設計:Wally / Hoek Design Naval Architects
●建造:Doomernik Yachts
●補機:Oceanvolt SD 6.0 Electrical engine

 

OWNER

野村耕治さん
Koji Nomura

学生時代(22歳)にスナイプ級レーザー級(現ILCA級)でセーリングを開始。数年のブランクを経て、キールボート購入を検討。オランダの造船所、ドーメニクヨットが建造するワーリーナノMk IIを2019年に購入。基本、シングルハンドで純粋なセーリングを楽しむ

 

最初に買ったキールボート

学生時代にスナイプ級で初めてヨットに乗り、レーザー級を購入してカートップし、野尻湖や各地のゲレンデでセーリングを楽しんだ。では、キールボート歴はどのような変遷でしたか?

「いえ、最初に買ったキールボートがこのワーリーナノMk IIです。自分でいうのもなんですが、大胆ですよね(笑)」

まさに大胆です。いきなりデイセーラー。いきなりワーリーヨットである。一般的には裕福な方が2艇目に持つヨット、というイメージ。デイセーラーを車に例えるなら、コンパクトでクラシカルでレーシングなオープンカー。自動車免許を取った直後に、英国のMGか、フェラーリのスパイダーを購入してしまうようなものだ(ちなみに野村さんの愛車は30年以上所有するポルシェ911カレラ2 /空冷964型。ここも妙に納得)。

「プロセーラーの西村一広さんが記事に書いてくださいましたが、ワーリーナノMk IIは、ワーリーヨットのクラシカルな設計を木造船建造に定評があるドーメニクヨットがカーボンコンポジットで建造する、というところにも強く引かれました。ドラゴン級などを造っているオランダの老舗造船所が、カーボンインフュージョン工法の職人を呼んで建造したという話もすごいですよね」

直立ステムは最初のデザインからそうであり、しかしスターンはゆるく長くせり上がったクラシカルな船型。さらにアペンデージを見れば、戦闘的なストラットバルブキールバラスト比43%! )。そしてフルカーボン製の船体。レースでもきっちり戦えるスペックを持っている。

「今、司馬遼太郎の『街道をゆく35(オランダ紀行)』を読んでいるんですが、プレジャーヨットの発祥はオランダらしく。『ヨットという遊び船を発明したのがオランダ人であることは、オランダを旅する者にとって常識であらねばならない』。このくだりを何度も読み返しました。普段は1人で乗っています。なのでゲストを呼んでも、船長の私が1人で出入港をやって、1人でセーリングしています。ちょうどいいですよ。レースはクラブレースに出ています。技量はまだまだこれから(笑)。楽しくやっています」

取材当日も、取材班はなんの手伝いもせず、野村さんはさっと出港してさっとセールを揚げて、セーリングを楽しんでいらした。開業して富を得ることもよいが、それよりは仕事のやりがいを優先した。ヨットの選択も同じ。セーリングの純粋な楽しさ、セーリングすることの意味を優先した。

「同じヨットに乗るなら、やっぱり好きなヨットに乗りたい。人生も同じですよ。あと、やっぱりデイセーラーって単純にかっこいいじゃないですか(笑)」

そう笑う野村さんの笑顔は、無邪気な子どものよう。純粋で根源的なセーラーの素顔を見た気がした。

 

ジェネカー(A2)を展開し力強く帆走するワーリーナノMk II。フルクルーが参加した別日に撮影

 

ティラーの下にあるドーメニクヨットの銘板

 

金箔で書かれた艇名とK.Y.C.(関西ヨットクラブ)の文字

 

建造中の〈TARAGO〉。インフュージョン工法によるカーボンコンポジット艇なのである

photo by Koji Nomura

 

帆走性能は非常に高い。シングルハンドでの取り回しも良好。実に丁寧に艤装された一艇

 

「係留後に長居することは少ないんですが」と野村さん。アイスコーヒーを手に、司馬遼太郎の『街道をゆく35(オランダ紀行)』を読む。幕末の日本の軍艦がオランダ製であったことなど、ワーリーとの共通点を楽しむ

 

撮影ボートがたてた曳き波を難なく越えるワーリーナノMk II。シアーラインはその美しさとともに、実戦的な戦闘力も内包する。優美で優雅なセーリングを見せるデイセーラーなのである

 

(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

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