ヨットやボートで海に出たとき、最も考えたくないシチュエーションといえば、「落水」をおいてほかにないだろう。落水訓練などはしていたとしても、ひとたび外海で海に落ちてしまったら、まず助からないと考えておいたほうがよいくらい。複数で船に乗っているならまだしも、一人で海に出ているときに落水してしまったら絶望的な状況が待っている。
ライフジャケットを着ているならば、海に浮かんで助けを待つことはできるだろう。ただ、周囲にほかの船がいなければ見つけてもらうこともできないし、防水ケースに入れた携帯電話で助けを呼ぼうにも、陸から遠く離れた外洋では、携帯電話の画面には圏外という文字がむなしく表示されているに違いない。
そんなときに最後の命綱になってくれるのが、「PLB(Personal Locator Beacon:個人用遭難信号発信機)」だ。外洋セーラーをはじめ、世界では以前から広く利用されていたが、2015年に法改正がなされた結果、日本でもこの便利で頼りになるアイテムが使えるようになった。
PLBの仕組みを、ごく簡単に説明しよう。(イラスト=内山良治)
①落水し、PLBのアンテナを立てて救難信号送信ボタンを押すと、人工衛星に向けて5Wで405MHzの電波を発信。本体にはGPS が内蔵されていて、遭難者を特定できる認識番号とともに位置情報も伝えられる。
②静止軌道衛星と低軌道衛星、二つのシステムのコスパス・サーサット衛星が信号をキャッチ。遭難信号は、ただちに遭難信号地上受信局(LUT:Local User Terminal)に向けて送信される。
③地上受信局が受信した信号は業務管理センター(MCC:Mission Control Center/日本では海上保安庁本庁に設置)で分析され、救難調整本部(RCC:Rescue Coordination Center/日本では、管区海上保安本部または羽田RCC)に伝達される。
④救難調整本部が適切な救助活動を調整し、救助が開始される。
これが大まかな流れ。GPSによる位置情報があるので、救助隊はほぼピンポイントで遭難者のもとに到着するはず。
加えて、確実に遭難者が発見されやすくするために、PLBは 121.5MHzの電波も発信している。遭難者の近くまで来た救助隊は、耳で聞くと「ピュー、ピュー」と聞こえるこの信号をキャッチ、どの方向から発信されているかを調べながら、最終的に遭難者を発見するというわけだ。
なんといっても衛星を使った全世界共通のシステムなので、世界じゅうをカバーしているというのが心強い。
そんなPLBだが、日本で使えるのは技術基準適合証明を取得した製品に限られている。したがって、海外から個人的に持ち込んだり輸入した製品を日本国内で使用すると、法律違反となって処罰されてしまう。
その日本で使えるPLB(ACR社のレスキューリンクプラス日本語版)が、製造中止となり、ここ1年ほど日本で新たに手に入れることのできるPLBがないという、異常な状態が続いていた。
しかしながら昨夏に後継モデルが、ようやく日本での技術基準適合取得証明を取得。今年1月から待望の発売開始となった。
こちらが新モデルの「レスキューリンク400」(税込価格:71,500円)。本体のほか、装着用のベルトクリップやアタッチメント、ベルクロテープ、取扱説明書などが付属している。
旧モデル(左)と並べてみた。基本的な機能はまったく変わらないが、ボディー全体がスリムになった印象を受ける。また、いくつかの部分で使い勝手が改善されている。
海に落ちたときには、アンテナを空に対して90度の方向に立てて、真ん中の赤いボタンを2秒間押すと遭難信号が発信される。使い方はこれだけ。
落水して気が動転してしまい、使い方を忘れてしまった・・・なんてことがあっても心配不要。落ち着いて本体の側面を見れば、使い方が記載されているのでご安心を。
旧モデルからの改善点として、遭難信号発信ボタンを誤って押してしまわないようにカバーが設けられた。カバーはアンテナと一体化しており、アンテナを立てるとカバーが外れて、ボタンを押せる状態になるという仕組みだ。
背面に付属のベルクロテープを通せば、腕などに留めておくことができる。
付属のベルトクリップを背面にセットすると、こんなふうに装着することができる。PLBを海に落としてしまったら元も子もないので、クリップ側面の穴に細いひもなどを通して結び、もう一方の端をベルトループなどに固定しておけば安心だ。
付属のアタッチメントを使えば、膨張式ライフジャケットの吹き込み口に装着しておくこともできる。落水してライフジャケットが膨張して浮かんでいる状態で、海の上に出ている位置でもあり、ボタン操作もしやすいはず。
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PLBがあれば、最悪の場面に陥った時に、必ず一縷の光が射すものだと思う。税込み価格は71,500円、しかも、実際に使うことがない(使えることがあってはならない)アイテムであるうえに、電池の有効期限は5年間。決して安い買い物ではないし、簡単に手を出しにくいと感じる方が多いのも当然かもしれない。
しかし、考えてほしい。万が一「最悪の場面」に出くわしたのであれば、あのとき買っておけばよかったと思う金額ではないだろうか。電池が5年間(12×5=60カ月)もつと考えたら、月割りで1,000円ちょっと。海に出るときの保険と考えれば全然安いし、飲み会でいつもよりビールを飲む量を2杯くらい少なくすればいいだけの話でもある。
そんなことを考えていたら、こういったアイテムというのは自分自身の身を守るためだけでなく、陸であなたの帰りを待つ家族や仲間のために持っておくべきものなのかもしれないと感じた。
1人1台。海に出るならぜひ持っていたい最後の命綱がPLBだ。
(文=舵社/安藤 健 写真=舵社/宮崎克彦)
PLB「レスキューリンク400」日本仕様
■税込価格:71,500円
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