冷たい北風が吹きつのるこの季節は、マリーナから船を出す機会こそ減りがちだが、寒さ対策さえ施せば、静かなキャビンでひとときを過ごすのにはもってこい。そこで、キャビンライフを快適するためのアイテムとして、最近、アウトドアの世界で注目を集めている「ポータブル電源」をご紹介しよう。今回はAC & USB編だ。
快適性向上を図るために、キャビンで一般的な家電製品を使えるととても便利だが、問題となるのが交流(AC)100V電源の確保。ジェネレーター搭載艇や、陸電設備の整ったマリーナに係留しているなら問題ないが、それらがない艇の場合、インバーターを使ってサービスバッテリー(DC)からAC100Vを作るのが一般的。しかし、インバーターはそれ自体の電力消費量が大きい点に注意が必要。また、エンジンを稼働させたとしても、充電量が消費量を上回りがちなうえ、エンジンの音や振動、排気も気になる。
そこで活躍するのが、リチウムイオン電池と高性能なインバーターを一体化させたAC対応のポータブルバッテリーだ。ここで紹介するのは、GOAL ZEROの「YETI 500X 120V」である。
持ち運びしやすく、自宅で充電できるポータブル電源は、特別な工事も必要なく手軽に使える上に、災害時などのイザというときにも活用できる。ただし、その使い方にはいくつか注意も必要だ。
●使用機器の消費電力
ポータブル電源を使用する際、使用機器の消費電力に注意しよう。このYETI 500X 120VのAC機器使用時の容量は300Wh。つまり、消費電力300Wの機器を1時間使用できるということ。逆にいうと、消費電力300Wを超える機器は使用できないということだ。テストで使用したIHクッカー「ドリテックDI-218ミニチュラ」の出力は100~800Wの8段階なので、このポータブル電源で使用する場合は、300Wを超えないようにする必要がある。それでも、予熱/調理時間を長めにとれば、目玉焼きがきちんと焼ける。ちなみに機器の出力を400Wにしてみたところ、電源側の安全装置が働いてシャットダウンしてしまった。
●発熱機器は消費量大
調理系や暖房系など、熱を発するAC機器は、その消費電力が大きく、電源側の最大出力を超えているものが多いので、そもそも“使えない”というケースも少なくない。一方、消費電力の小さい機器を選んだ場合、機器から発する熱エネルギーは、電気エネルギーを変換したものなので、「消費電力が小さい=熱量が少ない」ということになり、調理時間が長めになる。旅行用の小型マルチクッカー「カシムラ・マルチボルテージ調理器 ワールドクッカー3」の場合、固ゆで卵ができるまで、40分ほどかかった。
なお、容量の大きなポータブル電源を用意し、高出力の機器を湯沸かしなどで短時間だけ使用する、というのは賢い使い方といえそうだ。
●高性能機器は動かないことも
電源側のインバーターの性能(正弦波出力が可能か)によるが、電子制御されている多機能機器の場合、正常に作動しないことがある。ポータブル電源での使用機器選びの一つの基準としては、大手家電メーカーの最新製品よりも1世代前の性能ながら、機能を絞って低価格化を実現している「ジェネリック家電」がよさそう。「アイリスオーヤマ・デスクパネルヒーターKPH-TS2」は、シンプルな温度調整が可能なモデルで、キャビン内を乾燥させることもなく、じんわり足もとを暖めてくれる。
●USBを上手に活用
ポータブル電源で消費電力が大きい機器を使うと、インジケーターに表示される電池残量がどんどん減っていくので、ちょっとソワソワしてしまう。そんな不安を軽減できるのが、消費電力の小さいUSB電源の機器だ。USB電源は直流(DC)だが、たいていのポータブル電源には、携帯電話充電などのためにUSBポートが備わっている。また、最近では、USBを電源とした各種機器が販売されているので、これらを活用するのも一法。特に、キャンプ用品などには便利なアイテムがあるので、探してみるのも面白い。「LOGOSヒートユニット・チェアシート/ヒートユニット・アンダーマット」は、モバイルバッテリーでも使えるアイテムで、内蔵されたヒートユニット(発熱部)により、穏やかに体を暖めてくれる。「アンダーマット」は本来、シュラフの中に敷いて使うものだが、ブラケット的な使い方もできるので、キャビンでまったり過ごすときにも最適だ。
なお、ポータブル電源の選び方などの詳細は、『KAZI』2021年1月号に掲載しているので、こちらの記事もぜひご確認を。
(文=Kazi編集部/今村 信 写真=鈴木教之)