恵まれた立地、独自のカリキュラムと長年培われたノウハウで、ほかにはない“海洋教育”を実践している逗子開成中学校・高等学校。その特徴の一つである、中学1年生のOP級ヨット建造の授業へおじゃました。
2回目となる今回は、自分たちで造ったOP艇に乗って逗子湾を帆走する「進水式編」。OP建造に携わった生徒たちが中学2年生に進級した4月に進水式が行われた。
「まずは海へ出よう! 」と背中を押す
4月、2年生に進級した彼らが完成した艇で帆走する進水式だ。
逗子海岸の砂浜へ並べられたOP艇。2022年度は通算224号艇から228号艇の5艇が建造された
逗子開成バージョンのOP艇は、砂浜から出艇しやすいよう、ラダーをキックアップ式にアレンジしてある
ヨット部によるデモンストレーションと注意に聞き入る生徒たち。後ろに並んでいる5艇が新艇
保護者の皆さんが注目する中、新艇にシャンパンをかける儀式も生徒たち自ら行った
ヨット部の生徒を中心に、艤装も自分たちで行う
生徒たちを見ていると、初心者とは思えないほど物おじせず乗りこなしているのが分かる。怖がる生徒はいないのだろうか。小和田校長にうかがうと、「とにかく行ってきなさい」と背中を押すのだそうだ。
「不安はもちろんあるでしょう。でも、何かあったら先生たちがボートで助けるから、まずは1人でやってみなさい、と送り出す」のだという。1人で海に出るということは、大げさに言えば命に関わる危機であり、中学生の彼らには未体験の事態。しかし、小和田校長は「海に対する見方がそこで深まる」と語る。
「怖さを知った上で中2、中3とヨットに乗っていき、大丈夫だと分かると視界がどんどん広がります。風がこう変わった、海から陸はこう見えるんだとか、視点が豊かになっていく。3年生になると、こうすればもっと上手く乗れるとか、操船技術にまで考えが及んできます。そういう意味で、中1での海との最初の接点は重要ですね」(小和田校長)
班ごとに艇を水際まで運んで、さあ出艇だ!
班のメンバーみんなで1人の乗る船をサポート
出艇すると一斉にマークを目指す。初心者が多いとは思えないほどスムーズに帆走している
砂浜に上陸してしまった艇は班員が救出に向かう
逗子開成中学校では、1年生がヨット建造と帆走実習を1回、2年生と3年生で計3回のヨット帆走実習を行う。
たった数回の実習だが、ほぼ全員がヨット未経験者である中、自分たちで船を造り、1人で船に乗って海へ出る経験ができる学校は他にないだろう。同校ではさらに、遠泳の授業も行っており、中学3年生全員が逗子湾を約1.5km泳ぎ切るのだという。
生徒たちの帆走の様子をたくさんの保護者の皆さんが見守っていた
班ごとに交代で出艇し片付けまで行う。傍らで砂遊びし始める子もいて、なんだかほほえましい
みんなで砂だらけになりながら艇を砂浜へ上げる
この海洋教育の目的の一つとして、真の意味での自然との共生を考えられる生徒の育成にあると小和田校長はいう。
「この学校の生徒たちは海を体験し、経験に裏付けられて海との共生を考えられる。海っていいものですけれど、恐れ多いものでもある、ということを生徒の多くは実感として持っているでしょう。そうした経験に基づく土台ができているので、ただ環境や防災の問題を語るだけではなく『本当に共生すること』を君たちは考えられる人なのだよ、といつも生徒には伝えています」(小和田校長)
艇の片付けも協力して行い、あっという間に終わった
解装した艇をみんなで砂浜の奥へと運んで……
砂浜の奥に積み上げられたOP艇。次の日も同様に帆走実習が行われるという
逗子海岸に設けられた通路を通って学校へ戻る生徒たち。逗子開成ならではの光景だ
大海原を舞台に繰り広げられる、逗子開成中学校の海洋教育。
みんなで造った船で沖へ出る体験が、生徒たちの心と身体の、そして人生の土台となっていくのかもしれない。
「逗子開成中学校 OP級建造記 ②進水式編」はここまで。
「逗子開成中学校 OP級建造記 ①製作編」もぜひご覧ください!
(文=山田祥子/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)
※この記事は月刊『Kazi』8月号に掲載されたものを再編集しています。バックナンバーおよび電子版をぜひ
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