「赤い月」ルナロッサの登場秘話&次回ACのプロトコル発効!|AC日記2025-10②

2025.11.27

世界最高峰のヨットレースであるアメリカズカップ(以下、AC)に、過去6回挑戦しているルナロッサ

高級ファッションブランドのプラダ・グループ会長のパトリツィオ・ベルテッリが率いる同チームは、初出場となった2000年以来、ACの舞台に深く関与し続けている。

今回はルナロッサの結成までの模様と、ついに発効した次回38回ACのプロトコルの内容を、プロセーラーの西村一広さんに解説いただこう。(編集部)

※本記事は月刊『Kazi』2025年10月号に掲載されたものです。本記事の前編はこちら

◆タイトル写真
© Copyright Luna Rossa Challenge 2013|ルナロッサがACにデビューしたのは2000年。第30回大会の挑戦者決定戦ルイ・ヴィトンカップを勝ち上がり、イタリア史上2度目となるAC本戦に進出した(編集部)

 

20世紀末にオークランドに現れた赤い月

話を、ベルテッリ最初のAC挑戦の頃、1990年代後半に戻す。

第30回AC開催地ニュージーランド(以下、NZ)のオークランドの海で、赤帯に白抜きでPRADAの文字ロゴが船首に入ったシルバーグレーのIACC(International America’s Cup Class)を、ぼくが初めて見たのは1997年の11月、南半球の初夏のこと。

その翌年1998年の夏には当時スキッパーを務めていた〈からす〉チームの新艇でのケンウッドカップのハワイ遠征があり、その後所属することになるニッポンチャレンジからはそのあとの秋ごろから第30回ACキャンペーンを徐々に始めると非公式に伝えられていた。

その前に、冬の日本を抜け出し、夏のNZで、この国に住みながらセーリングの機会を持てないでいる日本人たちを対象に、J/24クラス2隻を使ってセーリングスクールを開校していたのだった。

われわれのセーリングスクールと同じ海面でクルートレーニングをしていたその銀色に輝くIACCは、第28回AC(1992年)で防衛に成功した米国のアメリカキューブからベルテッリが購入した3隻の中の1隻〈カンザ〉で、すでに〈ルナロッサ〉という名に変えられていたらしいが、オークランドの誰もその正式名称を知らなかったので、その船首に書かれたロゴ文字のまま「プラダ」と呼んでいた。

 


1992年AC本戦。防衛者はアメリカの「アメリカキューブ」(写真上)、挑戦者はイタリアの「イル・モーロ・ディ・ヴェネツィア」。ベルテッリはこの時に防衛に成功したアメリカキューブの使用艇〈ディファイアント〉ら3艇を購入した(編集部)
photo by Carlo Borlenghi/PPL

 

「プラダ」をステアリングしていたのは、ロッド・デイヴィスだった。 デイヴィスは第28回ACではNZの挑戦艇スキッパーヘルムスマンを務めた、米国とNZの二つの国籍を持つセーラーだ。

特徴のあるカン高い声でクルーたちに動作指示を出しているデイヴィスの練習メニューや艇の様子を見ていると、乗っているクルーたちはIACCのセーリングにまったく慣れておらず、そのことから、〈プラダ〉に乗っているクルーたちは、第29回ACで本戦まで勝ち進んだイタリア艇〈イルモロ・ディ・ベネティア〉のクルーたちではないことがよく分かった 。

〈プラダ〉に乗っているのは、過去にACに挑戦した二つのイタリアチームとは、まったくルーツが異なるチームらしい。

そのチームのボスがどんな構想で新しいイタリアのAC挑戦チームを作り上げようとしているのか、とても深い興味を覚えた。

 


ベルテッリは、初めてACに挑戦するに当たって、手に入れることのできる最も新しいAC優勝経験艇をトレーニング艇として購入することを選んだ
photo by Pat David

 

ついに発効した第38回ACプロトコル

話しを現代のACに。8月12日、AC保有クラブのロイヤルNZヨットスコードロンとその代表チームETNZ、そして挑戦者代表ロイヤルヨットスコードロン(英国)とその代表チームのアテナ・レーシング(代表ベン・エインズリー)は、双方が第38回ACプロトコル(レース実施要項)にサインしたことを発表。

これにより、第38回ACの挑戦状が8月19日から正式受け付けされることになった。

今回のプロトコルには、今後のACは2年ごとの開催を目指すこと、5人のクルーの中に少なくとも1人の女性セーラーを含むこと、チーム予算の上限規定などが盛り込まれ、贈与証書を尊重しつつ、未来に向けてACを発展させていく機運に満ちている印象。

エインズリーも、挑戦資金の獲得に成功したようで、さすがです。

2カ月(※下記記事参照)もお節介な心配をここに書いてごめんなさいね。

次回ACはナポリで開催&バーリングがルナロッサに加入!|AC日記2025-8②
プラダ・グループの総裁が7度目のアメリカズカップに挑む|AC日記2025-9

 


プロトコルにサインして握手する両ヨットクラブの会長と、それを喜ぶ両代表チームのCEO。おめでとうございます
photo by Suellen Hurling / RNZYS / America’s CupI 

 

(文=西村一広)

 


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西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


 

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