最強セーラー・バーリング獲得成功のルナロッサ!ベルテッリ悲願の銀杯獲得へ|AC日記11月号②

2025.12.24

世界最高峰のヨットレースであるアメリカズカップ(以下、AC)シーンでも、大きな存在感を放ってきたルナロッサ

イタリアの高級ファッションブランド、「PRADA」グループ会長のパトリツィオ・ベルテッリ率いる同チームは、これまでの挑戦でも重要なポジションに国外の経験豊富なセーラーを起用し、それがルナロッサ躍進の一因となっていた。

そして、次回38回ACではいよいよ「現代最強」と呼ばれるセーラー、ピーター・バーリングが加入する。今回はその裏側をプロセーラーの西村一広さんに考察していただいた。(編集部)

※本記事は月刊『Kazi』2025年10月号に掲載されたものです。本記事の前編はこちら

◆タイトル写真
Ana Ponce / America's Cup|そしてピーター・バーリングが再びACの舞台へと戻ってきた。舞台裏を知っている人たちから見れば、これもベルテッリの演出か策略通りなのだろう。表舞台を楽しめばいいACファンとしては、とても面白くなってきた

 

そして、バーリングが登場する

そうしてベルテッリは、過去6回戦ったAC挑戦者選抜戦で優勝2回、準優勝3回という抜群の戦績を残してきた。

ACの世界では、例えば紅茶のリプトン卿(英国)、ボールペンのビック男爵(フランス)など、古(いにしえ)の時代のAC挑戦に財力を注ぎ込んだビジネス成功者たちが伝説として語られることが多い。

しかし次回ACを含めると8度もACに挑戦し続けているパトリツィオ・ベルテッリは、すでにそれら過去の挑戦者たちを超えた、現代に生きるAC伝説そのものだと言って過言ではない。

2027年開催予定の第38回ACは、史上初めて、ベルテッリの自国イタリアで開催されるACになる。

そんな特別なAC戦にベルテッリが立てた必勝戦略。その根幹となるものは何か?  個人の意見に過ぎないが、それがピーター・バーリングだ。

 


第31回AC挑戦者選抜戦では3位に終わったルナロッサ。このAC戦ではラッセル・クーツ率いるスイスチームが挑戦者に勝ち上がり、そのままACでも圧勝、カップは初めてヨーロッパ大陸へと渡った。ベルテッリの闘争心に火がついた
photo by Luna Rossa

 

暗躍する生きた伝説

ピーター・バーリングがエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)からルナロッサへの移籍を発表したとき、ETNZは第38回ACのプロトコル草案をすでに発表していて、その中に、「第37回ACに出場したセーリング選手は第38回ACでは別のチームに移籍してはならない」とするルール案が含まれていた。

誰が考えてもそれは、詰まるところ、バーリングが高い契約金でETNZから流出するのを防ぐ目的のルールで、だから「バーリング・ルール」とも呼ばれていた(こちらの記事で詳報→バーリング・ルール?AC絶対王者のスキッパー放出の謎を考察/AC日記2025-7①)。

それがあったから、バーリングがルナロッサへの移籍を発表したときには大きな違和感を覚えた。

バーリングは、ただルナロッサの選手たちのコーチをするためだけにETNZを離れたのか?

あとになってその答えが明かされることになった。ベン・エインズリー率いる挑戦者代表の英国がサインをして、次回第38回ACの正式プロトコルが発表されたとき、そこからは「バーリング・ルール」が完全に抹消されていた。

つまり、バーリングはルナロッサの選手として第38回ACの挑戦者決定戦にもAC本戦にも出場することができる。ベルテッリがほうぼうに手を回し、ETNZや英国だけではなく、さまざまな個人やチームと密約を交わして仕組んだのだろう。

そうとしか考えられない。そしてその真相は表に出ることはなさそうだ。

次回ACでもバーリングの凄腕セーリングが見られると思えば、それはそれで楽しみが増えたのだけれど、それにしてもイタリア男ベルテッリ、AC界の生きた伝説と呼ぶに相応しいお人だなぁ。


photo by Luna Rossa
パトリツィオ・ベルテッリ。1946年生まれ。この人物がイタリア国内の地域ブランドだったPRADAを世界的高級ブランドへと急成長させた。AC初挑戦の2000年には国内大学から企業経営学の名誉学位も授与されたという

 

(文=西村一広)

 


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西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


 

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