創業70年近い歴史をほこる油壺の老舗ヤード、油壺ボートサービス。その代表、日髙芳子さんと夫の博人さんが選んだ名艇、それがアレリオン エキスプレス28。あまたの艇を見守ったお二人が到達した境地は、まさにデイセーラー。現在は、お孫さんたちと一緒にセーリングしているらしい。ぜひ話を聞いてみよう。
◆メインカット
photo by Yoichi Yabe | 三浦半島の油壺湾にたたずむ、油壺ボートサービス(ABS)の桟橋に係留された〈アレリオン〉(アレリオンエキスプレス28)。緑豊かな景観とABSの美しい社屋、そしてデイセーラー。この桟橋を見た海外のセーラーが「ジブリ映画のワンシーンのよう」と評したとか。納得
〈ALERION〉ALERION EXPRESS 28
〈アレリオン〉(アレリオン エキスプレス28)
なんだかにぎやかな取材
月刊『Kazi』誌の連載「油壺、今昔ものがたり」の筆者、油壺ボートサービス(以下、ABS)の社長、日髙芳子さん(愛称、おっこさん)がアレリオン エキスプレス28(以下、AE28)に乗ってらっしゃるということは知っていて、ずっと取材したいなあと思っていた。このデイセーラー特集はよき機会、と連絡すると「いつも孫たちと乗っているから、取材も孫を乗せていいですか?」とお返事。なんだかすごく楽しそう(笑)。芳子さんとも懇意な海洋写真家の矢部洋一さんに撮影を依頼し、うきうき気分で油壺へ向かった。
私たちを最初に迎えてくれたのは中学2年生の日髙志子(ゆきこ)さん(14 歳)。「ゆきちゃん、久しぶり~」と、矢部さん。撮影に参加してくれる日髙家のお孫さんの一人である。仕事から戻った芳子さんの夫、日髙博人さんに続いて、太田湊人(みなと)くん(11歳・小6)、太田颯輔(そうた)くん(11歳・小5)が芳子さんと一緒にわいわいとやってきた。
今回最年長の志子さんが率先して艤装を手伝う。子どもたちは立派なクルーなのである
お孫さんたちと〈アレリオン〉のセーリングを楽しむ。左から太田湊人(みなと)くん(11 歳)、日髙博人さん(祖父)、太田颯輔(そうすけ)くん(11 歳)、日髙志子(ゆきこ)さん(14 歳)
「ずっと、ナサニエル・ヘレショフがデザインしたようなクラシカルな艇が欲しくて。何年も探して、やっと巡り合いました。2017年のことです。高価なジャンルですが、価格も折り合いがついて。33フィートよりも28フィートのほうが見た目がかっこいいなと思って、アレリオンの28フィートにしたんですが、孫が7人になりました。今にしてみれば、もう少し大きくてもよかったかも(笑)」(芳子さん)
現在、芳子さんと博人さんは、ほかに3艇のヨットを所有管理している。〈アマランテ〉(ギブシー32)、〈旭〉(S&S 32)、そしてドラゴン級。いずれも元の所有者や管理者から、信頼ある人に引き継いでほしいと頼まれたものだ。その中でAE28は自分たちが欲しくて手に入れた艇である。艇名も〈アレリオン〉とした。この4艇全てに愛着はあるし、大切にレストアしながら乗っているが、〈アレリオン〉への思いはほかの3 艇とは少し違うようであった。
(その2へ続く)
油壺湾を出たら、子どもたちだけでセールアップ。元気な掛け声が響き渡る
ALERION EXPRESS 28
●全長:8.61m
●全幅:2.49m
●喫水:1.37m
●排水量(バラスト含む):2,585kg
●バラスト(鉛):998kg
●セールエリア:32.70m2
●設計:カール・シューマッハー
●建造:アレリオンヨット
●エンジン:ヤンマー2YM15
OWNER
日髙芳子さん(左) Yoshiko Hidaka
日髙博人さん(右) Hiroto Hidaka
油壺ボートサービス代表の日髙芳子さん(手前)と、夫の博人さん。芳子さんの両親、福留清彦さん、圭子さんが昭和30年代前半に創業した修理工房を現在も引き継ぐ。2017年にアレリオン エキスプレス28に出合う。現在は7人のお孫さんたちと一緒に、油壺沖の海に帆を揚げている
(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=矢部洋一)
※関連記事は月刊『Kazi』2024年10月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ