本来、昨年大会と同じ新西宮ヨットハーバーで開催が予定されていた「第85回全日本学生ヨット選手権大会」だが、新型ウイルス蔓延のため、大会以外の一般セーラーの利用が少なく「三密」を避けやすい和歌山セーリングセンターに舞台を移し、11月1~3日の3日間、全国の予選を勝ち抜いた30大学144艇が集まり、2020年の大学王座をかけた戦いが始まった。
大会初日の11月1日はあいにくの微風で、午前中は陸上で風待ち。D旗の掲揚で海上に出航してからも風が安定せず、なんとか310°方向からの風が6ノットほどで安定し始めたのが13時過ぎ。470級がブローでオンデッキになる程度の風の中でレースが始まったのだが、470級が第3マークを回航して2回目のアップウインドコースを走り始めたところでピタリと風が止み、そのレースはキャンセル。スナイプ級は、フリートの3分の2が第1マークを回航したところでN旗が掲揚されてノーレース。
しばらく風待ちをしたところで、再び同じ風向の平均4~5ノット程度の風が吹き始め、14:26に470級がスタート。この日は、キャンセルになったレースを含め両クラスあわせて4回のスタートが行われたのだが、リコール艇が1艇もない全てオールフェアのスタートとなった。例年、ゼネラルリコールが繰り返されるインカレとは思えない光景となった。大会日程が例年より1日少ないことから成立レース数が少なくなることが予想され、選手たちは全体的に慎重になっている様子がうかがえる。コロナ対策もあり、ハーバーでの応援も行わないこととなり、一種異様な雰囲気の中で始まった今年のインカレである。
14時をまわってようやくスタートしたインカレ第1レースだが、470級のトップ艇がフィニッシュラインを目の前にしたところで、またもやピタリと風が止み、関西学院大学の上野/大野が16番でフィニッシュラインを横切ったところでタイムリミット! なんと全72艇中56艇がDNFとなる大波乱。3艇全てがフィニッシュできたのは昨年の覇者・慶應義塾大学1校のみ。2位の早稲田にトリプルスコアに近い51点差をつけ、初日にして早くもクラス連覇に向けて絶好の位置につける形となった。2位以下は2艇がフィニッシュできた早稲田大学、日本大学、関西学院大学の順となり、荒れたレースとはなったものの、実力校がきっちり上位に名を連ねる形となった。
一方、スナイプ級は第2マーク(第4レグを走りきったところ)でコース短縮となったため、DNFは3艇のみ。こちらは、第1上マークから1-2-3で飛び出した早稲田がそのままの順位でフィニッシュして、第1レースを最少失点6点でダントツの首位に立った。しかも、3艇のスタート位置はバラバラ。アップウインドレグのコースもセパレートしつつ、第1マークでは折り重なるようにしての1-2-3回航という胸のすくようなヨットレースをやってみせた。実はこのレース、キャンセルになったレースでヘルムスマンを務めていた谷川隆治に代えて尾道佳諭を抜擢し、その尾道/海老塚がトップフィニッシュを決めるというドンピシャの采配が行われていた。「キャンセルになったレースで谷川のパフォーマンスがよくなかったこともありますが、今日のように不安定な風は尾道が得意とするコンディションなので思い切って選手交代させました。正直、これほどハマるとは思ってませんでした」というのは、早稲田大学の関口監督。
気になる総合成績は、470級で2艇以上フィニッシュした早稲田、慶應義塾、日大、関西学院がトップ4に並び、それを中央、同志社、明治、福岡大が追うという展開。各クラス1レースしか行われていないにもかかわらず、DNFによって大差がつくという残酷な初日となってしまったが、明日も不安定な風が続く予報となっており、まだまだ何が起きるかわからない。
キャンセルも含め、この日行われた両クラス全4回のスタートではリコール艇が1艇も出なかった。このスナイプ級のスタート直前の画像を見てわかるとおり、きれいに真ん中が凹む形状を見せている。
キャンセルになったレースでは日大がよく走っていた。今のところ総合3位につけているが、実力のある選手が揃っているだけに明日からの巻き返しに期待がかかる。
昨年のスナイプチャンピオン京都大学。近北インカレでもクラス優勝を果たし勢いに乗りたかったところだが、初日は7位と出遅れ。ただ、スナイプ級は各校の失点差が少ないので、順位が大きく入れ替わる可能性が高い。
470級が2回目のアップウインドを走っているときに風がピタリと止まり、運営艇にN旗が掲揚された。
470級で唯一3艇がフィニッシュすることができた慶應義塾大学。昨年のような爆発力はないものの、インカレ巧者らしい手堅い走りでクラスV2に向けて好発進。
早稲田大学の3艇が折り重なるようにして第1マークを回航。直前に行われた乗員変更がピシャリと当たり、華麗な1-2-3フィニッシュを決めてみせた。
トップでフィニッシュラインにアプローチした早稲田大学の西村/新井だが、ライン直前でラフィングして減速。「3番艇が遅れていたのが見えたので、できるだけタイムリミットを遅らせるためにフィニッシュライン手前で待ったんですが……」(西村)。フィニッシュ直前で風が落ち、自分のことで手一杯になりそうなところ、冷静に僚艇の状況を見極めた行動だった。
(文・写真=松本和久)
◆470級・上位暫定成績[1日目終了時点]
◆スナイプ級・上位暫定成績[1日目終了時点]
◆総合暫定成績[1日目終了時点]
第85回 全日本学生ヨット選手権
■2020.11.1~3
■和歌山セーリングセンター