月刊『ボート倶楽部』では、2019年から「フネのDIY術」という記事を連載し、東京ボート(埼玉県八潮市)のベテランスタッフの協力のもと、ボートに関するDIYの技術や船体に対する情報をお伝え中。今回は、2019年11月号に掲載した、「磨き③ ガラスやアクリルも磨けるの?」から内容を抜粋して、フネの磨きに関する情報をお届けします。
<CAUTION>
研磨することで、表面に傷がついたり、塗装がはがれるなどの損傷が生じる場合があります。リスクをしっかりと認識して、自己責任で行ってください。
磨く難しさ
これまでに、コンパウンドやポリッシャーと関連づけながら、船体を磨くバフがけの難しさやコツなどの話を進めてきた。船体磨きで重要なこととしては、コンパウンドの粒子は、粗めのものから徐々に細かいものに変えて作業を進めていくことや、それと同時に、ポリッシャーのパッドの素材も、硬いものから徐々に柔らかいものに変えていくといい、ということなどが挙げられた。いずれにせよ、「磨く=削る」ということを意識して、リスクと作業効率のバランスを取りながら、作業を進めることが大切だ。
そしてそのことは、船体以外を磨くときにも当てはまる。船体以外の磨きとは、すなわち、ガラスやアクリル、または金属のこと。素材は変われど、磨く=削るというのは変わらず、特にガラスはいったん傷がついたときのリスクが大きい。東京ボートのサービス部長である伊藤幸洋さんは、そのことを踏まえて、ゲルコート、ウレタン(塗装)、ガラス、アクリルの順で磨きは難しくなると話す。
「ゲルコートやウレタンは、仮に失敗しても、塗り直しができる、つまりやり直しがききます。でも、ガラスは傷がついたら交換するしかありません。そんなガラスよりもアクリルのほうが難しい理由は、素材が柔らかくて傷が入りやすいからです。僕は、専用の研磨剤か、めちゃくちゃ細かい研磨剤を使っています。ただ、アクリルに大きな傷が入ってしまっている場合は、粗めに削っていかないと傷をなくせません。その場合は、船体を磨くときと一緒で、粗めから細かめへと研磨剤を変えていくんです。そうしないと、アクリルは透明だから、傷の場所がすぐにわかってしまうんですね。しかも、傷がある箇所だけを集中的に深く削ると、その部分だけへこんだようになってしまいます」
よく削れ、しかも透明だからこそ難しいアクリル。平らな板でよければ、アクリルは比較的安く購入できるので、状態によっては新しいものに交換するのも得策だ。
東京ボートで使われている、ガラス用の研磨剤。ボート用のものでなくても、クルマ用でも十分とのこと
アクリル用の研磨剤、アクリサンデー。粒子が細かく、アクリルのほかに金属類のツヤ出しにも使える
ポリッシャー選び
ガラスやアクリルによく見られる汚れは、一般的にウロコと呼ばれているもの。これは、水道水や海水に含まれるミネラルや不純物が乾燥したときに結晶となってこびりついた、いわゆる水あかだ。風呂場の鏡の汚れと根本的には同じものだが、掃除する範囲が広いこともあり、基本的にはポリッシャーを使って研磨していくことになる。
ガラスやアクリル磨きで使用するポリッシャーは、ダブルアクションと呼ばれる回転方式のものが適している。ダブルアクションは、パッドの中心をずらしながら回転して磨いていくタイプで、はたから見ると、パッドが回転しているというよりも、その場で振動しているように見えるのが特徴だ。作動音は、歯科医が切削器具で歯を削るときのような音に似ている。
ダブルアクションタイプのポリッシャー。DIY初心者にぴったりなので、最初に買うならこのタイプがオススメだ
前回の本連載に登場したポリッシャーは、シングルアクションと呼ばれるもので、これは、名前の通り、パッドが単一方向に回転するタイプ。同じ方向に向かって回転するため、どうしても回転方向に沿った傷や磨き跡が残りやすくなってしまう。しかし、研磨力が強いため、高い技術を備えていて、かつ、すばやい作業が求められるプロには、うってつけのポリッシャーといえるだろう。
ダブルアクションは、パッドの動き方こそ複雑だが、そのぶん磨きの跡がつきにくく、また、研磨力が比較的弱く、繊細な作業に向いているため、初心者が使う場合、あるいはガラスやアクリルを研磨するときに最適なのだ。もし、DIY初心者で、どのポリッシャーを買うのがいいか迷ったら、ダブルアクションがオススメだ。
そのほかに、ギアアクションと呼ばれるタイプもあるが、これは変則的なパッドの回転が特徴で、研磨力はシングルとダブルの中間といわれている。
いずれのタイプにせよ、そのパッドの動きは円状が基本となるので、ガラスやアクリルの四隅のような場所は、パッドを当てるのが難しく、磨くことができない。多くの場合、視界の確保には問題ないが、どうしても気になるという人は、手磨きで対応すればいいだろう。
適当なボートのウインドーがなかったので、今回はクルマのリアウインドーに研磨剤を塗布し、ダブルアクションタイプのポリッシャーで磨く
【Before】
薄くて小さいが、ウロコ状の水あかがこびりついているのが見えるだろうか。こんなわずかなウロコでも、操船者の視界を妨げてしまう
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【After】
1分ほど軽くバフがけしただけで、いとも簡単にウロコが取れ、クリアになった。作業自体は単純だが、ガラスは傷がつくと修復できないため、慎重な作業が大切だ
(文・写真=BoatCLUB編集部)
※本記事は『BoatCLUB』2019年11月号から抜粋したものです。バックナンバーおよび最新刊もぜひご覧ください。
東京ボート
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