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革新的なプレジャーボートを手がけるArchipelago Expedition Yachts社(英国)が、洋上風力発電分野の次世代船舶設計のパイオニアであるChartwell Marine社(英国)とコラボレーション。「Archipelago zero.63 catamaran」のプロジェクトを発表した。
このボートは、メタノールを燃料とすることでゼロカーボンを実現するもので、プレジャーボートとしては史上初のものとなる。異業種による今回の共同プロジェクトでは、それぞれの分野での信頼できるパートナーと共に、船舶設計におけるメタノール推進技術を導入を進めるべく取り組んでいく。
Archipelago zero.63は、メタノール改質型燃料電池技術とメタノール燃焼エンジンを組み合わせた単燃料船舶だ。2022年に発売された「Archipelago 47」の姉妹モデルとなる。
この新しい19.2mのカタマラン(双胴船)は、連続で2,000海里を超える航続距離を誇り、穏やかなクルージングと冒険的な航海の両方を念頭に置いて、設計コンセプトが固められていったものだ。
最高速度は18ktで、船体は軽量で持続可能な素材であるアルミニウム製。Chartwell社のハイパフォーマンス・カタマランの特徴である高い乾舷を採用し、波の打ち込みを防ぎドライな船上空間を実現している。
すでに商業船舶市場では、メタノール燃料に大きな投資が行われている。一方、プレジャーの分野では、環境に配慮した選択肢としては、主に電気駆動に限定されているのが実情だ。しかし、バッテリー(電気)はエネルギー密度が低いため、長距離航行のエネルギー源としては必ずしも適していない。
Archipelago Expedition Yachts社のミッションステートメントは、「持続可能で高性能なエクスプローラー(長距離外洋航海を目的とするボート)を造ること」であり、メタノール燃料による推進システムは、そのビジョンに合致している。エネルギー密度が高く、日常的にありふれたもので、海洋に流出しても安全で、なおかつ持続可能なバイオマスであるメタノールを使うことでCO2もほとんど排出しない。
Archipelago zero.63は、二つの船体の間の広々とした空間にフレキシブルなレイアウトを実現することができ、四つのキャビンに最大8人のゲストが快適に過ごすことが可能だ。この柔軟性は推進システムにも及んでおり、メタノール改質システムは、新しいテクノロジーの出現に応じて他のシステムとシームレスに交換できるように見据えられている。
デッキには、合計300kWの燃料電池を収納することができる「メタノールルーム」があり、デッキハウスの屋根には40㎡のソーラーパネルが設置されている。
Archipelago Expedition Yachts社のマネージングディレクターであるStephen Weatherley博士は、次のように話す。
「このプロジェクトでは、電気推進や水素推進について、プレジャーボートで実用化するにはまだ早いと思われるノイズ(障害)を取り除きたいと考えていました。メタノールは、持続可能かつ実用的で冒険的な企業を標榜する私たちにとって、すべての条件を満たす代替燃料であり、私たちの最新のプロジェクトの中心に据えられていることを誇りに思います」
一方、Chartwell Marine社のディレクターであるAndy Page氏は、次のようにコメントしている。
「このたび、Archipelago Expedition Yachts社と再び協業することになり、商業船舶の分野における革新的な技術を、別のユニークなレジャーデザインに導入する機会を得ることができ、大変うれしく思っています。Archipelago zero.63は、マーケットでは初の製品であるだけでなく、将来的に洋上風力発電船部門にメタノール推進技術を応用するための完璧なコンセプトの証明となると考えています」
Weatherley博士は、IBIが参加しているサウスコースト&グリーンテックボートショー(英国:2024年4月)で、このプロジェクトについて講演する予定だ。
●Archipelago Expedition Yachts
https://www.archipelago-yachts.co.uk/
※IBI NEWS(2023.4.21配信分より)
文=David Robinson (IBI) 翻訳=舵社/安藤 健 写真=Archipelago Expedition Yachts
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