
シーマンシップとは、「船乗りに必要とされる技術の総称。日本では、時に精神や根性などの『潮っけ』も含めて使われることもある」と、「web版 ヨット/モーターボート用語集」にある。今回は、そんなシーマンシップの大会である「アトランティックチャレンジ」の競技種目、全11種について解説。カイ&エリこと、山本 海さんと絵理さんが目指した各種競技。それは、実にユニークで示唆に富んだ内容であった。(編集部)
◆メインカット
photo by Kai Yamamoto | SAILING & ROWING RACE種目、セーリングレースのスタートシーン。一般のヨットレースさながらに、伝統船を操る参加者たち

創設者のランス・リーによる開会宣言! 「国際的な理解、絆、友情を育むことが目的です」
開会式で僕とエリ(左。山本絵理)は、ランス・リーから壇上で紹介してもらい、バントリーベイギグの設計図を贈呈された
ベルファストの港を、各国のバントリーベイギグでパレード。この町ではアトランティックチャレンジが周知されており、 多くの地元の方々から応援の声をもらった
ランス・リーからの贈り物
競技は11種目に分かれていてそれぞれポイント制で競う。1位はポイントゼロ、順位が下がるごとにポイントが高くなり、全体のポイントが最も少ないチームが優勝となる。
大会は華やかなパレードから始まり、港での開会式となった街全体が応援してくれているのが分かる。「ボートコンテストのクルーかい?」「明日はどのあたりの海域で競技するの?」「応援しているよ!」と何度も声をかけてもらえ、安心して街で過ごすことができた。
開会式の中、創設者であるランス・リーから「日本から参加したカイとエリ、彼らはチームジャパンを作り、僕らの仲間として日本でシーマンシップを広げる活動をしたいと申し出てくれた」と全員に紹介をしてくれた。なんとありがたいことに、リーはバントリーベイギグの設計図を僕らにプレゼントしてくれたのだ。この設計図はアトランティックチャレンジに僕らが加盟できたことを表している。アトランティックチャレンジはギグを造るところから始まる。
バントリーベイギク。全長38フィート、全幅2mの木造船。オリジナルはフランス海軍の軍艦に搭載されていた交通艇だ。アトランティックチャレンジに参加しているチームは、それぞれ船をすでに持っているチームから購入するか、建造して正式にチームとして認められる必要がある。この設計図を創設者から贈られたということは、僕らは日本チームとして参加する権利を得たと同時に、近い将来、船を建造しなければならないということだ。感動以上に、そのプレッシャーに興奮する瞬間だった。
アトランティックチャレンジ
11種各競技解説
シーマンシップを競う本大会に課せられた競技内容を紹介する。
SAIL/セール
セーリングによる、トライアングルコース2周のレース。タッキングを行う時にはオールを一本出して良いが、セールを返した(タックを変えた)後にはオールを艇外に出してはいけない
OAR/オール
2マイル(およそ3.7km)を漕走で進む。最も体力のいる競技。大会の最後に行われ、ゴールしたら海に飛び込んでそれぞれの船に泳いであいさつしに行くのが伝統
SAIL&OAR/セール&オール
セーリングレースとほぼ同じルールだが、アップウインドレグはセールを降ろして漕走する。セールのアップダウン、オールの出し入れという動作が入るのでより高い技術・訓練が必要になってくる
セーリングで先行する僕らインターナショナルチームの〈ロイヤリティー〉(左)は、セール&オールで優勝した!
パワー種目であり、チームワークも試されるローイング
CREW-OVER-BOARD/クルーオーバーボード(MOB)
落水者救助種目。ほかのチームのクルーが自分の船に乗り込み、スタートから決められた区間の中で水に飛び込む。クルーをいかに早く助け、いかに早くゴールに向かうかを競う
CAPTAIN'S GIG/キャプテンズギグ
キャプテンが船に戻る時、港で「あれが我が船のクルーだ」と自慢できるように操船して漕ぎ着け、船長を迎える。優雅さ、正確さ、速さ、静かさが審査の対象になる格式高い競技
JACKSTAY TRANSFER/ジャックステイ・トランスファー
マストを立て、陸との間にジャックステイ(ロープウェイ)を作り、このジャックステイを介してザック(荷物)を陸から船に運び込み、再びマストを倒してスタート地点へ戻るタイムを競う
ESPRIT/エスプリ
毎回テーマに沿った課題が与えられる。各チーム混合により、今回は地図に示されたヒントを読み解き、海域に隠された宝(お菓子とか)探しを競った。言葉と文化の壁を超える!
KNOTS&SPLICES/ノット&スプライス
大会途中で急に始まるロープワークの競技(荒天時が多い)。点数制で全てのクルーが無作為で選ばれ、指定された結び方、スプライス、またはホイッピングを行う
NAVIGATION/ナビゲーション 
ナビゲーションを競う。クロスベアリング、正確なスピードを維持するクルー、自船のスピードを正確に測るナビゲーターが必要。コックスン(操舵手)、ナビゲーター以外は喋ることはできない
SLALOM/スラローム
舵を外した状態の船で、スラロームコースを2隻で競走する。コースは4~5カ所あり間隔は狭い。舵を握り、号令を出す役であるコックスンの的確な指示とクルーとの息が鍵を握る
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和船帽子の陽気なダグラスさんとの出会い/カイ&エリが挑戦・シーマンシップ大会1-1
(文・写真=山本 海/スピリット・オブ・セイラーズ 写真=ディラン・ラッズ、山本 海、山本絵理/スピリット・オブ・セイラーズ)
※本記事は月刊『Kazi』2025年6月号に掲載されたものを再編纂しています。バックナンバーおよび電子版をぜひ
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山本 海
Kai Yamamoto
セイルトレーニング帆船〈海星〉勤務後、国内外の数々の帆船で活躍。2015年スピリット・オブ・セイラーズを設立。ISPA公認スクールを開講(沖縄、三重など)。「DIY無人島航海計画」を主催。マリンジャーナリストとしても、活躍中。現在、マリーナ河芸やシーガルヨットクラブを拠点に活動中。 https://spiritofsailors.com