瀬戸内海で最大かつ最も人口の多い島、淡路島。最近何かと話題のこの島から、特にディーゼルエンジン仕様の愛艇を持つボーターにとって耳寄りな情報である。
従来、消防法で認められていなかった運搬車からの直接給油が、兵庫県と地元企業が協力し、法律と設備環境を整備することで可能となったのだ。どんなサービスなのかを見ていくとともに、リゾートアイランドとして注目を集める淡路島の魅力も探っていこう。
運搬車から直接給油
この夏、淡路島にある7つの港で、プレジャーボート向けの給油サービスが始まった。といっても、常設の給油施設がオープンするわけではなく、事前の注文に合わせてタンクローリー車が港に駆けつけ、ボートに直接給油するというスタイルだ。
事業を手がけるのは、淡路島でガソリンスタンド経営や石油卸業を展開する久米石油という地元企業。同サービスで給油されるのは、軽油および主に大型船の燃料となるA重油。したがって、サービスを利用できるプレジャーボートはディーゼル仕様艇に限られ、またボートは港の岸壁に係留するため潮の干満に気を払う必要があるが、それでも今後このエリアのボーティングを大きく変える可能性を秘めた画期的な試みといえるだろう。
淡路島は離島ながら、車でもアクセスのよいロケーションにあり、国生み神話に彩られ、豊かな自然、山の幸・海の幸にも恵まれる。人気の観光地として全国的によく知られているが、ボーター/セーラー目線からも非常に魅力的な島である。
阪神エリアの主要マリーナからは20マイルほどと、デイクルーズにおあつらえ向きの距離にあり、大阪湾、播磨灘、紀伊水道と、瀬戸内海でも特長の異なる3つの海の真ん中に淡路島が浮かんでいるわけで、クルージングをするにも釣りをするにも何かと基準になる島なのだ。
そんな淡路島に立ち寄って給油できる港が7つ増えるわけだから、エリアのボーティングの幅が広がるのは間違いない。地元はもとより、ロングクルーズで当地を訪れる全国のボーターやセーラーにとっても、貴重な立ち寄り先が増えることになる。
サービスの始まった淡路島の港の一つ、郡家港の様子。港に入ってすぐの進行方向左側の岸壁でサービスが受けられる
郡家港の岸壁に実際に係留している様子。岸壁内側の地面が白くなっているところが船舶給油取扱所となり、周囲に溝を設定するなど消防法に沿った仕様となっている
実際の給油は、スタッフが迅速かつ、ていねいに行ってくれる
給油中は、岸壁に張られたタープの下で仮設のビールサーバーが用意され、キンキンに冷えたビールを飲むことも。久米石油では、こうしたサービスの可能性も検討中
郡家港そばの「淡路島 回転すし 悦三郎」にてランチ。郡家港から1.5キロほどのところにある。回転寿司ながら、ネタは新鮮な地魚を使用した一級品ばかり。テイクアウトも可能だ。その他、飲食店が港のそばにたくさんある
開発が進む淡路島では、さまざまな宿泊施設も用意されている。写真の「Lazy Inn.」は、郡家港から約1.3キロ、全6棟のヴィラからなる宿泊施設。全室ハンモック、バーベキュースペース完備。カフェも併設されている
県と協力で法の壁をクリア
この給油サービス事業が画期的なのは、タンクローリーから直接ボートに給油する手法である。大きなイニシャルコストをかけて常設の給油設備を新設する必要がなく、当然その設備を運営するためのランニングコストも不要。タンクローリーが駐車できボートを着けられる岸壁が確保できれば、比較的簡単に給油ポイントを増設できるのだ。
なぜこれまで大々的に実施する業者が現れなかったのか不思議な気もするが、実はそこには法律の障壁が存在していた。タンクローリーからの1,000リットル以上の直接給油は、一部の例外を除き消防法で禁じられている行為なのである。そして今回の淡路島の事例は、事業者である久米石油と港湾管理者である兵庫県が協議を重ね、簡易的な設備を整えることで法律をクリアしたのだ。
「設備自体は簡単なものですが、その許可を通すのが大変。容量16,000リットルの大型ローリーで許可をいただいたのは、民間ではうちが初めてなのではないでしょうか」
そう説明するのは久米石油の代表取締役である久米基支さん。観光での地域おこし・再開発が進む淡路島にあって、プレジャーボートにももっと気軽に立ち寄ってもらえたらと発想し、約1年間の調査、県との協議を経て、サービス開始までこぎ着けた。単に給油サービスにとどまらず、何かと敷居の高い港湾に、堂々と船を係留できるお墨付きを得たわけで同社の功績は大きい。
給油ポイントとなる7つの港とは、郡家港、岩屋港、津名港、洲本港、都志港、湊港、福良港で、島の全周にほどよく分散している。また現在のところ、久米さんは岸壁にテントやタープなど仮設の施設を用意し、飲食サービスの可能性も模索しているという。
さらに港によっては、トイレや給水施設が用意されるだけでなく、近隣に温泉施設や宿泊施設があるところもあり、単なる給油ポイントにとどまらないクルーズ&淡路島観光のベースとしての期待も膨らんでくる。
8月には港で借りて、港で返せるレンタカーサービスも開始。これは、全プレジャーボーターにとって、非常に嬉しい情報だ。大きく変貌する淡路島が、これからプレジャーボーターにとってどんな存在になっていくのか、新設の給油サービスの今後の展開とともに要注目である。
淡路島の北端部の港、岩屋港。車で5分弱のところに、人気の温泉施設「美肌・松帆の郷」あり
岩屋港の近くには「道の駅あわじ」があり、島の特産品がそろうほか、「島はもナゲット」や「淡路島 藻塩レモンスカッシュ」など島グルメも堪能できる
淡路島の東岸中部に位置する津名港。江戸期には畿内交通の要衝となった歴史ある港だ。係留岸壁幅は165メートル、水深3.5メートルで、給水も可能
津名港給油岸壁から徒歩10分ほどのところに「あわじ島つな港海の駅」として登録された、津名港ターミナルもある
島の東岸南部に位置する洲本港。係留できる岸壁幅は60メートル、水深は4メートルほど
津名港と洲本港の間にある岩戸神社(上)は見どころの一つ。洲本港から徒歩10ほどで行けるレストラン「ETHICA(エチカ)」のパスタ(下)は、久米社長おすすめの一品
島の西岸、郡家港の南にある都志港。係留岸壁幅は180メートル、水深は5.5メートル
都志港給油岸壁から3キロほどのところに天然温泉施設「ゆ~ゆ~ファイブ」や、宿泊施設、レストラン、テニスコートなどが併設する「ウェルネスパーク五色」がある
島南西部にある湊港。給水設備あり。港内には「南あわじみなと海の駅」もあり便利。近くには景勝地である慶野松原海水浴場もあり
湊港から1キロ強のところにあるフィットネスクラブ「ゆとりっく」は、うずしお温泉を併設し、クルーズの疲れを癒やすことができる
島の南部、鳴門海峡に近い福良港の様子。写真右手、港内の中程に給油岸壁がある
福良港内の「うずしおドームなないろ館」には足湯「うずの湯」(上)があり、巨大たまねぎオブジェ「おっ玉葱」(下左)がそびえる「うずの丘大鳴門記念館」では、「あわじ島オニオンビーフバーガー」(下右)も楽しめる
●問い合わせはコチラから!
久米石油
TEL:0799-36-3345
MAIL: kumesekiyu@gmail.com
(まとめ=BoatCLUB編集部 文=福留秀人 写真=山岸重彦/舵社)
※本記事は『BoatCLUB』2022年9月号から抜粋したものです。バックナンバーや電子版、最新刊も、ぜひご覧ください。
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