2馬力ボートは、ビギナーもベテランも、ボート免許を持っていなくても、誰もが乗れて楽しめるボートとして、根強い人気がある。
ボートライフの入り口として初めて所有して楽しむ人もいれば、セカンドボートとして所有して特定の遊びを満喫する人もいる。
楽しみ方は十人十色だが、だからこそ、中にはどう楽しんでいいかわからない、という方もいるだろう。
ここでは、2馬力ボートではどんな遊び方ができるのか、そのためにはどんな心構えや準備が必要かをプロショップ経営者であり、自身も2馬力ボートに乗って楽しんでいる、鎌倉ゴムボート コングの山田 肇さんにご指南いただく。
――2馬力ボートでできることは?
「可能性は無限大∞」
多くのボーターは釣りを楽しむためにボートを購入する。2馬力ボートもしかり。山田さんも、もちろん釣りをする。だが、山田さんは釣り以外の遊びも楽しんでいるのだ。
家族でちょっとしたクルージングやシュノーケリングなども楽しんでいるし、少し前になるが、2017年のゴールデンウイークには、当時、小学4年生の息子さんと2馬力ボートで2泊3日のクルージングも実施している。
その際の総航走距離は約50マイル(95キロ程度)。そのほとんどの時間、操船は息子さんが担当した。4~5時間程度走り続けることもあったそうだが、飽きもせず、疲れしらずで、最後まで頑張っていたそうだ。
「2馬力ボートで、そんな長距離を走るのは初めてだったので、どうなるかなと思ったんですが、インフレータブルボートはローリングがないぶん揺れが少ないから、意外と平気で。息子といい時間が過ごせました。子どもって乗り物好きじゃないですか。それをバーチャルではなく、実体験として触れられるし、興味を引き出した上で満足させてやれる。父親の株が上がりますよ(笑)」
とは、山田さんの感想だ。
海は同じコンディションというのがなく、毎回異なる状況下で判断をくださなければならない。大変だが、冒険心をくすぐられることになるし、子どもと一緒に自身も成長できる感じがするという。
2014年にも息子さんと1泊2日のクルージングに出ており、写真はそのときのもの。2017年も含め、クルージング中は操船のほとんどを息子さんが担当した。子どもでも操船できる2馬力ボートはこうした楽しみ方もできる
また、2馬力ボートは十分なスペックがないからこそ、限られた中で、そのポテンシャルを超えるような結果を出せたときの達成感は非常に大きく、そのための創意工夫も楽しんでいるのだとか。
「大きな馬力の船外機を付ければ、ボートをサイズアップすれば、できてしまうことを、いかに2馬力ボートでこなすか・・・それを可能性と呼ぶのかなって。カヤックで日本一周する人はいても、2馬力ボートでは聞いたことがないですよね。まぁやらないですけど(笑)、そういう人がいてもいいんじゃないかなって思います」
そう話す山田さんは、2馬力ボートで試したい遊びがまだまだたくさんあるそうだ。
釣りだけでなく、クルージングやシュノーケリングなども楽しめる2馬力ボート。山田さんは自ら実践して楽しんでいるが、まだまだ遊び方はたくさんあるはずで、それらをずっと試し続けているという
――2馬力ボートでできないことは?
「一つで全部をまかなえるものではない」
「よく、“これ何人乗りですか?”って聞かれるんですよ。船検は関係ないので、定員はボートによりますって答えるんですが、大勢乗るイメージを持たれている方もいます。多人数が乗ると、いろいろと制約されることもあるので、あまりおすすめはしないです。“シェアしましょう”ではなく、“1人1艇持ちましょう”のイメージですかね。カヤックが連なっていくような、ツーリングの感覚。そのほうが楽しいとも思います」
1人1艇で遊ぶことで、相乗効果が生まれ、艤装や遊び方にもそれぞれの工夫が出て、それがまた楽しいのでは、と山田さんは続ける。
家族4人が1艇に乗ることもできるが、“乗る”だけで終わってしまう。2艇に分乗してツーリングすれば、楽しさは2倍以上になるはず
さらに、「どこまで行けますか?」という質問も多いそうだ。そのたび、「それは、その人の経験によります」と答えている。
「2馬力ボートは簡単、簡単って言いますけど、一歩間違えれば命を落とす遊びでもあります。それぞれが船長として責任を持って遊んでほしいと思います」
過信せず謙虚に遊んでほしい。そして、天候に詳しくなったり、同じゲレンデに通いつめたり、そうした経験を積むことで、行動範囲が広がり、それにより遊びの可能性も広がる、その過程も楽しんでほしいと、山田さんは考えている。
砂浜などに上陸するビーチングを楽しむには、それなりのスキルと慣れ、ゲレンデを知ることなどが求められる。遊びの幅を広げるには経験は必須だ
――艤装品やメンテナンスについては?
「乗っていく中で自分に合ったチョイスを」
搭載しておくべき備品について聞いてみたところ、「防水対策をしっかりとしたケータイ」とのことで、それ以外は乗りながら考えていってほしい、と話す山田さん。
当然、長いフラッグを立て、予備の燃料タンクを積み、救命浮環や足踏みのエアポンプ、消火用バケツとアカ汲み用スポンジ、アンカーとアンカーロープなどの最低限必要な安全用備品は積んでいきたい。
ただ、それ以外については、乗りながら・・・だそうだ。乗る前に購入すると、オーバースペックのものや、まだ使いこなせないものを買ってしまうこともある。2馬力ボートに限ったことではないかもしれないが、自分のレベルにあった艤装品選びは大切だ。
「艤装品と仲良くステップアップしていく中で、オリジナリティーが生まれたり、愛着がわいたりすると思います」
ちなみに、オールは必須装備のため、必ず積んでいこう。エンジントラブルがあった際には、オールで漕いで帰ってくることになるので。山田さんは、全部を船外機に頼らず、もっとオールを活用することを促している。「オール+2馬力=ヘリクツ3馬力(笑)」といい、遊びの幅が広がると考えている
ボートの手入れやメンテナンスについても、“ほどほど”でいいと話す山田さん。
「これ使ったんですか!? っていうくらいピカピカなボートを引き取ることもあるんですよ。“いや使ったんだけど、しんどくて”って言うんですけど、そりゃここまで手入れしたらしんどいでしょうって(笑)。その労力を半分くらいに減らしたら。次に出艇するための力になるかと」
手入れをしないということではない。それもボート遊びの楽しみの一つだから。ただ、より海に出るための、ある程度の“割り切り”は必要だという。
「家にスペースもそんなにないでしょうから、片付けは現場でやりきる、その度合いですよね。いい意味で大雑把にあることも必要かと思います。また、傷むことを気にして何かをやめるんではなくて、どれだけ使い倒せるか、だと思います。もちろん、僕の立場としては(新しいボートに)買い替えてほしいというのはありますけどね(笑)」
最後に山田さんは次の言葉で締めくくった。
「ボートはそれなりの値段がするので、みなさん後生大事に使います。それはいいと思うのですが、あくまで道具であって、直すことも買い替えることもできるのを忘れないでください。一番大事なのは命で、次に大事なのは楽しく遊ぶことですから」
手軽に海へ出られるのは、2馬力ボートならでは。ただ、そうして遊ぶには、求められるもの、知っておかなければならないことなどがある。しっかりと準備をして楽しみたい
【補足:あらためて知る、2馬力ボートとは?】
第一に「登録長が3メートル未満であること」。登録長とは、およそ全長の90%なので、実質的に全長3.33メートル未満のボートということになる。ただ、登録長の定義は船型によって異なるため、詳細は運輸局に確認を。
第二に「推進機関の出力が1.5kW未満であること」。これを馬力に変換すると約2馬力。なお、2馬力船外機を載せた状態で、船首などに別の推進機関(バウモーターなど)を付けた場合、片方しか使ってないとしても、1.5kWを超えてしまい要件を満たせないので、要注意だ。
そして最後に、「すぐにプロペラの回転を停止できる機構」という要件がある。キルスイッチや中立ギアなどがこれにあたり、一般的な推進機関メーカーであれば、通常は装備されている。
以上の三つが2馬力ボートであるための要件だが、あくまで免許と船検が要らないというだけで、各種定められた海上交通法規は別。問題が起きた際に、“知らなかった”では済まされないので、ご注意を。
(文・写真=BoatCLUB編集部)
山田 肇(やまだ・はじめ)さん
インフレータブルボートの販売、修理を行っている「鎌倉ゴムボート コング」の店主であり、アキレスの公認社外技術者。ボート好き、海好き、釣り好き、遊び好きが集まれるスペースを神奈川県平塚市に整備している。「ボート選びは、どんな使い方をしたいか、経験者やお店でよく聞いてからにしてくださいね」とのこと。
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