進化を続けるマクラーレンの最新車種「ARTURA」に試乗

2024.09.10

モータージャーナリストとして活躍する教重誠一(のりしげせいいち)さんから、英国のラグジュアリースポーツカー「マクラーレン」の最新モデル「Artura(アルトゥーラ)」の試乗レポートが届きました。

パワーボートやセールボートの造詣も深い教重さん。船の動きも例に出しながら、注目のスーパーカーを分析していただきました。フネ好きの方も、クルマ好きの方もきっと心が踊るレビュー、ぜひご覧ください!(舵オンライン編集部)

 


英国のラグジュアリースポーツカー「マクラーレン」から誕生した、初の量産電動化モデル「Artura(アルトゥーラ)」の最新版である2025年モデルに試乗する機会を得た。

トピックは2つあり、オープンエアーモータリングが楽しめるスパイダーの追加と、2022年に先行デビューを果たしたクーペも同時に、ブラッシュアップされたハイブリッドパワートレインを搭載したこと。最高出力は20ps向上し、両モデルともに700psのパフォーマンスを発揮する。

同時にハイブリッドパワートレインやトランスミッション(主に変速速度)、サスペンションなどの制御系もブラッシュアップ。またワイヤーハーネスを部分的にイーサネット化し軽量化を図るなど、いうなれば“バージョン2”といえる高い完成度を誇る。

 

ちなみにアルトゥーラという車名は「Art and Future」に由来。言い変えれば、マクラーレンのクルマづくりの新章が始まったということだ。同社は「フォーミュラー1」(以下、F1)のキャリアに基づく車両開発を特徴とした自動車ブランド。車体の基本骨格はレースカーのようにカーボンファイバーとなる。しかし、その技術も日進月歩であり、技術的最先端にはF1が常に存在する

 

マクラーレンは1981年にカーボンファイバー製シャーシをいち早くF1に実践投入。同社初の市販モデルであるマクラーレンF1が誕生したのは1992年だ。このモデルもまた、カーボンファイバー製シャーシを採用。今回試乗したアルトゥーラもしかり。どんなクルマでも走行中に少しは車体のたわみが感じられるが、アルトゥーラはまるで金庫のようにわずかな軋み音さえ発することがない。

パワーボートであれセーリングボートであれ、舵を取って意識させられるのは、船体そのものの重心位置とロールセンター位置の相関関係だ。言うまでもなくクルマは大型船のように曲がる向きとは逆側に車体が傾こうとするが、マクラーレンはそのバランスの調整が絶妙。舵角に対しクルマが素直に向きを変えてくれるので、2輪駆動のミッドシップスーパースポーツカー特有の不安感は皆無だ

 

道路には海面のような大きなうねりや波は無いが、アルトゥーラはまるで路面に吸い付くように、路面に対し車体が安定している。スーパースポーツカーなので当然といえばそれまでだが、ドライバーズファーストの次元が異なるのが特徴だ。

電動化で懸念される重量増はまったく感じられない。新規開発のカーボンファイバー製シャーシ。120度のバンク角をもつ全高の低い等間隔燃焼のV6ツインターボエンジンとEモーターはコンパクトかつ軽量。乾燥重量はスパイダーでも1,457kg(オプション装備により若干異なる)だが、クーペと比較してもその重量差はわずか62kgのみとなる

 

バッテリーパックは、乗員の後方に搭載されるエンジンとの間の底部に搭載。まるでバラストのような役割を果たし有利に働いているのではないか、とさえ思えるほど、動的性能に対するネガティブな影響が皆無だ。路面の凹凸、高架式道路の継ぎ目を踏み越えた際の衝撃さえも巧みに受け流し、クルマの挙動を乱すことはない。この完成度はクーペもスパイダーも共通するのだ

 

意外なことに、Eモーター(95ps/225Nm)だけを駆動するエレクトリックモードでの走りが楽しかったことは特筆すべきポイント。EVとしての最高速度は130km/h。裏路地や渋滞のようなシーンでも、スムースかつレスポンスよく、アクセル操作に対するギクシャク感はまったく感じさせない

 

最後に追加モデルのスパイダーの特徴をお伝えしたい。ルーフの開閉(電動)は約11秒。走行中も50km/h以下なら作動する。ルーフはカーボンパネルの他に、透過率を電気的に変化させるガラスルーフも選択することが可能だ。また、スパイダー特有の空力処理の他に、Bピラー後部のバックレストをスケルトンとすることで、後方視界を確保している点も大きな特徴となる

 

なお、アルトゥーラは便宜上、外部電源からも充電可能なPHEVとなる。試乗時にエンジンパフォーマンスを最大限に引き出すトラックモードで約30分間走行したところ、エネルギーレベルが60%から70%超まで回復。普通、充電器を使用すると約2.5時間で80%まで充電可能となり実用性は十分だ。心置きなくミッドシップハイブリッドスーパースポーツカーの走りが堪能できる1台、マリーナへ向かう最高の相棒となることを約束する。

 

 

(文=教重誠一 写真=マクラーレン)
text by Norishige Seiichi photos by McLaren

 

ARTURA  COUPE

〇全長:4,539mm
〇全幅:2,080mm
〇全高:1,193mm
〇車両重量:1,395kg
〇エンジン形式:V6気筒+モーター/3.0Lツインターボ
〇総排気量:2,993cc
〇最高出力:700ps(515kW)/7,500rpm
〇最大トルク:720Nm/2,250~7,000rpm
〇最高速度:330km/h
〇定員:2人
〇車両本体価格:33,000,000円

 

ARTURA SPIDER

〇全長:4,539mm
〇全幅:2,080mm
〇全高:1,193mm
〇車両重量:1,457kg
〇エンジン形式:V6気筒/ツインターボ
〇総排気量:2,993cc
〇最高出力:700ps(515kW)/7,500rpm
〇最大トルク:720Nm/2,250~7,000rpm
〇最高速度:330km/h
〇定員:2人
〇車両本体価格:36,500,000円

 

(問い合わせ)マクラーレン オートモーティブ
https://cars.mclaren.com/jp-ja

 


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