6月10日、東京竹芝の気持ちの良いウッドデッキで、SailGP日本チームに参戦する若人4人の記者会見が開かれた。その4人とは、高橋レオ/森嶋ティムのペア、そして山崎アンナ/高野芹奈のペア。それぞれ、49er級、49erFX級でパリ五輪を目指すセーラーたちだ。
世界のセーリングシーンではオリンピックはただの通過点に過ぎず、その先にあるのがSailGPをはじめとする最速サーキットであり、セーリング界最高峰、世界最古のカップを競う“アメリカズカップ”であるのだ。日本ではオリンピックが終着点ととられがちであるが、世界ではまったく違うのである。現在、SailGP日本チームのスキッパーは、オーストラリアの「風の使い」こと、ネイサン・アウタリッジ。第37回アメリカズカップでも、ニュージーランド代表スキッパーに就任するスーパーセーラーである。オリンピックでは49er級金メダル、銀メダル獲得、モス級世界選手権制覇2回。現在先の4人は、このネイサンからセーリングを学んでいるのだ!
若手4人から、師匠ネイサン・アウタリッジについて聞くとともに、日本チームをけん引する「世界のフク」こと早福和彦さんと、フォイリング番長の後藤浩紀さんにも話を聞きました。
ネイサン・アウタリッジ
SailGP日本チームのスキッパーとしてチームをけん引。言わずと知れたトップセーラー。日本チームの若手たちは、ネイサンから直接の指導を受けるという、望外に貴重な経験を積んでいるのだ。
photo by Dan Ling for SailGP
高橋レオ
東京オリンピック、セーリング競技49er級日本代表。静岡県沼津市出身23歳。パリ五輪は森嶋ティモシーとペアで49er級日本代表を目指す。
「僕はネイサンと一緒のチームで4年間学んできました。ネイサンは・・・ひと言でいうなら、すごいカーム(情緒安定型)ですね。テンションのあがるシチュエーション、例えば強風で15ノット吹いて、艇速が100km/hを超えて、風と波の音で何にも聞こえないようなハードな状況でもネイサンはカームです。ほかのチームメートをリラックスさせるそのパワーがすごく重要だと感じます。みんなのテンションが上がっても、ネイサンがカームでリラックスさせてくれるてくれる。すごいことだと思います」
森嶋ティモシー
2017年ユースアメリカズカップ、海神チームジャパンメンバー。オーストラリア出身、大阪育ちの25歳。高橋レオとペアでパリ五輪を目指す。
「そうですね、レオがいうとおり、ネイサンはカームですね。ネイサンはAC50から進化したF50という艇種をもう、10年くらいの経験があります。セーリングの理解を深めて、セーリング中いつもすべてを知っていて、クルーが間違えたら的確に指示をくれます。それらはすべて、ネイサンの経験がもたらしたものだと感じています」
山崎アンナ
49er FX級、東京オリンピック日本代表。ナブテスコ所属。日本体育大学大学院在学。神奈川県横浜市出身22歳。パリ五輪では、高野芹奈とペアで49erFX級日本代表を目指す。
「私は、ネイサンと一緒にレースに出たことはないんですけど、バミューダの練習で一緒にセーリングさせていただきました。ネイサンは、完璧で、かつやさしい、温かい人だと感じます。レオやティムがいうように冷静な人であり、それだけでなくチームのマネージメントやスキッパーとしてチームをけん引していくその姿は、やはり完璧な人だなと思うし、私はまだ世界で49erFXのレベルが高いほうではないけれど、質問をしてもちゃんと考えて質問に答えてくださる姿勢が、本当に温かい人だなと思います」
後藤浩紀 | SailGP日本チーム アシスタントコーチ
現在、アシスタントコーチを務めさせてもらっています。彼らがこうして20代前半で、プロの世界でオリンピック挑戦を表明するということで、これだけ多くのメディアの方に集まっていただけたということに、時代はよい方向に変わったなと感じるところが大きいです。
私は25年前ににまさにディンギーの世界のプロとしてキャンペーンを行いました。これは日本第一号だと思うんですが、こんなにメディアの方々に注目してもらえるようなことはありませんでした。時代も変わったし、彼らについては恵まれた環境があるので、SailGPのチームのメンバーでありがならオリンピックを目指すというチャレンジは、成功すると確信しているところであります。もちろん大変な道のりではあるとはおもいますが。
船のサイズは全然違います。SailGPの船は時速100kmで走るモンスターマシンです。それに経験してから、普段乗っている49er級、49erFX級に戻った時、全然違うということですよね。余裕ができる。掛かる力も変化の起こるスピードも全然違いますから。
プロの世界に身を置き、トッププロのなかで練習を積んでいるという環境は、すばらしいことですプロセスからして、プロとアマは違います。このプロセスをSailGPの世界で学んでいることは非常に大きいと思います。その価値は十分にあると思います。
早福和彦 | SailGP日本チームCOO
今日のこの会のプレゼンターとして多くのメディアにお越しいただいたことをうれしく思っております。これからこの4人、オリンピックに向けて始動するということでいいはずみになります。
SailGPは、2018年に発足しました。ワールドセーリングの公認を受けたヨットレースです。国別大会、年次大会と、アイコニックなフォーマットで開催しています。2019年にシーズン1、2020年はコロナ禍で中止、そして2021年にシーズン2が開催されました。日本は開幕から参加しており、この2大会で総合成績準優勝を獲得しました。非常にすばらしい成績です。
現在、シーズン3がはじまっています。バミューダで開催されました。6チーム5大会で開幕、シーズン2では8チーム8大会、シーズン3では10チーム11大会となりました。海外では非常にもりあがっている大会です。残念なが日本での大会はまだ開催されていません。いま、そのことについて一生懸命取り組んでおりますけれども、近い将来日本での開催があると思います
シーズン3から残念ながら日本チームは参加しておりません。簡単な理由をいいますと、資金難ということになります。
日本でのスポンサー活動に苦戦しておりまして、そういった理由でリーグから撤退させられるんじゃないか、というところに来ています。この場をお借りして、われわれの窮状をご理解いただいて、なにかのきっかけになればと思っています。SailGPがもたらすもの、彼らにあたえる影響はすばらしいものがあると思います。なかなかほかのスポーツで、このようなメリットがある大会はないと思います。
現役のオリンピック選手が、金メダリストたちと一緒に世界を目指す。これは非常に貴重なことです。実際、彼らはネイサン・アウタリッジ、クリス・ドレイパーから次回どうやったら勝てるかを学んでいます。
彼らがSailGPで学んだことは、本場で、本番で、実戦で培った精神力、実践力は、かれらがメダルに近づく力になると信じています。
願わくば、かれらにあこがれて若い選手たちがオリンピックを目指す、そしたまたいままでなかった、セーリングのプロの世界に道を切り開いていくということが、これから実現していったらいいなと思っています。
山崎アンナ選手(左)と高野芹奈選手。アンセナの愛称で親しまれる。パリ五輪を目指します!
高橋レオ選手(左)と森嶋ティモシー選手。記者から「アンセナのような愛称はないの?」と聞かれると、「アンセナみたいなかわいい名前はまだないんです(笑)」(レオ)。「愛称は考えなければと思っています。僕らはアンセナみたいに全然かわいくないけど(笑)」(ティモシー)
高野選手のお姉さん(左端)も登場。「こうして並ぶと3姉妹みたいでしょう?」(アンナ)
記者会見にはテレビ、新聞、雑誌、ウエブメディアなど多くのマスコミが詰めかけた
SailGP日本チームとオリンピックキャンペーンを両立する若武者たち。がんばってほしい!
ニッポンチャレンジはもちろん、ソフトバンク・チーム・ジャパンが挑戦した第35回アメリカズカップがそうだったように、日本が世界のトップリーグに参戦したあとには、日本のセーリング界には多くの財産が残るのである。
その財産とは何か。それは人、だ。SailGPに日本が参戦することは、必ず大きな財産を日本にもたらす。この火は決して消してはならないのだ。
(文・写真=中村剛司/Kazi編集部)
※月刊『Kazi』8月号に、関連記事あり。バックナンバーおよび電子版をぜひ
レース観戦方法
SAILGP J-SPORTS(日本語解説あり)
https://www.jsports.co.jp/pickup/sailing/
https://jod.jsports.co.jp/pickup/sailing
SEASON 3 CALENDAR(レース日程)
1 BERMUDA SGP 15-16May 2022
2 UNITED STATES SGP 19-20 Jun 2022
3 GREAT BRITAIN SGP 30-31 July 2022
4 DENMARK SGP 19-20 Aug 2022
5 FRANCE SGP 10-11 Sep 2022
6 SPAIN SGP 24-25 Sep 2022
7 DUBAI SGP 12-13 Nov 2022
8 SINGAPORE SGP 14-15 Jan 2023
9 AUSTRALIA SGP 18-19 Feb 2023
10 NEW ZEALAND SGP 18-19 Mar 2023
11 UNITED STATES SGP 6-7 May 2023
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