ターコイズブルーに囲まれる港町でヨットチャーターを楽しむ
港の半分を占めるマリーナ
ボドルム。美しい南エーゲ海に面する海洋リゾート地として、世界的に知られている港町だ。トルコ最大の都市イスタンブールから、国内便で南へ1時間という距離にある。中心街に面するボドルム港の東端には水中考古学博物館が入っているボドルム城(聖ペテロ城)が、港を見下ろすように鎮座しており、北側の海岸通りには数多くのチャーターヨットが所狭しと係留されている。
ボドルム城(聖ペテロ城)からボドルム港を望む。港内はチャーターヨットのマストで埋め尽くされている。左奥がミルタ・ボドルム・マリーナで、港の1/2を占めている
この港の西側のほとんど、港湾面積のほぼ1/2を占めているのがミルタ・ボドルム・マリーナだ。マリーナの敷地面積は約1,800平米あり、係留スペース475艇(海上係留425 /陸上保管50)はほぼ満杯で、小型から大型までのボート、ヨットがびっしり並ぶ。係留料は全長15mで年間約200万円。国際的に人気のリゾート地のマリーナ係留料としては、リーズナブルといえよう。
ミルタ・ボドルム・マリーナの海上係留桟橋。大型のパワーボートが整然と居並ぶ
シーズン中は毎日ライブショーが行われる、マリーナ内のレストラン「マリーナ・ヨットクラブ・ボドルム」(三つのレストランの総称)。ヨットクラブのメンバー以外も利用でき、サマーシーズンには連日1,500人ほどが来場するという
ボドルム城の中にある水中考古学博物館。世界最古とされる難破船の骨組みの一部。発見された船体の欠片から全体像が創作されている。このような遺跡や古城を巡るのもボドルムの楽しみ方
セーリング文化の浸透
トルコには2018年時点でヨットクラブが約140カ所あり、そのうち118がアクティブに活動しているという。それぞれが青少年の育成、ヨット教育を主な活動としてセーリング環境を提供している。付随するジュニアヨットクラブも多く、「心躍る美しき異国|トルコ・マルマリス」で紹介した大統領府国際ヨットレースに参加した選手の中にも、OP級で育ったという現地セーラーが数多くいた。優秀なセーラーにはヨットクラブが大会に出場する経費等を負担するなど、セーリング文化の振興に積極的な姿勢がうかがえる。
イスタンブール、イズミルなど大都市部の海辺はもちろん、南エーゲ海に面するボドルム、マルマリス、さらに東に延びるトルコの南岸沿い、そして黒海に面する北岸に至るまで、小規模マリーナから700艇を超える収容能力のある近代的なマリーナまで数多く点在しているのは、長い歳月をかけてセーリングを普及してきた結果ともいえよう。
地元発祥のグレット
加えてトルコに古くからある「グレット(Gulet)」と呼ばれる木造のセーリングスクーナーが、一般市民が気軽に乗船できる観光船として普及してきた背景も、トルコのセーリング文化を後押ししてきたという見方もある。
主にチャーターヨットとして使われているグレットは全長14〜35mで、機走が主となる。船のタイプによってチャーター料も廉価なものから高額なものまであり、選択の幅が広い。つまり、こうした船遊びの体験はもとより、気軽に船で海に出る風景を、日常的にトルコの人たちは見てきた、ということもセーリング文化の普及を後押ししたのではないかと思う。
左:ボドルム城の真ん前にもグレットが客待ちをしている
右:チャーターヨットに飲食物を運び込むクルーたち。グレットは、近くの入り江や島々への日帰りクルーズもあれば、何日間かかけてクルーズする客船スタイルもあり、操船はすべて船長とクルーがする
湿度が低く夏も快適
今回、取材陣はまさしくこのグレットに乗船し、トルコ風クルーズの真骨頂を体験した。乗船したのは82ftのチャーターヨット〈フェライエ〉。ボドルム港を出航すると、5月の平日にもかかわらず、私たちと同様の船と次々と行き交う。湿度が低いためデッキ上に流れる潮風が心地よい。海も穏やかで揺れもほとんどない。
ミルタ・ボドルム・マリーナに向かう道すがらにも、チャーター用のグレットがずらりと並んでいる
1時間ほど南下すると右手に小さな岬があり、その南側を迂回したところに小さな入り江が見えてきた。〈フェライエ〉のクルーは3人。バウ側からアンカーを落とし、無人の浜に面した岩崖にスターン側を近づけると、クルーの1人がテンダーに乗り、素早い動きで岩に舫い、ロープを固縛する。エンジンを切ると、船上には快いBGMが流れ、広いアフトデッキに設えられたテーブルにはフィンガーフードが置かれ、アルコールを含むフリードリンクがふるまわれる。
こうした日帰りクルーズを含め、ほとんどのグレットはオールインクルーシブスタイルを採用している。船内における飲食は全て、チャーター料金に含まれているのだ。ちなみにこの日のチャーター料金は約1,000ユーロ、日本円にして約14万円。我々メディア関係者14~15人が乗船しているので、ざっと1人1万円ということになる。この料金で丸一日クルージングを楽しむことができ、しかもオールインクルーシブというのは格安だ。
海底まで見えるほど透明な入り江、アクアリウムで時を忘れるひととき。手前がグレットで船名は〈フェライエ〉。エンジンはMAN400馬力、客室は6部屋あり、12人が宿泊できる
水族館のような海を満喫
もちろん『Kazi』誌10月号でもお伝えした通り、FRP製の近代的なチャーターヨットを借りて1週間程度のクルージングを楽しむのもいいが、旅の途中、仲間たちと1日だけクルージングを楽しみたい向きには、グレットがぴったり。仲間がいなければ乗り合いの日帰りコースも同様に利用できるのでお勧めだ。
この入り江に2時間ほど停泊したあと、〈フェライエ〉は次の泊地に向けて錨を上げた。船長が説明してくれた。「次の泊地の地名は、アクアリウム(水族館)。どうぞご自由に水面下の魚たちと遊んでください」。ということで、小一時間ぐらいで到着した入り江はさきほど停泊した入り江よりもさらに透明度が増し、船が宙に浮いているように見えるほどであった。
陸路では、さまざまな遺跡や歴史的建造物を巡ることができる。一説によるとチャーターヨットの発祥地ともいわれるトルコ南西岸の中心地、しかもグレットが誕生した地であるボドルムで船をチャーターし、すぐ沖にあるターコイズブルーの海を堪能してみてはいかがだろうか。
※この記事は2022年12月号の『Kazi』誌を再編集したものです。
(文=舵社/田久保雅己 写真=舵社/山岸重彦 協力=トルコ観光広報・開発庁)
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