英国とオランダがつむぐ美しきクラシカル艇。10年間熟考した先の1艇、デイセーラーの世界 /ワーリーナノMk II(1)

2025.03.28

ヨットとは、風をとらえ、風とたわむれ、自然の力だけで水面を滑るもの。これが根源的なヨットのあり方ではないだろうか。

では、既存のキールボートを振り返ろう。求めるのは、外洋航海の時化にも揺るがない耐航性や確実な復原力。長期のクルージングを快適にするギャレーボンクヘッドの装備からなる居住性。レースで勝利するための切り上がり角度やボートスピードといった帆走性能。一生に一度の買い物でもあるヨットという乗り物に、求めるものが多くなるのは必然である。

ここでふと考える。

それらの付加価値を贅沢にも削ぎ落としたピュアセーリングボートとはなんだろう。

それがデイセーラー&ウイークエンダーという、1ジャンルなのかもしれない。骨董品のような流麗なフォルム、美しいシアーライン。昨今のデイセーラーは、そのクラシカルな船型に、現代的な高い帆走性能と安全性を共存させる。

多くの熟練セーラーたちを魅了してやまない、趣味人たちが愛する高尚なるジャンル。デイセーラー、その魅惑の扉を、今開こう。

 

◆メインカット

photo by Shigehiko Yamagishi (Kazi)|大型帆船を思わせる流れるようなシアーラインに、カーボンマストと3Diセールを揚げて帆走するワーリーナノMk II

 


〈TARAGO〉WALLY NANO Mk II 
〈タラゴ〉ワーリーナノMk II

 

シングルハンドでデイセーラーを楽しむオーナーの野村耕治さん。優雅なセーリングの世界に身をゆだねる

 

WALLY NANO Mk II 

全長:11.35m(バウスプリット除く)
●全幅:2.60m
喫水:2.60m / 2.40m
排水量:2,875kg
●バラスト重量:1,225kg
●セール面積:アップウインド75m2 、ダウンウインド 160m2
●設計:Wally / Hoek Design Naval Architects
●建造:Doomernik Yachts
●補機:Oceanvolt SD 6.0 Electrical engine

 

OWNER

野村耕治さん
Koji Nomura

学生時代(22歳)にスナイプ級レーザー級(現ILCA級)でセーリングを開始。数年のブランクを経て、キールボート購入を検討。オランダの造船所、ドーメニクヨットが建造するワーリーナノMk IIを2019年に購入。基本、シングルハンドで純粋なセーリングを楽しむ

 

デイセーラーを選んだ理由

いきなりではあるが素朴な疑問。では、かくも趣味性高き“デイセーラー”というジャンルのヨットを購入する人物とは、いかような方々なのであろうか。

そこで思い出したのが野村耕治さん。月刊『Kazi』2020年8月号の艇紹介記事で取り上げたワーリーナノMk II、〈TARAGO(タラゴ)〉のオーナーである。記事はプロセーラーの西村一広さんが執筆し、英国のワーリーヨットとフーク設計事務所のデザインをオランダのビルダー(造船所)、ドーメニクヨットで建造した様子など詳細に解説いただいた(本記事にも西村さんの受け売りが多数出現します。西村さん、感謝です)。

当時の記事は艇のスペックや建造背景、帆走性能をフィーチャーする完璧なものであったが、私はずっと野村オーナーにも詳しいお話を聞いてみたかった。取材前のやり取りからも、実に聡明な方であることは強く感じていた。ドーメニクヨットには試乗で1回、建造中にも1回と2度も現地を訪れたという。そこまで惚れ込んだワーリーナノMk IIの魅力、そしてデイセーラーを選んだ理由とは。

「なんでしょうね(笑)。まず、仕事(医師)の関係で何日もかけたクルージングはできません。仕事が終わった夕方か、週末にちょっと乗れる艇種を探していました。そこでデイセーラー&ウイークエンダーというジャンルに出合ったんです」

ここで野村さんのプライベートに触れると、ご職業は眼科医で外科手術を伴う疾患も診る臨床医療の最先端にいらっしゃる方であるゆえ、2日以上他県へ出るようなことは難しい。そこでデイセーラーという選択が理由のひとつ。もう一つの問題。ワーリーナノMk IIは全長11.35m(約37フィート)だが、同サイズ艇と比べて、2~3倍の価格を覚悟しなければならないジャンルなのである。

「高校の同級生で商社や金融へ行った友人には、桁違いの収入を得ている人もいます。私は開業もせず勤務医をやっているので、それほどお金はありません(笑)。なので、この船を選ぶまでに10年は掛けました」

なんと10年。イタリアのブレンタ38も検討しつつ、最終的に候補にあがったのがドイツのルッチェ35と、このワーリーナノMk II(37ft)だった。

(次回へ続く)

 

 

シングルハンド仕様に取りまわした係留索。実に合理的で安全に1人離着岸が可能なシステムを構築したのは、コーチ役のH氏

 

電気モーターによる機走でセーリングエリアへ向かう〈タラゴ〉(ワーリーナノMk II)。トランサムボードのスリットは、WALLYの頭文字

 

ワーリーナノMk IIの各部を見る

HPR(ハイパフォーマンスレーティング)艇を思わせる細いストラットバルブキール。排水量2,875kgに対し、バラスト重量1,225kg

 

電動モーターは、オーシャンボルトSD 6.0。通常使用で5~6時間、低速なら14時間以上航行可能

 

係留索やフェンダーは、ワンプッシュで着脱できるアタッチメント仕様。実にスマートな艤装だ

 

クリートはポップアップ式。帆走時の見た目へのこだわりの深さを感じる。シートの引っ掛かりも防止する

 

コクピットの背もたれに配された間接照明。夜間をロマンチックに演出する。さすがの仕様である

photo by Koji Nomura

 

(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

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