すごい動画を見た。23ft艇に設置した後付けフォイル(水中翼)の帆走動画である。
アメリカズカップのAC75や、ヴァンデ・グローブのIMOCA 60のフォイルについて、あんなテクノロジーがプロダクション艇にフィードバックされることはありえない、という頭の固い諸氏の意見にどう反論したらいいのかモジモジする日々にさようなら。フォイルは飛ぶだけでなく、風下側に上方向の揚力は発生させることで、スタビリティー(復原力)に寄与する使い方があるのだ。もう一度いいます。フォイルの効能は飛ぶだけじゃないんです!
このシステムを研究するのは、ブラジル・サンパウロの造船所、MCP YACHT。設計者はマノエル・シャベスさん。いただいたメールによると、このSailing Booster System(以下、SBS)は、キールを32~60%短くすることができ、ユニットごとハルサイドに設置するので大工事は不要。速度を得られれば1秒で強力な復原力を得られます、という。実際のIMOCA 60はハルを完全に離水させないし、第35回アメリカズカップは、風上航で排水量を軽減するためのスキミングモードなんていう走りもした。走っていないと利かない復原力とはいえ、その効果は絶大。
それでは、その画期的なSBSを見てみましょう!
Sailing Booster System(以下、SBS)を装着した23ft艇を風上から見たところ。使用していないフォイルは抵抗になるので振り上げている。なんだか宇宙船みたいでかっこいい
SBSの設置部分。ユニットごとハルサイドにボルト止めするだけ。大きな工事は必要ない
大型艇に設置した場合のイメージCG。キールの短いこと! これが未来のスタンダードになるのか?
設計者のマノエル・シャベスさんのスケッチ。当初、ハルサイドの取り付け部は、かなり大がかりなイメージだったようだ
これがブラッシュを重ねて、先のスケッチをCADで起こしたもの。かなりいい感じ!
模型による水槽実験の様子。フォイル上部に発生した揚力。こんな感じになるんだ!
一般的なツインラダー艇のアップウインドでの力のかかり方。Tはセールの揚力などから得た前進ベクトル。Rは抵抗の合計。Lはラダーか得る風上方向への揚力(Rに加算)。ウエザーヘルムがかかり、ティラーを3~6度ほど風上側へ引いている(ベアアウェイ方向)状態。リーウェイを防ぐが、これも抵抗になる
SBS装備艇の力のかかり方。Rsは、ダガーフォイルの抵抗。SBSがリーウェイを防ぐことで、ラダーの迎角はゼロですむ(イーブンヘルム)。つまり、ラダーからの抵抗も軽減されるのだ!
こちらは、MCP YACHTが現在研究中のアルミ製68ft艇。カンティングキールやウオータージェット推進器を装備。フォイル装備は検討中。コチラも気になる!
颯爽とスキミングモードで走るSBS装備艇。早く実用化しないかなあ!
画期的なSBSの仕組み、いかがでしたか? スキミングモードゆえ、完全に離水しないけれど、確実に浮いていて排水量軽減が実現しています。そしてもちろん、効能はそれだけでなく、スタビリティー(復原力)への寄与。
アメリカズカップやSailGPの技術が、しっかりと自分たちの目線まで下りてくる。こんなふうに、ハイエンドレースのテクノロジーが、クルージング艇にもきっちり反映されるって状況は、はっきりいってとても心地よいのでした♪
MCP YACHTのSailing Booster Systemのサイトはコチラから
(文=Kazi編集部/中村剛司 写真=Sailing Booster System)
※関連記事は月刊『Kazi』2022年2月号にも掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ
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