第37回アメリカズカップのNZの勝因とは? ハーミッシュ・ウイルコックスが分析!(前編)/AC日記2025-3①

2025.04.15

オリンピック艇種・470級クルーの神、ハーミッシュ・ウイルコックスによる第37回アメリカズカップの分析。1990年代の神奈川県の葉山周辺で、ウイルコックスの姿を見たセーラーも多いことだろう。そんなウイルコックスは、今回のアメリカズカップをどのように見たのか。プロセーラーの西村一広さんの解説とともにお送りする(編集部)

 

 ◆メインカット

photo by Luna Rossa Prada Pirelli Team | Hamish Willcox/ハーミッシュ・ウィルコックス/オリンピックでもACでも、“スーパーコーチ”として今も大活躍。第36回ACではETNZ、第37回ACではルナロッサ・プラダ・ピレリに所属

 

NZ470級2人の寵児

1980年代前半に、470セーラーとして熱い青春時代を過ごした読者なら当然、デイビッド・バーンズとハーミッシュ・ウィルコックスの名前を覚えていることだろう。このニュージーランド人コンビは、それぞれの貯金を注ぎ込んで実現させた初めての海外遠征、470級世界選手権(1981年)で初出場・初優勝を果たした。それだけで終わらず、その後2度もこのクラスで世界を制してセーリング界を驚かせ、同時に、470級のセーリングが革命的に進化することにも貢献した。

2人は470級以降も複数のディンギークラスで活躍を続けながら、並行してアメリカズカップ(以下、AC)の世界へも足を踏み入れていく。バーンズは1980年代中盤から2003年まで6回もACチームに所属して活躍した。その後、多発生硬化症という難病に侵されたものの、パラリンピックを目指すなど不屈のセーリング活動を続け、2020年10月、その病のために多くのセーリング関係者や友人たちに惜しまれながら世を去った。

そのコンビの相方ウィルコックス。かつては日本の470セーラーにもなじみが深く、当時その実演付きの指導を直接受けた読者もいるのではないだろうか。日本との接点が途絶えた後も、ウィルコックスのコーチング技術は進化を続け、現在では海外のセーリングメディアは彼のことを「スーパーコーチ」と表現する。

長きにわたってさまざまな国のオリンピック代表選手のコーチとして、選手たちに多くの金銀メダルをもたらしているだけでなく、ACでは気象解析担当とチーム内レースでの戦術担当クルーもこなし、一般的なコーチを超えるコーチとして、これまで延べ6チームと契約してAC勝利を複数回経験しているからだ。

パリ五輪と第37回ACが開催された昨年2024年は、専属コーチとしてスペインの49er級チームの五輪金メダル獲得に貢献したかと思うと、続いて同じ地中海で始まったACでは、予選のファイナルまで進んだルナロッサの気象解析を担当し、それと並行して開催されたウイメンズACとユースACでも、それぞれのルナロッサ・プラダ・ピレリチームのコーチとして、彼らのダブル優勝に貢献した。

そのウィルコックスが、第37回ACのエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)の勝因について、NZのウェブメディアのインタビューで語っている。

(次回へ続く)

 

防衛者エミレーツ・チームニュージーランド
2021年大会と2024年大会の採用艇比較

2021年
EMIRATES TEAM NEW ZEALAND
エミレーツ・チームニュージーランド

第36回AC防衛艇〈テ・レフタイ〉。挑戦艇ルナロッサに対して圧倒的な性能差を持つ艇だったが、前半戦は互角のスコアになった。「速い艇が勝つ」AC神話が揺らいだ

photo by Carlo Borlenghi / America's Cup

 

2024年
EMIRATES TEAM NEW ZEALAND
エミレーツ・チームニュージーランド

第37回AC防衛艇〈タイホロ〉。進水翌日に全開モードのセーリングを披露し周囲を驚かせた。シミュレータ活用の重要性を改めて他チームが認識することになった

 photo by Ricardo Pinto / America's Cup

 

(文=西村一広)

※本記事は月刊『Kazi』2025年3月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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西村一広
Kazu Nishimura

小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


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