
次回第38回アメリカズカップに、超強力な挑戦者が名乗りを上げました!セーリング大国オーストラリアが、満を持して参戦を発表。今をときめき最強セーラー、トム・スリングズビーを始めとする、チームオーストラリアの心躍る布陣を、プロセーラーの西村一広さんが解説します。(編集部)
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今年のSailGPバミューダ大会を制したばかりのトム・スリングズビー。今回のAC挑戦発表前後のインタビューからは、かなりの高額条件で誘ってきた他国ACチームがあったらしいことと、スリングズビーがそれらを蹴って母国からのAC挑戦を最優先にしたらしいことをうかがい知ることができる。そのおかげで豪州セーリング界のドリームチームが誕生した
photo by Jason Ludlow for SailGP
豪州からの刺客
来年2027年に開催予定の第38回アメリカズカップ(以下、AC)に、エントリー締め切り日までに挑戦状を提出したのは六つの国からの六つのヨットクラブである。
第38回AC争奪戦の運営全体を統括するACパートナーシップは、六つのうちの最後にエントリーした一つのクラブについては、そのクラブの意向により、そのクラブ自身による発表があるまで、その国名やチームメンバーなどの詳細公表を差し控えるとしてきた。
先月5月14日、その挑戦者の詳細が明らかになった。その挑戦母体となるヨットクラブは、オーストラリアのニューサウスウエールズ州の、シドニー湾にクラブハウスを構えるロイヤル・プリンス・エドワード・ヨットクラブ。
これまでACの歴史の中では聞いたことのない名前のクラブだが、このクラブは100年以上も前に創立された名門ヨットクラブだという。
ニュージーランドのオークランドで2000年に開催された第30回AC争奪戦に、当時19歳だったジェイムズ・スピットヒルをスキッパーに据えて、クルージングヨットクラブ・オブ・オーストラリアが参戦して以来、26年。
そんな長い年月が流れた後、オーストラリアに再びACに挑戦する資金を拠出する個人と、挑戦母体になることを引き受けるヨットクラブが現れたのである。
ドリームチーム誕生
しかし、正直に言うと、個人的に心底興奮させられてしまうのは、資金提供者やヨットクラブについてではなく、そのヨットクラブを代表して実際のAC争奪戦を戦うチーム・オーストラリアの、3人のリーダーの顔ぶれである。
トム・スリングズビー
チーム・オーストラリアのセーリングチームを率いるのは、トム・スリングズビーだ。米国チームのタクティシャンとしてAC勝利の経験も持つスリングズビーは、前回の第37回ACでも米国チームのツイン・ヘルムスマンを英国人の朋友ポール・グッディソンとともに務めたが、挑戦者選抜後半戦でグッディソンがけがで欠場、ほとんど一人二役で艇を走らさざるを得ない事態に陥った。その不運がなければ、その米国チームがその回のACの挑戦者として勝ち上がる可能性は限りなく高かったと思われた。SailGPの舞台では、そのAC戦後もスリングズビー率いるオーストラリアチームの成績安定感は抜群である。いま、最も脂の乗ったフォイリングセーラーの筆頭と言えるだろう。
グレン・アシュビー
チーム・オーストラリアのデザイン開発チームを率いるのは、なんとグレン・アシュビーだ。オーストラリア人セーラーであるアシュビーはAクラスカタマランなどのマルチハルディンギーで超人的な戦績を残し、ACの世界では第34回ACからエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)のメインセールトリマーあるいはスキッパーとして、3回連続してACに勝利した。アシュビーが突出しているのは、ただセーラーとしてではなく、それぞれの回のACにおける艇のフォイリング性能開発者としても重要な仕事をしていることだ。その経験と才能を、アシュビーはチーム・オーストラリアの艇とシミュレーターの開発リーダーとして生かすことになる。もちろんセーラーとしても、挑戦艇に乗る可能性は残されている。
グラント・シマー
そして、上記の二人の力を束ねながら、このチーム・オーストラリアの次回AC勝利に向けての作戦全体を統括する役割を担うのが、グラント・シマーだ。シマーは、1983年の第25回ACで、132年にわたってACに勝ち続けたニューヨーク・ヨットクラブを破って、ACをオーストラリアに持ち帰ったあの〈オーストラリアII〉のナビゲーターである。以来、シマーは12回ものAC争奪戦を経験してきた。

チーム・オーストラリアのオーストラリア・セーラーたち。左からグラント・シマー、トッシュ・ブライアント、グレン・アシュビー。アシュビーはSailGP戦で骨折したばかりの足を引きずってチーム発表会に出席。トッシュ・ブライアントは15歳で29er級ユース世界タイトルを取るやSailGPレギュラー選手までの階段を、一気に超高速で昇ってきた努力と才能と運を併せ持つ、現代オーストラリアきっての女性セーラー
photo by America's Cup

1983年、米国東海岸ニューポート沖で、米国以外の国の艇として初めてAC戦に勝利した〈オーストラリアII〉。グラント・シマーはそのナビゲーターとして勝利を味わった。チーム・オーストラリアは来年、それ以来44年振りの勝利を目指す
photo by America's Cup
前言撤回願い
先月号のこの連載で、レイトエントリー締め切りギリギリになってエントリーを果たしたもう一つの挑戦チームである米国チームを紹介したが、その文脈の中で私は、グレン・アシュビーとトム・スリングズビーには言及したものの、彼らが母国チームでタッグを組むなど思ってもなかったので、「この2チームが第38回ACで大暴れできる余地はあまり残されていないように思える。次々回、さらにその先もACに挑戦を続ける計画を持つチームであれば、応援したくもなるのだが……」と書いてしまった。
米国チームについては、ま、そのままでいいですけど、今回発表されたオーストラリアのドリームチームの陣容を知ると、この前言を撤回したくなる。ダメですか?

チーム・オーストラリアは第36回ACで勝利した〈テ・レフタイ〉をETNZからすでに購入し、急ピッチで準備を進めている様子。古巣であるETNZと良好な関係を築いてきたアシュビーが、ここでもすでにその人間性と才能で、大きな力を発揮している
photo by COR 36 / Studio Borlenghi
(文=西村一広)
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西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。