60年目の太平洋横断に挑む、堀江謙一さんに聞く(後編)

2022.03.05

すでに詳しくお伝えしたように、1962年に世界で初めて、太平洋を単独無寄港で横断した堀江謙一さん(83歳)が、その航海から60年を機に、逆ルートになる、サンフランシスコから日本(兵庫県西宮市)の単独無寄港航海に挑戦する。
前半に引き続き、アメリカに渡航する前の堀江謙一さんに聞いた。

 

堀江謙一。1938年、大阪府生まれ。23歳のときに世界初となる5.83mの木造ヨットによる単独無寄港太平洋横断を成功させた。航海記『太平洋ひとりぼっち』はベストセラーとなり、石原裕次郎主演で映画化されて大きな話題となった。

 

 

航海ルートについては
「考えすぎない」

ヴァンデ・グローブなどの最先端の外洋レースでは、膨大な気象データとフネの性能データを掛け合わせて最適な航行ルートを選択する「ウェザールーティング」が一般的になっているが、GPSプロッターさえ積まない堀江さんのコースプランはどうなっているのだろうか。

アメリカ西海岸から日本などアジアに向かう場合、その太平洋横断ルートの前半は、追い風となる貿易風を求めて緯度20度付近まで大きく南下するのが、大航海時代以来のセオリーとなっている。

「(衛星携帯電話の)メールで気象の情報を送ってもらいながら、考えていくことになると思います。まずはハワイまでどんなコースで行くかですが、(貿易風を求めて)最初からドーンと南にいくのか、そのときどきの風で少しずつ南下するかは、まだわかりませんね。最初から南下しすぎないようなイメージを持っています。天気予報を見ながら、あまり考えすぎないようにしたいですね。日本近海に来てからは、台風が発生しにくい季節を選んでいますが、確率はゼロではないですから、情報を得て、まともに突っ込んでいかないように気をつけたいです」

 

報道陣が見守る中、いよいよ〈サントリー・マーメイドⅢ〉が出発。堀江さんと再会するのはアメリカ・サンフランシスコだ。

 

孤独と向き合う
海上での過ごし方

2カ月半とも想定される、今回の堀江さんの太平洋横断航海。風や波と向き合うのはもちろん、孤独とも向き合うことになるはずだが、堀江さんにその話をしてみると、拍子抜けするような答えが返ってきた。

「海上では、基本的に太陽が出たら起きて、暗くなったら寝るという生活をしたいと思っています。嵐になったらセールをしまったり最小にしてしまいますから、作業として実際にあまりすることってないんですよね。毎日ビールも1本くらい飲みたいなと思っています。もちろんサントリーですよ。3ケースほど積み込む予定です(笑)」

太陽が沈んだら寝るといっても、2時間単位の細切れの睡眠になるのではないか。

「もっと寝ますよ。陸地が遠くて、風が穏やかなら、5~6時間寝たことだってありますよ(笑)」
堀江さんほどの歴戦の冒険家ともなると、孤独はもはや敵ではないのだろうか。この点については、堀江さんが挑戦を成功させたあかつきに、改めて聞いてみたいところだ。

 

船体長さ5.83m(全長6.05m)、全幅2.15m、重量990kgの〈サントリー・マーメイドⅢ〉。船体はアルミ製で、エンジンは搭載していない。

フネの詳細については、以下を参照。

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖①

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖②

 

1月7日には、設計者の横山一郎さんも同乗してフネの様子を確かめた。

 

自分が楽しむために
太平洋を渡る

今回のような大冒険となると、見る側(特に取材する側)は、挑戦の目的や意義を定義しようとするが、堀江さんの頭の中は、非常にシンプルだ。

「基本的には僕自身の自己満足でやっていることです。もし、それを見て、それぞれの目的に向かっている人たちの後押しになるようなことがあればうれしいですが、いちばん大事なことは、僕自身が楽しむことだと思っています。準備を含めて、全部楽しいですよ。だって、自分の好きなヨットを一から設計してもらって、造ってもらって、自分の好きな航海をするわけですから、これが楽しくなくて何が楽しいのかと思いますよ」

前回の取材時、堀江さんは、生涯チャレンジャーとして100歳まで頑張りたいと話していた。

「いま83歳で、100歳まで航海したいと思っていますが、それはあくまで願望で、実際に100歳になったときに、ちゃんと心臓が動いているかはわかりません。そして現在、僕は実際に元気で、挑戦できるチャンスがある。だからやる。それだけですよ」

終始、プレッシャーを感じさせず、明るく質問に答えてくれた堀江さん。アメリカへの渡航は3月中旬、サンフランシスコから日本に向けての出航は、3月26日を予定している。日本が世界に誇るレジェンドセーラーの挑戦の成功を祈りたい。

 

フネの詳細については、以下を参照。

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖①

堀江謙一さんが太平洋横断で乗るヨットを徹底解剖②

 

今後も月刊『Kazi』ならびに『舵オンライン』では、ほかのメディアでは絶対取り上げない、セーラー目線の情報をお届けしていく予定です。

 

(文・写真=Kazi編集部/中島 淳)

 

1962年の最初の太平洋横断の様子を綴った航海記『太平洋ひとりぼっち』、主演の石原裕次郎など豪華キャスト、市川 昆監督で映画化されたDVDも、好評発売中です。

 


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●3/4発売、月刊『Kazi』4月号/特集は「海上トラブル対策要覧」

 


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