水難事故を防ぐために|第9回水辺の安全ネットワーク会議開催

2024.06.17

第9回となる水辺の安全ネットワーク会議(以下、JBWSS)が2024年6月7日(金)、横浜にある日本丸メモリアルパークで開催された。

この会議は、水辺で活動するあらゆる団体が垣根を越えて集い、水辺での遊びを活性化するとともに、痛ましい水難事故、海難事故を防止するためのネットワークを構築することを目的として、2016年に始まったもの。コロナ禍の影響でオンラインでの実施となった時期を除き、JBWSSは東京海洋大学などの学校のキャンパスで実施していたが、今回は初の試みとして、海や水辺に関係する一般施設での開催となった。

 

基調講演は「海と人 夢をカタチに」と題して、対話形式で行われた。ゲストスピーカーで『海猿』や『トッキュー』など、海の仕事を題材とした人気作品の原作者として知られる作家の小森陽一氏が登壇

 

小森氏は海や船などに全く興味がなかったそうだが、海上保安庁の巡視船を見る機会があり、そこで衝撃を受けたという。「何とかこれを題材に物語を作りたい」という思いから、海上保安庁に何度も取材をして『海猿』という作品を創り出したそうだ。その後も非常に興味深い内容が続き、あっという間に予定の時間が過ぎてしまう講演となった

 

海上保安庁交通部安全対策課の大井良司課長は、統計資料を基にした、海難の発生状況とその原因について分析する「海難の現況と対策」を発表。海難事故の多くは、守るべきルールが守れていないために発生するという。そんな状況を知ってもらうことが重要であると訴えた。また、「海上保安庁も多くの民間組織と連携を取って安全対策を進めていますが、どんなに頑張っても、その全てを完璧にカバーすることはできません。多種多様なマリンレジャーの基本を、その業界関係者が収集してまとめたウォーターセーフティーガイドをもっと活用して欲しい」など、JBWSSによるネットワークの重要性を語った

 

水難学会で事故調査委員会委員長を務める、長岡技術科学大学の犬飼直之准教授からは、毎年発生する海岸での遊泳者の事故、特に離岸流による事故について「海浜事故に於ける特徴を知る」と題する講演で解説した。視認が難しい海岸での水の流れを、海面着色剤とドローンを駆使して視覚的に表現することで、その実態を把握し、事故防止につなげるという自身の研究成果を発表した。イメージが難しい離岸流の速さなどを、映像を駆使して解説し、来場者の興味を集めていた

 

東京海洋大学の竹本孝弘教授の講演は「知床事故に思ふ」。令和4年4月に発生した、知床遊覧船沈没事故を受けて、国土交通省で知床遊覧船事故対策検討委員会が立ち上がり、10回の検討会を経て同年12月に取りまとめられた「旅客船の総合的な安全・安心対策」の解説が行われた。この新たなルールに沿って行われる施策は、人が携わるソフト面から、ハードである船に至るまで多岐にわたるが、それについて要点を抑えた分かりやすい説明が行われた。ヒューマンエラーによる海難事故の分析を専門としている立場から、「知床の事故は人災で、予防することができた海難である」と訴えた

 

講演は午前で終わり、午後はJBWSS‘24特別見学ツアーを開催。会場の日本丸メモリアルパーク内にある「横浜みなと博物館」、「帆船日本丸」、そして専用水面でのカヌー&SUPのデモンストレーションを見学した。博物館や日本丸は、地元の横浜在住者でも入る機会が少ない施設であり、貴重な機会となった

 

今回のJBWSSには、30団体から89人が参加した。来年は2日間にかけての開催を予定している。早期から開催周知活動に着手して、さらに多くの行政機関、関連団体、一般の関心が集うよう働きかけ、水辺の安全を守るネットワークが広がり、結果として水難、海難事故が減ることを願って活動していきたい。

 

(問い合わせ)

JBWSS連携協議会
(一社)水難学会
(一財)日本海洋レジャー安全・振興協会
(公財)マリンスポーツ財団

 

(文=JBWSS連携協議会 写真=舵社)

 


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