月刊『Kazi』6月号の特集「Kazi90周年 拝啓 10年後のセーラーへ」。10年後の未来を考察する特集です。
そこで、これからの10年、『Kazi』誌が正しい道を歩むため、本誌の愛読者4人に集まっていただき、座談会を開催しました。会議室には各世代の読者4人と、Kazi編集部の5人。6月号で掲載した内容を、あますところなくお伝えします。侃々諤々の座談会、はじまります!
Kazi誌読者座談会にご参加いただいたセーラーのみなさん。左から磯谷航介さん(浦安マリーナ)、大木利一さん(江の島ヨットハーバー)、石丸寿美子さん(葉山マリーナ)、鈴木淳一さん(油壺・山下ボートサービス)
誰から自己紹介しよう? 「じゃあ、じゃんけんで決めよう!」(鈴木さん)。いきなり皆さん仲良しに
──皆さまお集まりいただきありがとうございます。まずは簡単な自己紹介と、『Kazi』誌で好きな記事を教えてください。
石丸寿美子さん(以下、石丸)「葉山マリーナの〈ホビーホーク〉で活動している石丸です。『Kazi』で好きなのはグラビアページですね。きれいなヨットの大きな写真に惹かれますね。あとはアメリカズカップ。夢の世界を見せてもらえてわくわくします。ボートレビューは、妄想しながら読みます。この最新艇をもし買ったら、どうやって遊ぼう! とか(笑)」
磯谷航介さん(以下、磯谷)「浦安マリーナの〈ミルキーウェイV〉、磯谷です。僕は、ちょっと皆さんと違うかもしれないんですが・・・。中古艇情報とセールメーカーの広告です(笑)。あ、中古艇情報も広告ですか? セールメーカーの広告ってかっこいいじゃないですか。かっこいい写真にかっこいいキャッチフレーズが書いてあって」
石丸「私も中古艇情報は読んじゃう! 相場も分かるし」
磯谷「そうなんですよ。ちょうどヤマハ21Sからヤマハ30Sに買い換えたんですけど、もっといいのないかな? って。僕は父の影響で3歳くらいからヨットに乗っていますが、小学生になるころには学校に『Kazi』を持って行って読むような子どもでした。そのころは、スピード&スマートや、クルーワーク虎の巻など、レースハウツーを。僕の教科書でした。今は中古艇情報(笑)。あと、やっぱりボートレビューは読みます」
大木利一さん(以下、大木)「江の島ヨットハーバー、〈アヴァロン〉の大木です。若いころは、私もヨットの知識を得るために『Kazi』誌をすみからすみまで、全部読んでいましたね。最近はネットなどいろいろなところから情報が取れるので、そういう意味で今は全部の記事は読めていません。でも、記者さんたちが足を運んで、写真を撮って話を聞いて作った記事は、ネットでは伝えることができない貴重なものだと思うんです。チーム紹介や、地方の港の情報、レースレポートなど。読んでいてとても面白い。どうですか? いいコメントでしょう(笑)。いや、本当に思ってますが」
鈴木淳一さん(以下、鈴木)「油壺で〈ベガ〉に乗ってる鈴木です。あと、今回参加したのは編集部の中村さんに頼まれたからであって、自分から出させてって言ってないからね。本当、僕なんかこの歳でもまだペーペーだから、油壺のお歴々に怒られちゃうから(笑)。しかし、皆さんちゃんと読んでるんだな~。僕はへそ曲がりだからさ、『Kazi』は後ろから読んじゃう。前のほうにかっこいい記事があるのは知ってるけど。あ~、裏表紙の広告はこの会社か~からはじまって、編集後記見て、ティム・ジェフリーさんの世界のニュース最前線なんて面白いよね。そしてやっぱり中古艇情報は面白い。あと取材記事が面白いって話が出たけど、僕も同じ意見。編集部の記者さんが作る記事は、雑誌の持ち味だと思うんです。SNSは本人発信だけど、プロの記者の目を通して作った記事は別物。あと、僕も読者のページにちょっと手だけ(笑)載ったことあるけど、『Kazi』に掲載されるってのは本当にうれしい。SNSに出るのとは全然違います」
大木「『Kazi』は学級新聞だって言ってる人いましたよ(笑)」
石丸「あ、分かります。どこかに一人は知ってる人が載ってる。知ってる人の記事はうれしくなります」
──いつもどんな場所で『Kazi』を読んでいらっしゃいますか? また紙の雑誌についてどう思われますか?(植村浩志 編集長/舵社社長)
石丸「家のリビングですね。まずリラックスした格好に着替えて、コーヒーを入れて。よし、『Kazi』を読むぞ! って態勢を作ってから読みます。子どものころから雑誌が好きで、漫画誌なんかもそうやって読んでいました」
大木「僕はマリーナだったり、休憩時間だったり。やっぱり紙の雑誌はいいですよね。まず感覚的に物をつかんでめくるっていう動作、“読んでいる” って実感がいい。タブレットやPC画面とは違う良さがある。ヨットのきれいな写真も、迫力ある写真も、紙のほうがしっくりきます」
磯谷「父がすごい量のバックナンバーを納戸に保管していて、そこでじっくり読みますね。1980年代の記事とか本当に面白いです」
鈴木「わ、みんなにそんなこと言われると困るな。僕は・・・トイレで読んでいます(笑)。でもさ、毎日読んでるってことだからね。1カ月かけて、気に入った記事は何度も読んだりして。昔の『Kazi』もいいよね。田辺英蔵さんの『きゃびん夜話』とか石原慎太郎さんのコラムとか。いまはどちらも読むことはかないませんが」
2021年Kazi 6月号から2022年Kazi 5月号までのバックナンバーを手に、それぞれの思いを語る愛読者のみなさん
──セーリングスタイルや読みたい記事に関して、主義、志向の変化はありましたか?(編集部/森口史奈)
大木「僕は45歳になりましたけど、やはりレース一辺倒だった昔に比べるとかなり変わりましたね。クルージング派になったというか、極論すればヨットを出さなくても楽しい。ハーバーで人に会うだけで楽しいというか、人とのつながりを楽しむためにヨットを持っているのかも。そういう意味では、いまはほかの人の船のことを知りたいですね。どんな遊び方してるの? とか、どんな艤装してるだろう? とか。いま僕たちは陸置きヨットの下にテーブルセットを置いて宴会してます。もうヨットは日除け。ラダーじゃまだな~なんて言いながら(笑)」
鈴木「それは僕もあるなあ。若い時は金曜の夜に油壺に集まって、土日は雨が降ろうが雪が降ろうが練習かレースって生活だった。そうするとレース記事は必然的に読むよね。でもいま、自分がオーナーになって気持ちがガラッと変わった。フネを磨いてピカピカにすることがこんなにうれしいんだって知らなかった。だから今はDIYの記事がいいね。プロの仕事を見てみたい。一般のセーラーのDIYなら失敗談がいいなあ。僕もたくさん失敗してるし、そこから学ぶことって多いから」
石丸「実は、いますごく大きな気持ちの変化があって、チームを一度解散して新しいチーム、新しい乗り方を模索しているところです。やりがいを感じていたスキッパー/ヘルムスマンですが、50代になって少し違和感が。心地よかったプレッシャーが重荷になったというか。この先おばあちゃんになってどんなヨットライフが待っているんだろうって、考える曲がり角にもきているのかなって。これからも目一杯楽しんで、笑いながら死にたい! (笑)なので、きれいだったり、かっこよかったり。楽しい気持ちになる記事がいいですね」
磯谷「僕はずっと考えていることがあるんです。それは、ヨットはスポーツなのかレジャーなのかってこと。マッチレースをやっていたころは、ほぼスポーツ。そういう記事をたくさん読みました。でも今の僕がやっているのは8対2くらいで、8割はレジャーじゃないかって」
大木「レースにあまり出なくなったってこと?」
磯谷「あ、レースには出るんです。でも、スタートしたらプシュっと・・・開けるというか。舵は若い人に任せて、僕はクルージング気分で、という(笑)。これってレジャーですよね?」
大木「お前はいつも朝から飲んでるじゃね~か(笑)」
──『Kazi』誌は重い、厚すぎるという意見がありますが、ページ数は妥当でしょうか?(編集部/友田享助)
鈴木「定価が1,200円、単行本と同じくらいですよね。そうしたら妥当じゃないかな。僕は例の場所で1カ月かけて読んでるから、薄くされたら困る(笑)」
大木「でも、作るのも1カ月ですよね? ひと月でこれだけの記事を作ってるってことがすごいと思います」
石丸「私もそう思う。何度か『Kazi』にレポートを書かせてもらったことがありますが、締め切りが恐ろしかった。それが毎月やってくる仕事なんて考えられない!」
鈴木「週刊誌じゃないんだから、もっと厚くしてさ、もっとたくさん記事を増やしたらいいよ。編集者の人数が少ないのは知ってるから、これからは全国に特派員さんを置いて、地元のレアな情報をレポートしてもらう。SNSの投稿欄みたいにさ。『Kazi』がそういう読者特派員が投稿できるプラットフォームになって、みんなが発信できる場になる。料理でもDIYでもクルージングでもレースでも、なんでも投稿できる。まさに学級新聞(笑)」
大木「人って承認欲求がありますよね。だからSNSが流行している。僕も人の船を見たいってだけじゃなく、自分のやり方も見てほしいなって思う。それがSNSじゃなくて『Kazi』誌に載るなんて、すごいうれしいことですよ」
磯谷「あ、僕はクルー募集が載っていた『売りたし買いたし』のコーナーを復活してほしい。中古艇情報と同じで、そこにも中古艇のことが載ってたし」
大木「お前は本当に中古艇が好きだなあ。まあ、私も中古艇情報は読んじゃいますけどね(笑)」
30~60代の『Kazi』誌読者たちが、熱い思いを語りつくす。時には厳しいご意見もいただいた
──乗り手を増やす、読者を増やす、そのためにマリン業界はどうすれば発展するでしょうか?(編集部/松山 暁)
鈴木「大きなテーマだね(笑)。JSAF(日本セーリング連盟)に聞いたほうがいいかもよ(笑)。僕は個人的に、過保護にするのはよくないと思う。自分がそうだったように、黙っててもヨットに乗るやつは乗るから。押し付けるのではなく、ヨットは楽しいってことを普通に見せていけばいい。10年後にセーラーが減ってるとは思わないなあ」
磯谷「僕はちょっと逆で・・・今後10年はギリギリ、15年後くらいにレースの参加者ってどうなっちゃうんだろうって思ってます。この10年、20年でずいぶん減ってしまいました」
鈴木「確かになあ。関東でロングレースやるよってときに、30艇も集まらないことあるよね」
石丸「葉山のクラブレースは10年前の半分くらいになってしまいました」
鈴木「増えているレースもある。こぶりっこミーティングとか、ショートハンドチャレンジ1・2・3レースとか。若いセーラーがたくさんいるといえば江の島だよね」
大木「はい、います・・・。ディンギーヤードには毎日すごい数の子どもたち、学生たちがいます。江の島沖、葉山沖もそうですが週末にはすごい数のディンギーが走っています。娯楽がたくさんあるなかで、ヨットに乗る若者はこんなにたくさんいる。でも、クルーザーヤードは高齢化しています。もっと楽しいイベントを考えたほうがいいのか、クルーザーとの交流をさらに深めたほうがいいのか、そういうことを日々考えてます。なんか演説みたいになっちゃったけど、クルーザーに乗りなさいってことじゃないんです。海で遊び続けてほしいんです」
──では最後にご自身が読みたい特集を教えてください。編集長になったつもりで(笑)(植村)
鈴木「ウドゥンボートの記事ですね。全国にある、朽ち果てる寸前の木造艇を蘇らせる、という企画をぜひやってほしい。日本のデザイナーが造った古いボートを懐古的に見るのもいいなって」
大木「木造艇、いいですよね。僕は鈴木さんじゃないけど、DIYとか自分たちがすぐ実践できる特集が読みたいです。料理でも遊びでも。自分たちの遊び方と乖離しすぎていない記事です」
磯谷「僕は艇種マニアなので、全国の艇種傾向記事とか読みたいです。グーグルマップで港を見つけては、そこに留まってるヨットを調べているんですが、傾向があるんです。鹿児島はミニトンが多いとか、YBMはマイレディー、ヤマハ26II、宮城はヤマハ23が多かった。あとマニアックな改造艇。宇和島のレースですごい改造してる人を見ました」
大木「いや航介、もうそれお前が書けよ。自分の持ち込み企画じゃねえかよ(笑)」
石丸「今『Kazi』の創刊号の編集後記を見たらこんなことが書いてありましたよ。『夏が来ました。元気一杯な我々の夏です。海へ! 海へ!』って。夏ってウキウキするものでしたよね。それが最近は日焼けとかべとべとするとか、人が遠ざかっている気がする。夏だ、海だ、太陽だっていうのがわくわくするものであってほしい。そういう気持ちになれる特集ですね」
*
1時間の予定が2時間半以上になってしまった座談会。熱きご意見、ありがとうございました! 今度は別の水域で開催したいと思います!
最後に石丸さんが素晴らしいコメントをしてくださった。座談会の内容はこれでも1/5程度。実際はもっともっとたくさんのお話をいただきました。若干、『Kazi』誌びいきなコメントが多く恐縮です。
しかしながら要約すると、『Kazi』誌は学級新聞、多くの知り合いが載っていてほしい、特派員を増やして全国の情報が読みたい、そして、やっぱり『Kazi』は、ヨットの楽しさだけでなく海の楽しさを伝えるものであってほしい。この言葉を胸にこれからの10年、誌面作りに邁進いたします。
あ、もうひとつ。中古艇情報はとても重要! ってことも胸に刻みました。
1932年の『舵』創刊号の編集後記に書かれた「夏が来ました。元気一杯な我々の夏です。海へ! 海へ!」の言葉
「艇種のことを考えるのが好き。これってかなりマニアックですかね?」
磯谷航介さん(Kosuke Isoya)
30代代表、ヨット歴30年。〈ミルキーウェイV〉(ヤマハ30S)オーナー。浦安マリーナを拠点に20代のクルー中心のチームを作り活動。3歳ごろから父のヨットに乗り、小3ごろには父とダブルハンドでレースに出ていた。中学時代に本吉夏樹さんのチームに入りマッチレース、20歳ごろにはラッキーレディチームに参加。28歳でヤマハ21Sのオーナーに。現在2艇目。
「記者さんが足を使って取材する。そういう記事はネットにまねできない」
大木利一さん(Toshikazu Ooki)
40代代表、ヨット歴25年。〈アヴァロン〉(プラトゥ25)共同オーナー。江の島ヨットハーバーで活動。20歳ごろに近所の怖いヨットオーナーに拉致されヨット開始。意外とはまり、無償で譲ってもらったシードスポーツで修業。33歳のときに、江の島ヨットハーバーのバース抽選に見事当選し、オーナーに。レースやハーバーライフをゆる~く楽しむ日々。江の島ヨットクラブ理事。
「『Kazi』を読むのは至福の時間。海、夏、太陽を感じられる記事を」
石丸寿美子さん(Sumiko Ishimaru)
ヨット歴35年。〈ホビーホーク〉(ヤマハ30SN MOD)オーナー。レースにクルージングにと意欲的に活動。現在、一度チームを解散し、別のチームとジョイントした新チームを作っているところ。テーザー級でも活動し、国内外を遠征。2019年、初島ダブルハンドヨットレースにて、松石万希子さんと女性初のクラス優勝を果たす。葉山マリーナヨットクラブ副会長。
「自分が誌面に出るうれしさは格別。多くの人が登場できるプラットフォームを」
鈴木淳一さん(Junichi Suzuki)
ヨット歴43年。40年前の舵誌のクルー募集を見て〈織姫〉チームへ。現在〈ベガ7〉(ファー1020X)オーナー。油壺の山下ボートサービスにて艇を管理・保管。〈織姫〉チームにてグアムレース、日本海横断レース、沖縄ー東京、小笠原レースなど、国内外の外洋レースで活躍。現在は〈ベガ8〉(Xp33)での活動とともに、愛艇〈ベガ7〉のレストアに明け暮れる日々。
(文=Kazi編集部/中村 剛司 写真=Kazi編集部/友田享助)
※本記事は月刊『Kazi』2022年6月号にも掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ
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