台湾レース | 国際レースを育む絆のハナシ 後編

2023.10.18

2023.6.10~15

第19回 台琉友好親善国際ヨットレース 台湾・基隆(キールン)~日本・沖縄県宮古島 

 

1998年に発足した台琉友好親善国際ヨットレース。台湾と沖縄県・宮古島または石垣島を結ぶこの国際レースは第19回となる今回、2019年大会以来実に4年ぶりの開催。フィニッシュ地は毎回テレコ。 

今回は宮古島が目的地だ。 

そこで、宮古島を拠点に活動する伝説のセーラー&ダイバー、渡真利将博さんにこの国際レース再開に際し、国際レースの在り方について考察していただいた、月刊『Kazi』9月号の記事をここに再掲載する。 

その後編をどうぞ(編集部)。 

前編をまだ読んでない方はこちらへ

 

沖合いに浮かぶ無人の基隆島は、むき出しの岩肌と上部に緑が残る大きな岩のような島。日本艇〈TIDA Again2〉(マム36)が基隆島のギリギリを攻める

 

 

6月12日11:00。台湾・基隆から190マイル先の沖縄県・宮古島を目指し、一斉にスタート! 

 


台湾レースの魅力とは?

文=渡真利将博

 

「台琉友好親善国際ヨットレース(以下、台湾レース)」の魅力は、何といっても親日的な国民性と食文化、そして歴史的な遺産「故宮(こきゅう)博物院」や映画『千と千尋の神隠し』のモデルといわれる九份(キューフン)などの観光地、毎夜開催される「夜店」などなどを、レース日程と合わせて楽しめることであろう。 

同時に、黒潮を横断するという特殊なコースの魅力がある。台湾・与那国島間に流れる黒潮の流れは強烈で、場所によっては南から北へ4ノットオーバー、風が落ち微風ともなれば、あっという間に北に持っていかれる。逆らって針路を南に向ければボートスピード7ノット、SOG(対地速力)は2ノットというケースはよく見られ、この黒潮をどのタイミングでどのように横断するかはセーラーの力量が問われるところでもある。 

季節的にも6月開催は比較的台風の影響もなく、沖縄の梅雨後半から梅雨明けにかけての時期なので、過去に台風などの悪天候による中止などはない。また、このイベントに基隆市政府が投入する予算が半端なく、日本国内におけるどこの自治体&ヨットクラブでも、このレースのイベントに比べると、背伸びしてもジャンプしてもかなわないと断言する。 

また、台湾艇の主流は、高速クルージング艇が中心となっており、バリバリのレース艇はそう多くはない。日本もその傾向が強いことから、日本から参加すれば、似たような性能のライバル艇が多く楽しいレースとなる。距離的にも石垣島→基隆135マイル、基隆→宮古島190マイルとなっており、1オーバーナイトの航海にはなるが、そのくらいの距離ならオーナー&クルーにとって大きな負担にならないのではないか。 

国際遠征という少し高いハードルがあるが、沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島と続き、それから台湾にわたり前述のとおり歴史と美食を楽しむことも可能なので、ぜひとも日本のオーナー&クルーともども、その訪問と国際交流レースを楽しんでいただきたい。 

 

 

台湾での出国手続き事 

レース当日の朝に、出国手続きを行う。レース運営本部に特設の出国手続きをできる場所が設けられており、チームごとに手続きをしていく。レース参加者(43艇)、運営スタッフを合わせると結構な人数になるが、事前に書類を運営側に提出しており、呼ばれたチームごとにパスポートをまとめて提出。思っていたほど時間はかからずに済んだ。 

イミグレーションを待つセーラー 

 

 

受け付けカウンターは空港のそれと似ている 

 

 

宮古島での入国手続き事情

平良港に接岸後、すぐに検疫、税関、入管審査、海上保安庁のチェックが行われた。パスポートを提出し、持ち込み不可である果物や生肉などの食材を確認される。出入国に関しては不安がある場合、事前に海上保安庁に聞くと親切に教えてくれる。管轄の窓口が違うため(ここは縦割り組織の悪いところ)、関係各所に提出する書類は必要だが、きちんと教えてくれるので、まずは相談するといい。 

黄色いフラッグ掲揚が入国手続きの合図 

 

 

台湾におけるヨット事情 

台湾におけるプレジャーボートの世界は、20 数年前までは、個人での所有は禁止、または厳しく規制されていた。その理由は地政学的にお隣の中国との関係である。距離にして70マイル余(140km)、目と鼻の先である隣国との距離はあまりにも近く、個人でプレジャーボートを持つようになったら、内緒で行き、または乗り換えが可能である(言葉も一緒だし)。 

要するに密入国&出国が可能。であるが故、今日でも港の出入りは基本「海警(日本の海上保安庁?)」の人数チェックが行われている。 

そのような事情から、台湾レース当初の台湾セーラーの間ではヨット保持者は限りなく少なく(数艇)、その艇も古いタイプのクルージング艇だった。その規制が徐々に緩やかになり、経済力UPも加わり今や40 ~50フィートの新艇、高速クルージング艇が主流となっている。中にはIRCクラスの最新の艇も見られるようになってきており、それに合わせてセーリングスキルも一気に上昇してきている。 

一部の小学校ではOP級を生徒の人数分購入し、体育の正規授業でトレーニングが行われ、海洋大学でのヨットの所有(台湾レースの常連)もあり、若い顔ぶれが日本に比べてはるかに多い。このままだと10 年以内には日本は追い越されるのではないか。 

 

 

こちらは、6月15日に宮古島で開催された琉球王朝杯(賞金レース)のスタートシーン

 

 

琉球王朝杯の艇長会議は大雨だったためタープの下で行われた

 

 

基隆島1 周レース、台湾レース、そしてラストの琉球王朝杯のトータルスコアで、台琉友好親善国際ヨットレースの結果が計算される 

 

 

宮古島市が用意した、マグロの解体ショーのパフォーマンス。沖縄のマグロは未冷凍。極上の味を堪能した 

 

 

宮古島市長の座喜味(ざきみ)一幸さん(左)と、基隆副市長の邱珮琳(Yau Palin)さんが腕を組んで乾杯、友情の証を示した 

 

 

国際ヨットレースの魅力と台湾レースの未来像

国際ヨットレースの魅力は、何といっても人と人との交流(情報)であろう。今回のレースに参加したオーナー&クルーの国籍は8カ国(米、英、仏、香港、マレーシア、フィリピン、台湾、日本)となって国際色豊かであった。台湾、宮古島での交流会&表彰式では黒潮を乗り越えた同志、ということからセーラー間の絆が深まったのではないか。特に台湾、香港の中華系の国民性として、いったん信頼されるとその豊富な人脈へとつながっていき、私個人として台方の政治経済関係者に多くの友人が増えた。それらは間違いなく私が想像する台湾レースの未来像につながっていくような気がする。 

結論から言うと、私がイメージしている台湾レースの未来像は、目指せ、東洋のタイ「キングスカップ」である。現在、基隆島一周レース、基隆→石垣島または宮古島、石垣島と宮古島のインショアの3レースで競い合っているが、将来は石垣島または宮古島にて数日間のレースと各リゾートホテル複数での表彰式が開催されればいいと考えている。 

また、3月後半には香港→スービックのロレックスカップが開催されているが、スービック→台南、高雄のレースが新しく開催され、台南・高雄から基隆とつなぎ、オーナー&クルーの休憩を挟みながらそのまま台湾レースにつなげれば、壮大な国際レースが誕生する。と夢を描いている。香港から台湾レースに参加したセーラーにその話をすると、そのプランに賛同する方は少なくない。 

その背景は、台湾レースに参加するセーラー間に急速に認知されつつある沖縄先島のリゾート地としての魅力と思われる。海の美しさプラス県民性、空港(アクセス)、ホテルの充実さ、ハワイに勝るとも劣らない沖縄の良さが認識され、広がってきたのだろう。 

そう考えると、私の夢は次世代では実現できそうな気がする。 

 

 

台湾と日本の国旗をあしらったトロフィー

 

 

●レース結果

レーシングAディビジョン(全13艇)

優勝    Freybe One

オーナーの呉明(Wu Ming)さん。「とてもいい運営で、エキサイティングなレースができました。プロセーラーのコーチングを受けています。チームには香港人や台湾人、フランス人やイギリス人も乗っています」

 

レーシングAディビジョン(全13艇)

1 位 Freybe One(ミルズ41) 台湾

2 位 Momentai (ハンゼ470) 香港

2 位 シーサー2(リドガード38) 日本

 

 

レーシングBディビジョン(全13艇)

優勝    TIDA Again2

中央でトロフィーを掲げるスキッパーの奥平幸司さん。キャプテン渡真利さん不在のレースでしたし、微風や黒潮で悩まされましたが、愛艇とクルーワークで勝ち取れました!」。沖縄県内でチーム〈サシバ〉に次ぐ歴史を持つチーム〈TIDA〉の流れをくむチームだ

 

レーシングBディビジョン(全13艇)

1 位 TIDA Again2(マム36) 日本

2 位 Sea Monkey(ベネトウ・センス50) 台湾 

3 位 Moana(ベネトウ・ファースト24) 台湾 

 

 

レーシングCディビジョン(全13艇)

優勝    WARHAWKA

スキッパーの潘偉華(Pan Wei Hua)さん。25年前の第1回大会に、八重山ヨット倶楽部の深見さんから誘われて以来、台湾レースに参加するセーラー。台湾語と英語、日本語の通訳で今大会も運営スタッフをやりながらレースにも参戦した。「次は、100 艇の参加を目指したいです」

 

レーシングCディビジョン(全13艇)

1 位 WARHAWKA(エラン45.1) 台湾

2 位 Gefion(バルチック35) 日本

3 位 Indigo Star(ベネトウ・オセアニス38) 台湾

 

 

マルチハルディビジョン

1 位 ACADIA NANA(ラグーン450) 日本

2 位 HERIOS(ラグーン500) 日本

3位 BLWFISH(ファンテンパジョS50) マレーシア

 

 

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(文=渡真利将博/Kazi編集部  写真=山岸重彦/舵社)

 

※本記事は月刊『Kazi』2023年9月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

台琉友好親善国際ヨットレース公式サイト

 

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渡真利将博

Masahiro Tomari

チャーターヨット&ダイビングショップ「24°NORTH」代表。1980 年 チャイナシー国際レース(香港-マニラ)クラス3位、1987年 メルボルン- 大阪ダブルハンドヨットレース準優勝、2010年 台琉友好親善国際ヨットレース優勝、2013 年、2015 年、2016 年プーケット キングスカップ クラス総合優勝、2020 年 日本-パラオ親善ヨットレース4 位など国際レースシーンで活躍。 24°NORTH TEL: 0980-72-3107 http://www.24north.co.jp/ 

 


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