■地球一周の旅、完遂
昨年11月8日にフランスからスタートした単独無寄港世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」は、1月28日に所要80日でフィニッシュした〈Maître CoQ IV〉のヤニック・ベスタベンが優勝を決めている。
そしてついに日本時間の2月11日夜、アジアから唯一の参加艇である〈DMG MORI Global One〉の白石康次郎(53歳)が、フランス、レ・サーブル・ドロンヌ沖のフィニッシュラインを横切った。白石が94日間の壮大な地球一周レースを完遂して、アジア人初のヴァンデ・グローブ完走者となった瞬間だった。
現地時間の2月11日は、15~18位の4艇がフィニッシュすると予想されたゴールラッシュ。ここ1週間、この4艇は世界一周のラストスパートをかけつつ、フランス西方のビスケー湾に入ってからも、それぞれの思惑で大きく広がったコースを選択していた。結果、白石は16位でフィニッシュ。当初から目標は完走と位置付けていた白石だったが、結果的に出場艇の中位となる奮闘を見せたのだった。
日本時間の2月11日20時前、フィニッシュした白石康次郎。
photo by Yvan Zedda / Alea
フィニッシュラインへのウイニングセーリング。
©Vendée Globe TV
フィニッシュ中継の模様。
©Vendée Globe TV
日本時間2月11日正午時点での状況。ここまで28,000マイルを走ってきて、なんと120マイルの範囲に暫定15~18位の4艇がひしめく大混戦。画面右側の黒枠の艇が〈DMG MORI Global One〉で16位。この時点でフィニッシュまで約130マイル。
©Vendée Globe
■あきらめない心で乗り切った94日間
スタート時に33艇だったフリートのうち、すでに8艇がリタイア。白石の航海も順調なものではなく、まさに波乱万丈だった。初めての最新世代のフォイリング艇(IMOCA60)でのレースであり、予選レースでも船のさまざまな場所に不具合が生じて、大がかりな改良や補強を行うなど、船の準備に関してもギリギリの状態でスタートの日を迎えていた。
昨年11月8日、木刀を携えたサムライスタイルで桟橋を離れた白石康次郎。
photo by Olivier Blanchet / Alea
白石にとって2回目のヴァンデ・グローブ挑戦の火ぶたが切って落とされた。
photo by Jean-Marie Liot / Alea / Vendée Globe
スタートからわずか6日後には、オートパイロットの不具合によって35ktの風の中で数度のワイルドジャイブを起こし、1枚しかないメインセールを大破。セールをブーム上に回収するまでまる1日かかった。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
その後、実に1週間かけて、大西洋上を漂いながら、メインセールを修理。船にあるスペアパーツや接着剤が限られている状況下で、カーボンパーツの作成などを含む、修理というより工事に近い難易度の高い作業だった。メインセールの修理を終えた11月20日時点では、31位。すでにリタイアした1艇と重大トラブルでスタート地点に戻った1艇を除き、実質上の最下位まで順位を下げていた。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
12月4日には、船の先端のバウスプリットにあるヘッドセールのタック部分の破損が発覚。この箇所はセールの端を固定する重要な部分で、白石は展開していた大きなヘッドセールを1時間かけて回収した。このトラブルも白石は陸上チームとの連携で修理して乗り越えた。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
1月、荒れる高緯度海域、サザンオーシャンでの奮闘。メインセールは破れた部分を貼り合わせて接着したため、セールは常にワンポイントリーフ(縮帆)した状態となっていた。その後、白石はメインセールを再び壊さないように慎重な走りをしながら着々と順位を上げ、ついに2月11日に16位でフィニッシュ。なんと実質最下位から出場33艇の半分以上の順位まで這い上がった。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
1月13日、南アメリカ大陸最南端に位置するケープホーン(ホーン岬)を通過して、ついにスタートした大西洋に戻ってきた。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
2月2日の写真。フランスのフィニッシュに向けてラストスパート。
photo by Kojiro Shiraishi / DMG Mori Global One
2月11日にレ・サーブル・ドロンヌ沖のフィニッシュラインを白石が横切った瞬間は、最も過酷なヨットレースとされる「ヴァンデ・グローブ」で、初めてアジア人が完走した瞬間であり、ディスマストでリタイアした2016-2017大会のリベンジがなされた瞬間だった。
今後、この『舵オンライン』と3月5日発売の月刊『Kazi』では、フィニッシュ直後の白石康次郎に心境を聞いた独自インタビュー記事を掲載する予定。乞うご期待。
(文=Kazi編集部/中島 淳)
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