プラダカップ決勝の熱き戦いを振り返る! その後編。
(※前編の記事はこちら)
第36回アメリカズカップ挑戦者決定シリーズであるプラダカップ決勝。7勝先勝の戦いは、第6レースを終えた時点でルナロッサ・プラダ・ピレリ(イタリア)が5勝、イネオス・チームUK(イギリス) が1勝と、圧倒的にイタリア有利で勝負が進んでいた。
コロナ禍により2月17日のレースはキャンセル、2月20日に第5、6レース(前編で紹介)、そして21日に第7、8レースかが開催された。
あとがないイギリスのスキッパー、ベン・エインズリー。そして、王手一歩手前のイタリアのダブルヘルムスマン、フランチェスコ・ブルーニとジミー・スピットヒル。
激アツの戦い、その最終日となった四日目を振り返ってみよう。
(トップ写真:photo by COR 36 / Studio Borlenghi)
イネオスがまたもよいスタート。スタートは、はっきりいってほとんどイネオスが優勢だった
リーバウのまま左のバウンダリーまでルナロッサを引っ張る。マークに対するゲインは19mあり、(船首方向で)2艇身以上前方を走るイネオスだったが、ヘッダー後に艇速を失い、一気に差を詰められる。左下のゲージで、VMGが15ktまで落ちていることが分かる
ビッグヘッダーの瞬間。イネオス(右)のバウがかなり風下へ落ちている
艇速は、アップウインドもダウンウインドもルナロッサが速い。そのうえ、コース選択もよく、タッキング&ジャイビング回数も少ない
PRADA Cup Final - Race 7
Start: 1615
Port: GBR
Stbd: ITA
Course: A
Axis: 037
Length: 1.95nm
Current: 0.2 knots @ 007
Winner Luna Rossa Prada Pirelli – 1:45
第8レースのスタートは、アウターマーク付近でプロテスト発生。その決着の前に、ルナロッサ(左)がクロスド・ライン・アーリー=リコール
プロテストの解析画面。まず風下先行のイネオス(奥)がタッキング。ルナロッサ(手前)の前を通過。ギリギリではある
ディップ(バウダウンして回避)するルナロッサ(手前)。同時にプロテスト発声。イネオス(奥)はスタートラインから出ないようバウダウン
ジャッジの判断はノーペナルティとなった。むしろ、ラインを超えたルナロッサ(左)にリコールのペナルティが……
有利なアドバンテージを得てスタートしたイネオスは、マッチポイントを取られ後がない……。が、しかし、第1レグを取りこぼす。微妙な艇速差があるようだ。
「プロテストで勝ったのに、スタートでも勝ったのに、相手がリコールしたのに、なぜ勝てない!」とアナウンサーが絶叫する
大差をつけフィニッシュするルナロッサ! 7勝先取! プラダカップ決勝を制した瞬間だ!
フィニッシュ後、勝利に歓喜するルナロッサの艇上インタビュー。まずはスピットヒル(左)へ「おめでとうございます!」。
スピットヒル「勝利できてうれしい。ベンは最高にタフなライバルだった」
記者からフランチェスコ・ブルーニ(右)へ質問がとぶと、
ブルーニ「ファンタスティコ!ファンタスティコ!(すばらしい、信じられない!)」
と、絶叫しながらスピットヒルに抱きついた!
Prada Cup Final - Race 8
Luna Rossa Prada Pirelli beat INEOS TEAM UK
Start: 1715
Port: ITA
Stbd: GBR
Course: A
Axis: 030
Length: 1.85 nm
Current: 0.3 knots @ 007
Wind: 12 knots - 025 degrees
Winner: Luna Rossa Prada Pirelli – 0:56
ルナロッサ7勝、イネオス1勝。圧倒的な大差でルナロッサがプラダカップ決勝を制した
photo by COR 36 / Studio Borlenghi
完璧ともいえる勝利をおさめたルナロッサ・プラダ・ピレリ。艇速、タクティクス、ストラテジーに死角なし。とにかくミスのない鉄壁な走りを見せた
photo by COR 36 / Studio Borlenghi
次なる敵は防衛者、エミレーツ・チームニュージーランド(上写真手前)だ!
3月10日(予定)から再設定スタートが始まる、第36回アメリカズカップ本戦が待ちきれない!
(文=Kazi編集部/中村剛司)
※関連記事は月刊『Kazi』2021年4月号にも掲載予定。バックナンバーおよび電子版をぜひ
■プラダカップ記事・編集後記
プラダカップの勝利については、実はKazi編集部は大いに揺れた。
月刊『Kazi』4月号(3/5発売)の校了は2月24日。プラダカップがフルセットまでもつれたら、予備日の2月24日まで延長された可能性もある。さらにいえば、オークランドのロックダウンが深刻化すれば、2月24日には決まらない(4月号に結果を掲載できない)、という恐怖もあった。
思い返すのは8年前。第34回アメリカズカップ(2013年サンフランシスコ大会)本戦のこと。戦いは防衛者オラクル・チームUSA(当時最年少スキッパー:ジミー・スピットヒル)と挑戦者エミレーツ・チームニュージーランド(ベテランスキッパー:ディーン・バーカー)。
9勝先取の戦いは、バーカーの圧勝で進み、エミレーツは8勝2敗とマッチポイントを迎えた。入稿間際、もうエミレーツの優勝だな、と見切り発車で記事を作ったのだが……(下の写真参照)。覚えている方も多いと思うが、その後、エミレーツはまさかの7連敗を喫し、銀杯は防衛者オラクルが守り切ったのである。
何が起こるかわからない。それがアメリカズカップ。 今回も、イネオス・チームUKが突然走り出し、7連勝! ってこともありえた(それを夢見た)。
当然記事は、イネオス優勝とルナロッサ優勝の二つを作って進行した。 結果、ルナロッサの勝利となった。潜在的にベン・エインズリーに勝ってほしかった気持ちが強かったのか、最初の段階ではイネオス優勝で記事を展開。決勝のルナロッサ4連勝を見て、速攻ですべてを書き換えた。
今では、イタリアの陽気なセーラー、フランチェスコ・ブルーニが大好きになっている自分もいる(ファンタスティコ! 笑)。
そんな感じで苦労して作りました『Kazi』4月号(3/5発売)、ぜひお手にとっていただけたら幸いです。
などなど、プラダカップは終わったが、アメリカズカップは終わっていない。 今度は、8年前に最年少スキッパーともてはやされたジミー・スピットヒルと、異彩を放つ若きスキッパー、ピーター・バーリングの戦いだ。
8年前のドラマが、役者をスライドさせて再現されたかのような、歴史のあや。この交代劇は、なんども繰り返されている。
まだまだドキドキさせてくれそうな予感絶大! 楽しく編集作業を進めます!
(Kazi編集部/中村剛司)
■8年前の記事/注意:今回の記事ではありません(笑) ※上がボツ。下が決定稿