「世界最古のトロフィー」と呼ばれるアメリカズカップと、「世界最速サーキット」であるセーリングのプロリーグSailGP。
ともに世界最高峰のヨットレースである両大会は、現在どのような関係性にあるのだろうか。
本稿は月刊『Kazi』3月号(2024年2月5日発売)に掲載された内容を再集録し、無料公開する。(編集部)
※メインカット写真|photo by Cameron Gregory | INEOS Britannia | 潤沢なキャンペーン資金と、F1メルセデスを母体とする強力なR&Dチームに支えられて、第37回AC挑戦艇になる新型AC75クラスを、独自のLEQ12を使って開発中の英国イネオス・ブリタニア
初めてアメリカズカップを現場で観て以来約30年、その間、ニッポンチャレンジのセーリングチームに選抜されるなどしながら、日本のアメリカズカップ挑戦の意義を考察し続けるプロセーラー西村一広氏による、アメリカズカップ考を不定期連載で掲載する。新時代のアメリカズカップ情報を、できるだけ正確に、技術的側面も踏まえて、分かりやすく解説していただく。
2024年8月にはプレイベントが始まり、その4日後から予選シリーズ(ルイ・ヴィトンカップ)の幕が切って落とされる第37回アメリカズカップ(以下、AC)。 この大会の防衛チームであるエミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)をはじめ、全ての挑戦チームのヘルムスマンやクルーが、セーリングのプロリーグSailGPに参加している。
AC争奪イベントは、通常3、4年の間隔を空けて開催される。その間に開発チームは新型艇の開発・建造に邁進する。セーリングチームもその新艇開発のためのテストセーリングとトレーニングに明け暮れる。
さらにセーリングチームはそれに並行して、高いレベルのレース感覚、特にトップエンドのボートハンドリングのテクニックと状況判断が要求されるマッチレースでの戦闘力をビカビカに磨き上げるために、他の種目の実戦レースにも参加する。10年ほど前までのACでは、セーリングチームのメンバーたちは、個人的にオリンピックキャンペーンをやったり、コアメンバーで世界レベルのマッチレースサーキットに出たり、大型キールボートレースに出たりしていた。
ACがフォイリング艇の中でも、とりわけハイレベルのセーリング技術と感覚が要求されるハイスペック艇で争われるようになった今では、フォイリング艇以外のレースに出ても、ACに勝とうというセーリングチームにとって得るものはほとんどない。
そんなとき、数年前に始まったSailGPは、ACをターゲットとするチームのスキッパーにもクルーにも、願ってもない腕磨きのチャンスになった。SailGPの主催者側にとっても、レースで見応えのある接戦を繰り広げてくれる、彼ら著名なACセーラーの存在は重要だ。
そのSailGPの2024年第1戦のドバイ大会の前、第37回ACの挑戦者代表である英国イネオス・ブリタニアを率いるベン・エインズリーが、英国SailGPチームのスキッパーを降りることを発表した。ドバイ大会の後からは、スキッパーは、ジャイルズ・スコットが引き継ぐという。
SailGPのプレスカンファレンスに登壇するベン・エインズリー(左)
photo by Thomas Lovelock for SailGP
(文=西村一広)
AC日記04-3②
ベン・エインズリー、アメリカズカップ本番モード突入! に続く
※本記事は月刊『Kazi』2024年3月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ
西村一広
Kazu Nishimura
小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。
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