プロセーリングチームであるDMG MORIセーリングチームは、若手セーラーやエンジニアの育成のためにアカデミーを立ち上げ、2022年から活動している。そのアカデミーには現在、2人の日本人セーラーが所属。三瓶笙暉古(さんぺいふぇでりこ)さんと國米 創(こくまいはじめ)さんだ。2025年の、ミニ6.50を用いた単独大西洋横断レース「ミニトランザット」の出場を目指す國米さんのインタビューをお届けする。
三瓶さんのインタビューはこちらから。
レースの基本は変わらない
——昨年は三瓶さんのコスキッパーとして、ミニファストネット(600マイル、5日21時間5 分7秒)に2人で出ました。
國米:ずっと近くに他のフネがいて、スタートして最初の26時間は何も食べられなかったです。18〜20ktくらいの風が吹いていて、フネが近くにいる分、飯を作っている場合ではなくて。オフショアレースって言っても、どんなにレース海面が広くなっても、航路権をバチバチに主張しあったり、タイトカバーしたり、そこはインショアレースと変わらないです。自分はインショアレース上がりなので、そこは違うのかなって思っていましたけど、やっぱり決めるときにはしっかり決めないといけない。怖いのは、インショアレースは相手がどれだけ遠くても見えるのに、オフショアレースは見えていなかったフネが急に現れること。それは面白さでもありますね。
——ワッチのサイクルなどは?
國米:交代の時間は決めず、眠くなったら寝る。僕は長くて1回2時間でしたけど、もちろん2時間ぶっ通して寝られるわけではなくて、15分とか30分で起きて、フェデ(三瓶)がちゃんとやってくれているけど、それをチェックするという感じですね。安心してぐっすりは寝られない。やっぱりレースだから、自分が寝ているときに他の人たちは起きているって気になっちゃうし、負けたくないし。こちらが起きていて、向こうがチャンスに気付かないってことももちろんありますよね。
photo by Fumina Moriguchi / Kazi
昨夏、DMG MORIセーリングチームが日本に置くミニ6.50〈DMG MORI Global One Mini 867〉の船上にて
夜こそ勝負をかけるとき
——チームに関わるきっかけは。
國米:縁あって初めて〈スピリット オブ ユーコーIV〉に乗せてもらったときに白石さんが手伝ってくれる人を探していて、でもフィン級でオリンピックキャンペーンをやりたくてすぐには手伝えなかったんです。代表選考が終わったあとに「いつ手伝いに来てくれる?」って言ってもらえて、2021年のジャパンツアーから正式に。小さな出会いがいつ戻ってくるか分からない。一つ一つの出会いは大事にして、忘れられないようにしようって思いますね。
——これまでのフィン級やインショアレースの経験が今生きていますね。
國米:そうですね。6年前にパールレースに出て総合優勝しましたが、その時のメンバーがすごくよく教えてくれたんです。学んだことは、夜が勝負時、夜こそしっかりセーリングしようということ。昼は誰でもちゃんとセーリングできる。夜がやっぱり、相手の隙をつくっていうのもあるし、暗くて危ないからしっかり集中しないとって意味もあります。高校ヨット部を引退してからキールボートに乗り始めて、これまでのオーナーやみんなの知識や教えてくれたことが、今試されているのかもしれません。技術だけでなく、スポンサーとの関わり方とか、応援してくれている方たちにどう応えるか、どう伝えるか。本当に全てのことが試されていて、もっと良くなっていくと思います。
——OP級からセーリングを始めたわけではありません。
國米:僕のヨットの経歴って、普通ではないですね。6歳から始めたけどOP級も乗ってないし。小さい頃はハワイヨットクラブにいたので、ずっとトランスパックに出たいなって思っていました。日本で競技として真剣に高校から取り組んできて、やっぱりヨット乗りたるもの、海を渡らないといけない、大陸間横断はやりたいなと、そういう気持ちでやっています。それと、僕は遊びも含めて、いろいろなヨットを楽しめているなって思います。これからヨットを知らない人も知っている人にも、こういう話ができたらいいなって思っています。
自分の仲間を増やしたい
——今はミニ6.50よりも、白石さんのサポートとしてIMOCA60に深く関わっています。
國米:IMOCA60については、将来の自分のためにも、誰よりも詳しく知っておかないといけないと思っています。フィン級だったらどこか壊れたらその日のうちに陸に戻るけど、IMOCA60はそうはいかない。ヴァンデ・アークティックみたいに、60ktの風が吹くかもしれない。それを白石さんは海の上で1人。僕、初めての世界一周はヴァンデ・グローブにしたいと思ってるんです。無謀かもしれないけど、そうしたい。そういう人もいますから。
——日本に帰ってもなかなかじっとしていませんね。
國米:時間があればあいさつ回りに行きたい。いつかは白石さんも引退する時が来て、その時チームを存続するために、誰かが白石さんみたいにならないといけない。僕はそこになりたいんです。日本にいる間にもいろんな人に会いたい。僕の仲間を増やしていきたいということです。
photo by Fumina Moriguchi / Kazi
2025年のミニトランザット出場および完走を目指し、IMOCA60のサポートと平行してミニ6.50にも乗ってトレーニングを重ねる予定だ
國米 創(28歳)
■生年月日:1994年7月21日
■出身地:岡山県
■最終学歴:法政大学
■身長/体重:175cm/90kg
■セーリング歴:22年
■その他スポーツ歴:空手、バスケットボール
(文=Kazi編集部/森口史奈 写真=舵社/山岸重彦、Kazi編集部/森口史奈 協力・写真提供=DMG MORIセーリングチーム)
※この記事は、2023年の『Kazi4月号』の「DMG MORIセーリングアカデミー 日本人若手2人の決意」を再編集したものです。4月号のお求めはこちらから。
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