プロセーリングチームであるDMG MORIセーリングチームは、若手セーラーやエンジニアの育成のためにアカデミーを立ち上げ、2022年から活動している。そのアカデミーには現在、2人の日本人セーラーが所属。三瓶笙暉古(さんぺいふぇでりこ)さんと國米 創(こくまいはじめ)さんだ。それぞれ今年と2025年の、ミニ6.50を用いた単独大西洋横断レース「ミニトランザット」の出場を目指している。今年9月のミニトランザットの出場資格を得た三瓶さんのインタビューをお届けする。
中学生で抱いた世界一周の夢
——セーリングを始めたのが19 歳。「これだ!」っていう感覚はありましたか。
三瓶:初めてのヨットが、アメリカズカップのソフトバンク・チーム・ジャパンのクルー選考会でした。今思えば、一緒にセーリングしてくれたのがディーン・バーカーやクリス・ドレイパーといったそうそうたるメンバーだったんですけど、サポートボートが離れたあとは、その時まで感じたことがなかった感覚でした。「こんなに素晴らしいものがこの世にあるんだなー」って思ったのは覚えてますね。
——選考会に参加したきっかけは。
三瓶:勤めていた北海道の牧場を辞めたくて、何か探してる時にたまたま選考会を見つけて、ちょっとやってみようかなと。
——白石康次郎さんとの出会いを教えてください。
三瓶:バミューダのユースアメリカズカップを終えて日本に戻ってきて、セールメーカーでバイトしながら、次に何をしようかなって考えてる時に、〈スピリット オブ ユーコー IV〉(IMOCA60)が日本にちょうど来たんです。白石さんに回航に乗らないかっていうお誘いをいただいて、その時にご一緒したのが最初ですね。アルバイト以外の時間に手伝いをしていて、その過程でDMG MORIセーリングチーム発足が決まって、ずっとサポートさせてもらっていました。
——大きなチームになって、そこに加入した時はどういう目標を持っていたんですか。
三瓶:当時も今もセーリングで世界一周したいっていう夢があって、白石さんはそれを実行してる人だったので、あまり深く考えずにこの人について行ってみようという思いでした。チーム発足が決まって、フランスで活動するけど一緒についてくるかというふうにお誘いをいただいたので、「一緒に行きます」って言いました。
——世界一周はいつ頃から考えていたものなんですか。
三瓶:元々中学生ぐらいの時から漠然と世界一周してみたいなと。そのときは自転車でと思ってました。
photo by Anne Beaugé / DMG MORI SAILING ACADEMY
三瓶さんの相棒が、ミニ6.50〈DMG MORI Global One Mini 1046〉。今年の予選レースを完了し、9月のミニトランザットの出場資格を得た。写真は昨年のレースのもの
フネより自分を変える
——2022年3月末に進水した〈DMG MORI Global One Mini 1046〉で、どのくらいの距離を走りましたか。
三瓶:レースだけだと1,820マイルなんですけど、1,000マイルの単独無寄港セーリングがあって、1回目を失敗して2回やってるんで、それで2,000マイル。あと他に回航を加えれば、4,500マイルぐらいは走ってるんじゃないかなと思います。
——フネが自分のものになっている感覚はありますか。
三瓶:良くも悪くも、僕は艤装の使いやすさに無頓着で、使いづらいところがあっても、これはこういうものなんだって自分の中で納得して自分のスタイルを変える感じなんです。すごい船酔い体質なので、フネの中でどう過ごすかに重きを置いていると言うか、フネより僕自身を変えていく感じですね。ロール・ギャレー(アカデミーの仲間)の船を見ると、いつの間にかテークルが増えていて驚きました(笑)。
photo by Fumina Moriguchi / Kazi
1月に東京都内で開かれたDMG MORIセーリングチームの活動報告会には、アカデミー所属の4人がそろった。前列右から時計回りに三瓶笙暉古さん、ロール・ギャレーさん、アレクサンドル・デュマンジュさん、國米 創さん
レーサーの域には未到達
——自分はどういうセーラーだと思いますか。
三瓶:セーリングしていて一番に考えるのは、フネを壊さないこと、無事に港に帰ることです。速く走るとか他の人を追い抜くっていうのがその次になってしまっているんで、レーサーとはまだ呼べないのかなとは思ってます。性格は天邪鬼かも。
——なりたいセーラー像はありますか。
三瓶:まさに今それをちょっと考えているところで、自分がセーリングを楽しむっていうのは一番なんですけど、最近はそれだけでは良くないなって思っています。周りにセーラーとして認めてもらえるような人になりたいですね。白石さんがよく言うのは「セーリングを通して世の中を楽しく明るくする」ということ。僕に同じことができるかどうか、それとももっと別の僕にしかできないことがあるんじゃないかって考えているところです。
——2月からトレーニング再開予定で、9月のミニトランザットまでどういうことに集中して取り組んでいくのでしょうか。
三瓶:ミニトランザットの予選は、1,500マイル以上のレース経験、1,000マイルの単独無寄港、開催年に最低1レース完走すること。ミニのレース人気はますます高まっていて、ウェイティングリストに載って待つこともあるのですが、今年はどれかレースに出て完走すれば出場資格を得られます。レースまでにまず、電装系のトラブルシューティングを自分で全部できるようにしたいですね。このフネでのセーリングにも慣れてきて、1人で乗ることにも自信を持ってきたところなんで、これからより速く走るためにどうするか、レース的な視点を強化していきたいなと思ってます。
——具体的な順位の目標を教えてください。
三瓶:ん〜、宿題ということで(笑)。
photo by Clément Gerbaud - QAPTUR / DMG MORI
6月1日にスタートしたトロフェMAPの準備の様子
三瓶笙暉古(26歳)
■生年月日:1996年7月18日
■出身地:神奈川県
■最終学歴:法政大学第二高校
■身長/体重:180cm/90kg
■セーリング歴:6年
■その他スポーツ歴:バスケットボール、ラグビー、ロードバイク
(文=Kazi編集部/森口史奈 写真=舵社/山岸重彦 協力・写真提供=DMG MORIセーリングチーム)
※この記事は、2023年の『Kazi4月号』の「DMG MORIセーリングアカデミー 日本人若手2人の決意」を再編集したものです。4月号のお求めはこちらから。
あわせて読みたい!
●6/5発売、月刊『Kazi』7月号|特集は「雨がやんだらヨットを出して」
●外洋への扉を開こう!DMG MORIセーリングアカデミーの研修生募集