パリ五輪まで1年を切り、月刊『Kazi』では新連載「GO! PARIS 2024」をスタートした。
2021年の東京五輪後に日本セーリング連盟オリンピック強化委員会の委員長に就任した宮本貴文さんと、ヘッドコーチの中村健一さんに、パリ五輪での20年ぶりのメダル獲得、さらにその後の五輪を見据えた新体制での取り組みを伺った。そのインタビューの前編をお届けする。
■20年ぶりのメダル獲得へ
オリンピック強化委員会(以下、オリ強)は、パリ五輪の目標を「1 種目メダル獲得、1 種目入賞」と定めている。パリ五輪では、男女混合470級、男子49er級、女子49er FX級、男女混合ナクラ17級、男子ILCA7(レーザー)級、女子ILCA6(レーザーラジアル)級、男女のiQフォイル級、男女のフォーミュラカイト級の10種目が実施予定だ。
宮本:メダルに最も近いのは、 現段階の分析結果を見ると470級となります。ただ、オリ強の方向性は種目を限定するものではなく、よりメダルや入賞を狙える選手、すなわちナショナルチーム(NT)やその上のナショナルチームエース(NT-A)の選手たちに対して、よりその目標が現実味を帯びるように、選手の要望に寄り添ってサポートをすること。そして中学生、高校生に代表される次世代の選手たちに対して「HOPE育成プログラム」を提供し、2028年ロス五輪、2032年ブリスベン五輪に向け、第一線で活躍できる選手を育てること。この二つがわれわれの重要な存在意義と定義付けています。
今年の5月時点では、NT-Aには470級の岡田奎樹(けいじゅ)/吉岡美帆(トヨタ自動車東日本/ベネッセホールディングス)、男女のiQフォイル級の池田健星(三重県スポーツ協会)、新嶋莉奈(エリエール)、須長由季(ミキハウス)が該当する。この5人は世界選手権やそれに準ずる国際大会で10位以内に入り、NT-Aと認定された。オリ強はこの4月よりメダル獲得プロジェクトチームを設立し、NT-Aの要望に応じたサポートを実施している。そもそもNT入りするには制限があり、2021年は世界選手権で上位50%以内、2022年は40%以内、2023年は30%以内とどんどんハードルが上がる。段階的に高いレベルでの競争を促していく施策であるとともに、潤沢でない強化費を適切に割り振るための現実的な工夫でもある。ホスト国ゆえ10 種目全てが強化対象だった東京五輪とは全く状況が異なるのだ。
宮本:パリ五輪に出るには、2024年の種目別世界選手権で上位50%に入るという条件をクリアする必要があります。選択と集中を行いながら、入賞やメダル獲得の可能性を高めていく、というのが基本的な考え方です。
■未来のためのHOPE育成プログラム
次世代選手を対象とするHOPE育成プログラムは、今年で3 期目に入った。選手の成長とともにプログラム内容をアップデートする必要があり、試行錯誤の日々が続くが、ゆくゆくはこの取り組みを内部にとどめず、セーリング界全体の競技力アップにつなげたいとオリ強は考えている。
宮本:講習教材を作ったり、トレーナーさんのご協力でフィジカルに関する各種数値を出してデータ化したりと、さまざまなものの見える化を進めています。言語化・数値化が難しい部分も多いですが、何にどのように取り組めばどれだけ成績が上がるかを明確にしていくことが、選手の自信にもつながっていくと思っています。
中村:HOPE育成プログラムが全国のセーラーにしっかりと認知され、魅力あるプログラムとなるよう取り組んでいます。選手が五輪を目指そうとしたときにどのような段階を踏んでいけばいいのか、イメージしづらい現状があります。どのくらいの年齢で始めて、どれくらいのレベルになって、何歳でオリンピアンになって、メダルを取ったか。そのログをきちんと取って、 オリ強のウェブサイトに載せていれば、「五輪に出場したい、メダルを取りたい」という思いのある選手、保護者の皆さんの参考になるのではないかと考えています。HOPE育成プログラムで栄養、フィジカル、メンタル、気象にも取り組んでいて、それがどう成果につながったのかを見られるだけでも、皆さんの参考になると思います。最終的には全国の指導者やセーラーに届けられるように、講習データのウェブ上の公開を実現したいです。1回のオリンピックキャンペーンで五輪に出場できる確率は低く、2、3回の経験を経てオリンピアンになる選手が多い傾向にあります。ホープ選手として国際大会での経験を積める意義は非常に大きく、次世代の若い選手たちがもっと世界大会に出られるように、そして25歳くらいで五輪に出場できる日本セーリング競技界にするのが目標ですね。
※この記事は『Kazi10月号』の新連載「GO! PARIS 2024」を再編集したものです。
(文=Kazi編集部/森口史奈 写真=ワールドセーリング、山岸重彦/舵社、松本和久)
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