セーラーの秘密基地。桟橋とヨットがある暮らし(後編)

2023.05.14
ときに思索し、ときに友人を招く
桟橋とヨットがある暮らし

自宅から離れた海沿いの別荘。 

そこに自作の桟橋を設置して、大切な愛艇を舫う。 

そんな憧れの暮らしを実践されている、長谷川一仁さんの別荘を訪れた。 

自作とは思えない美しき桟橋と、よく手入れされたそれぞれの古民家。訪れる友人たちを最大限にもてなす、すばらしきホスピタリティーがそこにはあった。 

 

Kazi12月号で話題を呼んだ特集「セーラーの秘密基地」。舵オンライン再掲載版、後編をお届けします。

メインカット | photo by Shigehiko Yamagishi | 三重県英虞湾(あごわん)の賢島(かしこじま)エリアのとある一画ある長谷川一仁さんの別荘。中央奥が現地再生された古民家の母屋。その右隣が移築再生された客人用の古民家。右手にあるのが客人用のレストラン。それらを自作の桟橋がつなぐ。桟橋の内側にあるのは、自作したプライベートビーチ(ラグーン)だ 

前編を読む

 

長谷川一仁 | Kazuhito Hasegawa

180年の歴史を持つ英国ESSE社の薪ストーブの取り扱いおよび、古民家再生などに携わるグランビル社代表の長谷川一仁さん。四日市海洋少年団で10歳のころからセーリングに親しみ、現在までさまざまなヨットやボートを乗り継いできた。現在は英虞湾の賢島エリアに別荘を持ち、独自の感性で海を楽しむ日々 

 

 

ある日の朝食

床板を外し、土間に囲炉裏を配した長谷川さん流の癒やしスペース。火を付ければ床暖房にもなる。壁掛け式ガスストーブ「ESSE Firewall39」(製造元:グランビル)のゆらめきに癒やされる 

 

 

朝食はJIROと一緒に。大好きなチーズを食べました 

 

 

前編で紹介した夕食のイセエビは、翌日の朝、みそ汁に大変身。志摩JIROさんの心がこもったアイデアです

 

 

自作の秘密基地、憧れの暮らしの始め方
友人たちを引き付ける魅力

前編にも書いたが、こうした自分だけの秘密基地をこしらえるオーナーは、その時間を自分のためだけに使う方が多いように思う。しかし、長谷川さんは、根底に流れるものが少し違う。 

もちろんこの場所で本業である設計やデザインの思索にふけることはあるが、それよりも自分だけが楽しむのではなく「訪れた人を楽しませたい」というハッピーな衝動がそこかしこに施されている。 

その一つがプライベートレストラン。母屋で客人をもてなすことだけでは飽き足らず、家屋を改装して客人用の食堂を作ってしまった。さらに、海女で謎の料理人・志摩JIROさんにお願いし、管理人として別荘全体を見てもらっている。 

「ほんとにお客さんはたくさんいらっしゃいます。社長(長谷川さん)は、お客さんが近鉄の賢島駅までくると、駅近くの岸壁までボートで迎えに行って、そのままここへ。すぐに岸壁沿いに作った猫足のバスタブに案内して旅の疲れを落としてもらう。ウエルカムファイヤー(焚火)を用意して、夜には地元の幸をふるまう。みなさんとても喜ばれます」(志摩JIROさん) 

 

 

〈June brossom(ヤマハMS24)を駆って英虞湾を案内していただく。長谷川さんがここを気に入った理由がすぐにわかった 

 

 

秘密の入り江を紹介してしまってすみません。ここは、長谷川さんのとっておき、土井ケ原島東部に切れ込んだ特等席。外は10ノットほどの風があったが、ここは無風。入り江にアンカリングして、今夏は友人たちとソーメンパーティーを開催しました 

 

 

真珠漁師で友人の中北敏廣さん

友人、中北敏廣さんの真珠棚。このアコヤガイは、油壺ボートサービス(ABS)の日髙芳子さんのもの。不思議な縁です 

 

 

御年85歳の中北さんが、板が張られていない真珠筏をひょいひょいと走り抜ける!

 

 

特別に見せていただいた、取り出したばかりの真珠。太陽光にあてると、なんとも魅惑的な色彩を醸すのだ

 

 

地元漁師の田辺公麻之さんからカニをいただく

62歳まで真珠養殖を営んだ田辺公麻之(くまゆき)さん。現在はガシ、タコなどの漁を生業にする

 

 

真珠棚の上に別荘を建てた田辺さん。日がな一日ここでゆったりと過ごす。カニ網を拾うため、田辺さんの和船に乗せてもらう

 

 

カニ網漁を手伝う長谷川さん。手慣れた手つきです

 

 

手伝ったご褒美にいただいたワタリガニ

 

 

プレゼントのワタリガニはその日のランチに。とれたて即茹で、シアワセの味わい!

 

 

長谷川さんが取り扱う、薪を使ったESSEのガーデンストーブでBBQ

 

 

アユの塩焼きも絶品でした

 

 

秘密基地の来訪者

うかがえば、その長谷川さんのご友人たちのお歴々の名前がすごすぎる。ここですべて書くことははばかられるが、三井のリハウスで有名な国民的美少女から、俳優、女優、芸人といった著名人が数多く訪れているのだ。なかにはかの、米国の富豪、ロックフェラーが妻とともに訪れたこともあるという。 

「ディビッド(ロックフェラー)は、ロールス・ロイスでやって来た。ここは道が狭いでしょう。きっと大変だったと思うよ。関西のセーラーに、ここを見てぜひ譲ってくれないかってお願いされた。自分で造ったものだし、値をつけようもないしこまりましたね。

ヨット乗りってのは変わった方が多いのかな。もともとアナログな乗り物が好きでセーリングしている。だからこうした古民家と自作の桟橋みたいな暮らしに共感を持つんですかね」 

ロックフェラーも芸能人も、ましてや日本のセーラーも、長谷川さんの前ではみんな同じ。なんとも不思議な魅力にあふれた人である。 

東京に戻り、ビーチ造成の手伝いをした矢部さんにこれらの話を報告した。すると矢部さんは「君たちも何か手伝わなかった?」と聞いてきた。そういえば、私とカメラマンは、グラバンのバッテリー(1基48kg)の交換などを手伝った。それを聞いた矢部さんはにやりと笑う。

「そうか。あの人の頼みは断れないよな。何か力になってあげたくなる。だから友達が多いんだろうな」。その言葉が腹に落ちる。 

一緒に汗をかいて作業する。一気に縮まる距離。ホストとゲストではない、友人関係の構築。これは長谷川さん流のおもてなしの一つなのだ。共に働き、共にご飯を食べる。仲間として認めてくださる。 

          *

セーラーの憧れ、桟橋付きの別荘という秘密基地を持つオーナーのバイタリティー。それは世捨て人のような生き方とは正反対の、人々を引き付ける魅力と活力に満ちたすばらしき暮らしなのであった。 

 

 

自作の桟橋に舫った愛艇から見た自邸。セーラーにとってこれ以上の幸せはないだろう 

 

 

ツリーハウスがあった見晴らし台から見た中庭。ここにもファイヤーサークルがある 

 

 

移築再生した離れの古民家は、明治初期(約150年前)の建造物 

 

 

別荘のガレージには愛車のMG・Bが。こんなところもBow。さんの夢と同じ 

 

 

愛犬のJIRO。この別荘が映画のロケに使われた際、JIROも映画出演しちゃいました 

 

 

母屋の2階は長谷川さんの寝室兼仕事場。思索にふけるとき、この製図台で次なる建築のアイデアを図面に起こす。誰にも邪魔されない、自分だけの時間である 

 


 

前編を読む

(文=中村剛司/Kazi編集部  写真=山岸重彦/舵社)

※関連記事は、月刊『Kazi』2022年12月号にも掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ 

 

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