マリン業界社長座談会「海の仕事に求められる資質」前編

2024.01.17

造船業から岡崎造船の岡崎英範社長、ディーラーからはファーストマリーンの藤本 伸社長、セールメーカーからノースセール・ジャパンの鹿取正信社長、そしてメディアから舵社の植村浩志社長。

各マリン業界の4社長による、リモート座談会を開催。

マリン業界の社長たちが求める素養、資質とは?

2024年Kazi1月号に掲載されたものを前後編にて無料公開いたします。 

 

 

 

 

――まずは、弊社、舵社社長からひとこと。

植村浩志(以下、植村):「本日はお集まりいただきありがとうございます。海に興味ある人が減っている現状を打開する起爆剤の一つになればという趣旨で、本特集を組ませていただきました。ヨット部の学生さんや、海にちょっとでも携わってきた人たちに、もう一度、海って働く場でもあるんだよということを、再認識してもらえたらと思っております。 

まずは藤本 伸さん、ファーストマリーン社長就任おめでとうございます。ファーストマリーンでは現在、社員募集をされていますか? 鹿取正信さん、岡崎英範さんにもお聞きします」 

藤本 伸さん(以下、藤本さん):「ありがとうございます。2023年の7月から社長を拝命しました。ファーストマリーンでは、公には募集はしていません。もちろん、よい人材には来てほしいなと思っています」 

鹿取正信さん(以下、鹿取さん):「うちもそうですね。大々的な求人はしていませんが、常にいい人がいればとは思っています。一番は“熱”を持った人じゃないと長続きしないというのがありますよね。そういう方であればと」 

岡崎英範さん(以下、岡崎さん):「ハローワークやHPで求人していますが、反応はいまいち。ですが、2023年の10月に28歳の新人が入りました。彼は自ら、この業界に飛び込んでくれました」 

藤本さん鹿取さん植村:「おめでとうございます!」 

植村:「岡崎さん、貴重な人材ですね。舵社は思いっきり募集しているんですが、なかなか反応が少ないですね(笑)」 

鹿取さん:「一本釣りはしないんですか?」 

植村:「それもしているんですが、なかなか。針が外れちゃったり、コマセに寄ってきてくれなかったり(笑)。ちょっと質問なんですが、クルージングレースが好きだという社員が多いと思います。そのあたりの勤怠はどうしていますか?」

岡崎さん:「終わりが早いので、仕事のあとに釣りに行くなんていう社員は多いですね。ヨットが仕事なので、クルージングやレースに出ると言われたら、そうかってなりますよね(笑)」 

藤本さん:「うちは回航業務という、苦しくも楽しい仕事がありますから(笑)。お客さんとヨットに乗るのも仕事です。クルージングも仕事ということですね」 

 

 

 

「オーナーの夢を形にする仕事。手仕事、物作りが好きで前向きな人が向く」

岡崎造船社長 岡崎英範さん

 

 

岡崎造船の造船ヤード。多くのファンが国産艇の建造を待っている 

 

 

――中村 匠さんが、スターセーラーズリーグ日本代表に選出され、長期間海外レースに出るそうで、それを許した鹿取社長は男気がある! とうわさになっていますが。 

鹿取さん:「足代が出るっていうので許可しました(笑)。その参戦で何がプラスになるのかっていうのもあるんですが、出張扱いにしました」 

植村:「舵社だって、パールレースや小笠原も出張にしてるよね!」 

 

――すみません、感謝しています(中村)! では、皆さんの自己紹介もかねて、自社入社時のエピソードを教えてください。 

鹿取さん:「私はシンプルで、アメリカズカップ(以下、AC)の仕事に携わったなかで、当時はダイヤモンドセールメーカーズジャパンの菊池 誠さんと働く機会がありました。2007年、ACスペイン大会が終わったころから仕事をはじめ、ノースセール・ジャパンに2011年に入社。同社に籍を置きながら、ACの仕事は2017年まで続け、2019年から社長を拝命しました」 

岡崎さん:「私の場合は家業ですから、自然と入社していましたね。大学も造船を専攻したり、アメリカやオランダなど海外にも留学しました」 

藤本さん:「僕の場合は、ヤマハ発動機に入ったのが1989年。13年ほど働いたころ、ヤマハがヨット製造に注力できない環境下になりつつあり、そこで関口徹夫さんに声をかけていただきました。入社して衝撃的だったのは、これほどヨットやボートを販売している会社があるのか! ということでした」 

植村:「舵社に入ったのが1984年になります。外洋帆走部だった大学4年生の秋から舵社でアルバイトをしていました。当時はレーシングヨットチームに所属し、実はわざと留年してシドニー~ホバートヨットレースやケンウッドカップに出ようと思い、そのための資金集めのバイトでした。ですが舵社の仕事が面白くなってしまい、海外レースは諦めて舵社に入社。総務部所属で1年ほど働いたあと、『ヘルム』の編集長が退職するということで、なんと2年目の私に編集長をやれと」 

鹿取さん:「すごいですよ、それ。面白いですね(笑)」

植村:「ほんとに(笑)。24歳でしたね。その後『Kazi』編集部に配属。さまざまな部署転換もあって、2020年の5月に4代目社長を拝命しました」 

 

 

「一番は“熱”を持った人じゃないとこの仕事は長続きしない」

ノースセール・ジャパン社長 鹿取正信さん 

 

世界に通用する高い技術。ノースセール・ジャパンの魅力のひとつだ 

 

 

――では、皆さん各社のリクルート対策について教えてください。 

岡崎さん:「ひとり新人が入ったとはいえ、まだまだ人員は足りません。誰かの紹介というのが一番よいですよね。現在は、人材紹介会社への登録を検討していますが、小豆島での就職となると、島外の人材は移住、田舎暮らしなど生活面でのハードルが高いように思えます」 

鹿取さん:「先にも言いましたが、月並みですが、熱を持ってる人じゃないとって思います。経験や技量よりも、熱を持った人」 

藤本さん:「熱、いいですね。ファーストマリーンでは、社員のプロフィールを限定していくと難しいところがあるので、そこはなるべく広い目で見るようにしています」 

植村:「舵社の場合は、新卒の定期採用は行ってなくて、今いる社員の8~9割ぐらいは転職組です。みなさんリファラル採用中心ということで、弊社もそこは積極的です。社員が約30人中、編集部が10人ぐらいで、2/3がヨット部出身。ま、ちょっと社員の年齢層も高くなってきているので、そこもなんとかしないと」

鹿取さん:「うちも年齢層は上がっています。先を考えると若手の確保は手を付けなければいけない。クルーザーレースも、人が減りましたよね。逆にクルージング艇のほうは大型化して伸びているイメージがありますが」 

藤本さん:「まさにそうですね。小型艇は売れなくて、大きいほうから売れていきます。レース艇とクルージング艇の割合は、1対9というところでしょうか。でも、セーリングの遊びの中でレースは欠かせません」 

植村:「ファーストマリーンは、アフターサービスも手厚いと聞きました」 

藤本さん:「アフターセールスとも言いますが、フランス本国のベネトウ社からもその重要性を説明されています。遊び方を提案して、長く遊んでいただく。それが重要ですね」 

鹿取さん:「私たちもセールを納品したあと、細かいところが違ったりすることはあるので、きちんと走りを見るというのはやっています。使い方が分からないということもあるし、フォローは重要だと思います。うちはレースのイメージが強いかもしれませんが、コロナ禍でレースが減ったとき、クルージングセールの評価をいただきました。アフターフォローもふくめて、大事な問題ですよね」 

 

後編に続く

 

(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

※本記事は月刊『Kazi』2024年1月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 


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