マリン業界社長座談会「海の仕事に求められる資質」後編

2024.01.23

造船業から岡崎造船の岡崎英範社長、ディーラーからはファーストマリーンの藤本 伸社長、セールメーカーからノースセール・ジャパンの鹿取正信社長、そしてメディアから舵社の植村浩志社長。

各マリン業界の4社長による、リモート座談会を開催。

マリン業界の社長たちが求める素養、資質とは?

 

2024年Kazi1月号に掲載された記事を前後編にて無料公開中。では、その後編をどうぞ。

前編はコチラ

 

 

 

――ではメインの質問。スタッフに求める資質とはなんでしょう? 

藤本 伸さん(以下、藤本さん):「鹿取さんおっしゃる“熱”っていう言葉、気に入っちゃったな。海やセーリングが好きで、経験がなくても、そういうものに対する強い気持ちがあって入ってきてくれる人。ただ、難しい表現ですが、フネを売るという仕事は非常に過酷なんですね。数千万円から何億円という物件をお売りするわけです。それに対応できる体力、気力、精神力といった胆力がないと。そういう意味でも、やはり真面目な人がいいですね」 

――こういう人は向く、向かない、というポイントはありますか? 

藤本さん:「自然相手なので、トラブルはつきもの。失敗を失敗と感じさせないような、ポジティブさ、明るさがあるといいですね。どんなトラブルでも、周りを明るくしてしまうような強烈なマインド。そんな人はディーラーに向くかもしれません」 

鹿取正信さん(以下、鹿取さん):「向かないタイプをいうなら、うちは飽きっぽい人かな(笑)。突き詰めていく仕事なので、飽きっぽいと向きません。セールスマン的な話でいうと、藤本さんがおっしゃったことに近いです。お客さんが何を求めてるかを、どこまで感じられるか。重要な素養です。大学での専攻などは、気にしません」 

岡崎英範さん(以下、岡崎さん):「海好きはもちろんですね。うちは、新卒・中途関係なく、手仕事、物作りが好きで前向きなスタッフがいいです」 

植村:「海好きっていうのはそうですね。もうひとつ言えるのは、人嫌いは絶対務まらないだろうってこと。人と話す、人とコミュニケーションする、人と関わることが好きっていうのも、重要だと思います。 

ところで、ふと思ったんですが、マリンにはいろんな業種があるけれど、横のつながりというか、各社を橋渡しする仕事体験みたいなことができないかなと。例えば岡崎造船さんに1カ月とか3カ月とかうちの社員を修業に出して、造船のひとかけらでも体験させてもらいたい。セールメーカーやディーラーさんにも」 

岡崎さん:「うちはいつでもウエルカムですよ」  

藤本さん:「長~い回航業務ならいつでもどうぞ(笑)」 

鹿取さん:「いいですね、それ。舵社さんで企画してほしいな。ファーストマリーン1週間コースとか。それで思い出したんですが、普通の企業だとインターン制度ってあるじゃないですか。そういうのって学生さんは興味あるんですかね。ファーストマリーンさんでも、回航はアルバイトを雇いますよね。それもインターン制度のひとつみたいな感じがするんです」 

植村浩志(以下、植村):「インターン制度、いいですね。あと、例えばボートショーの時に就活学生さん向けの合同説明会をするのはどうですか? 学生入場料無料で説明会を開催」 

岡崎さん藤本さん鹿取さん:「ぜひお願いします」 

 

――ちょうど学生さんにアンケートを取っているので、その項目も加えます! 

その結果

Kazi1月号に掲載された「マリン業界意識調査アンケート」より抜粋

 

 

「どんなトラブルでも、周りを明るくする強烈なマインドの持ち主」

ファーストマリーン社長 藤本 伸さん

 

 

ファーストマリーン本社に隣接するギャラリー。来客をもてなすため、海洋写真やアイテムが展示される

 

 

鹿取さん:「岡崎さんに質問があります。私の業界もそうですが、先細りしている現状に対し、次の一手をどのように考えているか、アドバイスをぜひ。円安が続けば、国内ビルダーの独り勝ち、という未来も?」 

岡崎さん:「弊社の場合、大量生産は不可能ですので、顧客の要望にできるだけお応えするという高付加価値で対応しています。円安で船体価格については競争力になりそうですが、使用材料は海外製品が多く価格が不安定で、FRP材料、木材などについても資材高騰でなかなか思うようにはならないのが現状でしょうか。チーク材に関しては入手困難になっています」 

藤本さん:「外国では、造船の一部や全体を他国に移す試みが目立ちますが・・・」 

岡崎さん:「昔からどのビルダーも“造船屋は儲からない”が合言葉でしたが、細々でも続けていけるよう努力していきたいです。ステップマリンさんが台湾で建造していたように、他国での自社ブランドの建造はありなように思われますが、国産だからと購入してくれるお客さまが受け入れてくれるか、がネックですかね・・・」 

植村:「岡崎造船は、数少ない国産ビルダーとして大いにリスペクトしています。せっかくの機会ですのでお聞きします。将来的なビジョン、日本のヨット界のこの先をどうとらえてらっしゃいますか?」 

岡崎さん:「あまりネガティブなことを思いたくないんですが、鹿取さんも言われているように、先細りしていくのが現状なのでしょうね。ただ全く絶滅はしないと思います。ニッチ市場のなかで、ニーズに応えた商品を手掛けていかなければと思っています」 

 

 

「人と話す、人とコミュニケーションする、人と関わるのが好きということが、重要」

舵社社長 植村浩志

 

 

――では最後に。御社に入社した際のメリットとは? 

鹿取さん:「まず、仕事相手が世界という点。非常にコアな部分です。まあ、ヨット好きな方には、本当に楽しい会社かもしれない。プライベートのヨット活動も仕事につながることもある。 その辺も、売りかなと思います」 

岡崎さん:「フネを建造する喜び、ですね。オーナーの夢を形にする仕事です」 

藤本さん:「ヨット、ボート好きにはもうたまらないぐらい、船に囲まれた仕事環境です。海外のボートショーであったり、これまで見られないような船を見る。フネ好きにはよい環境かなとは思います」 

植村:「舵社の創業者・土肥勝由さんは『ヨットという楽しい遊びは、自分だけでやってちゃもったいない。もっと日本で広めたい』と、メディアを立ち上げました。今後は紙媒体だけでなく、デジタルメディア、動画、イベントなどを通して、その理念を広めたい。社員に言ってるのは、マリン業界のハブであろうということ。これは中心ということじゃなくて、交差点となって業界内各社をつなげていこう、ということ。舵社には、それができるはずです。新しいことにもチャレンジできる、ということでもあります」 

――マリン業界への熱き議論は尽きません。4人の社長の言葉が少しでも刺さった人は、Kazi1月号の特集「海で働く」を参考に、マリン業界の扉を開いてください。きっと、あなたにフィットした未来が見つかるはずです。 

 

 

セーラーなら誰もが愛する海を仕事場にする。良いことばかりではないだろうが、そこには無限の可能性が待っている 

 

(文=中村剛司/Kazi編集部 写真=山岸重彦/舵社)

※本記事は月刊『Kazi』2024年1月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 


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