【短期集中連載】アイスランドでの5年間/北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海(3)

2024.11.29

この物語の主人公、プロのボートビルダーで情熱に溢れるセーラー、ウィル・スターリングは、英国プリマスにある造船所で、自設計によるデッキ長43フィートの木造カッター〈インテグリティ〉を建造し、2012年に進水させた。目指すは、伝説の北西航路横断。ウィルとクルーたちは早速、実際的な準備に入った。(編集部)

 

【短期集中連載】北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海
①北西航路の歴史
②砕氷帆船の建造

 

 ◆メインカット

photo by Will Stirling | 流氷に接舷する43フィートの木造カッター〈インテグリティ〉。ハルを塗装しなおす前である

 

〈Integrity〉 

●デッキ長:43フィート
●水線長:37フィート
●喫水:7.6フィート
●メインセール:675平方フィート

 

修理と準備を進めた、アイスランドのフーサビーク(Husavik)の位置と周辺地図

 

クルーたちと冒険航海の計画をたてるウィル・スターリング(右から2人目)

 

アイスランドのフーサビーク(Husavik)にて、ノースセーリング社のスリップウェイを借りて整備と準備を行う

 


Transit of the North West Passage(北西航路横断)

 

アイスランドでの航海訓練

船の進水後、我々はプリマスを拠点として、長期にわたる海上でのテストを繰り返した。その後続いて、木造カッター〈インテグリティ〉はアイスランドに拠点を移して5年間を過ごし、その間にヤンメイエン島(Jan Mayen:北緯70度59分、西経8度32分)や、東グリーンランドへの夏季航海を何度も重ねた。こうした準備を経て、我々は北西航路横断航挑戦を2023年に実施すると決定した。

アイスランド北部を拠点としたこの数年間は、プリマスで築いた基礎の上に、それまでとは異なるタイプの船の準備と訓練成果をもたらした。ひとつの航海を成功させるたびに、私たちは、船と、乗り組む僚友(クルー)の資質に対する信頼を深めていった。とりわけ大切なことは、氷塊の浮かぶ、あるいは氷に閉ざされた海での航海経験を我々が深められたことだ。

私たちは自分自身についても多くを学んだ。疲れ果てて、寒くて、空腹で、時に恐れを抱かされるような場面で、我々は自らの行動を管理し、船に対処しなければならない。これらの問題に直面することは、すなわち経験を積むということでもある。

練習航海を終えるごとに、我々はスペア(予備品)と修理の方法を二つのカテゴリーに分けて検討した。ひとつは、何らかの出来事が起きた後、ボートの安全を確保するために速やかに必要となる即時的なもの、もうひとつは、長い航海を続ける能力を維持するための継続的なものである。

ボートを整備、維持、修理するにあたっては、その整備や修理に必要かつ、自分たちの能力に見合った道具と予備品を船内に持っていること、それらを用いて適切な処置が出来ることを我々は確信する必要があった。各練習航海の前後は、(自宅に戻らず)アイスランドで日々を過ごしたことによって、我々は北極圏に精通した人々との友情を育み、彼らからさまざまなアドバイスをもらうことが出来た。その価値は計り知れず、航海を完遂するための重要な要素を我々に与えてくれた。

こうして周到に準備を整えた我々は、〈インテグリティ〉をアイスランドのフーサビーク(Husavik)にあるノースセーリング社(帆船による冒険ツアー会社)のスリップウェイに上架して、船体を黒色に塗装した。北極圏での航海には、黒がふさわしいと思えたのだ。

東グリーンランドでの最後の滞在のためにアイスランドを出発した私たちは、フェアウェル岬から南へ航海を続け、シーズン後半にはノバスコシア州ルネンバーグに到着した。

これは(北西航路とは逆の)一見間違った方角への旅だったが、その理由は、冬の間、徹底的な点検と整備を行うために、インフラが整い、専門知識を持つ技術者たちがいる場所に船を揚げたかったからだ。私たちはボートワークスに船の詳細な点検を依頼した。その目的は、外からでは把握できない船の構造部の状態を調べ、疑うべき要素を全て取り除くことだった。この地でだからこそ、翌年(2023年)に予定した北西航路横断航海に向けた計画の最終段階は、着実に動き出せたのであった。

(次回へ続く)

 

ハルを漆黒に塗装しなおした〈インテグリティ〉。北西航路で船体を凍り付かせた・・・

 

ウィル・スターリング氏のHP
Stirling and Son

 

(文・写真=ウィル・スターリング 翻訳=矢部洋一)
text & photos by Will Stirling, translation by Yoichi Yabe

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