2020年にトルコ・イスタンブールで誕生した「大統領府国際ヨットレース」。第2回の開催となる2021年10月、その第2ステージを取材し、イスタンブールのヨット文化に触れた。取材記の後編をお届けする。
※取材記の前編もあわせてご覧ください
■女性と若者が多いパワフルなヨット界
2021年10月末の3日間で実施された、第2ステージの「ジュムフリエットカップ(共和国杯)」「マヴィヴァタンカップ」「バルバロスハイレッティンパシャカップ」。これらのレースの参加者の顔ぶれを見ると、女性と若者の多さに驚いた。多くのレース艇に女性クルーが乗っており、中には若者中心のチームもあったのだ。
さらに特徴として、企業の名前やロゴをハルやセールに大きくあしらった艇が多かった。コングロマリット(複合企業体)のスポーツクラブの中で、趣味でセーリングを楽しむ社員で構成されているチームが多いという。トルコでは、セーリングは日常のアクティビティーとして楽しむものなのだと感じた。
初日のジュムフリエットカップ後、〈フェネルバフチェ・ドーシュ〉(M.A.T.1010)チームを訪ねた。同チームは東京2020オリンピックのトルコ代表スキッパー、デニズ・チュナル氏がヘルムスマンを務めていた。なお、M.A.T.1010はトルコで建造されているM.A.T.社のセールボートである。
「マルマリスからボドルムまでの第1ステージは2位でした。ボスポラス海峡は狭いから潮が難しいけれど、それが面白いところでもあります。M.A.T.社のヨットは、トルコではワンデザインレースができるくらいポピュラーですよ」とクルーの方たちはいう。
ここで、トルコの方々はとてもフレンドリーで話し好きという印象を持った。というのも、一つ質問すると、3人ほどが同時に答えてくれるからだ。さらに、親日国ゆえか日本語であいさつをしてくれる方も多く、たびたび「こんにちは」と声をかけられた。
マヴィヴァタンカップの下マーク回航後の〈フェネルバフチェ・ドーシュ〉(M.A.T.1010)
インタビューに答えてくれた〈フェネルバフチェ・ドーシュ〉は、皆さんとてもフレンドリーだった。右端がデニズ・チュナル氏
全日程を終えた後の表彰式は、市内の五つ星ホテル「ハイアットリージェンシーイスタンブールアタキョイ」で行われた。これがまた驚くほど豪華で立派な会場で、表彰対象のチームが登壇するたびに大きな拍手と歓声が飛び交う。ここでもまたトルコセーリング界のパワフルさに触れた。
ハイアットリージェンシーイスタンブールアタキョイでの表彰式の様子。登壇しているのがレース委員長のエクレム・イェムリハオール氏。「ヴァンデ・グローブに出るのが夢」ということで、首にフランス・ヴァンデ県の徽章のタトゥーを彫っている
マルマラ海の島にあるスポーツクラブのチームでは、10代のメンバーが多く、コーチがスキッパーを務めていた。このようにスポーツクラブの一つの競技としてセーリングが含まれているパターンも多いという
参加したセーラーのうち、女性は4割ほどいる印象。女性だけで構成されたチームもあった
■老舗、イスタンブールセーリングクラブ
トルコは各地に多くのローカルヨットクラブがあり、2018年の時点で140ほど、活動を確認できるクラブは118ほどあるという。取材最終日、オールドタウンからフェリーで東岸に渡り、カドキョイのイスタンブールセーリングクラブを訪ねた。同クラブは1952年創立の歴史あるクラブである。
同クラブではピラット(Pirat)級、H12級、OP級、レーザー級、420級などでジュニア、ユース世代の育成を行っている。キールボートレースも定期的に開催され、さらに1mクラスのラジコンヨットのレースも盛んだという。夏場はプールが開放され、大人から子どもまで一緒に楽しめるクラブという印象だ。ジュニアから大人までがともにセーリングを楽しむ、理想のヨットクラブのあり方ではないだろうか。
フェネルバフチェマリーナの敷地内にある、1952 年創立のイスタンブールセーリングクラブ。レストラン二つ、プール、クラブハウスなど施設が充実
イスタンブールセーリングクラブの敷地内で見かけた、コーチボートとディンギーをまとめてトレーラーに載せている様子
■世界三大料理の一つ、トルコ料理
日本からイスタンブールへは、ターキッシュ エアラインズの直行便(11時間程度)が便利だ。コロナ禍以前は成田空港と関西国際空港から発着していたが、現在は羽田空港からのみとなっている。
イスタンブールの物価は日本の半分程度で、タクシーやフェリーなどの交通機関も安い。そして何より食事がおいしいのがうれしい。トルコ料理はフランス料理、中華料理と並ぶ世界三大料理の一つで、冗談でなく何を食べてもおいしかった。トルコはそんな素敵な国である。コロナ禍が明けた暁には、「また必ず行こう。そしてイスタンブールやエーゲ海でセーリングを楽しみたい」と強く思った。
左上:ナスとプレーンヨーグルトのあえもの。豆料理や肉料理のケバブなどがトルコ料理の代表格だ
右上:牛乳と塩のみで作られた、ヘリムチーズを焼いた料理
左下および右下:海に囲まれてはいるものの、イスタンブールではシーフードは高級品扱いで、日本と同程度の価格のイメージ。カドキョイのシーフードレストランにて
今年の大統領府国際ヨットレースは下記の通り実施される。興味のある方は、下記ウェブサイトで最新情報をゲットしよう。
第3回 大統領府国際ヨットレース
[第1ステージ]
ハリカルナス杯
●開催地:トルコ・マルマリス~ボドルム
●開催日:2022年5月25~27日
[第2ステージ]
ジュムフリエットカップ(共和国杯)
マヴィヴァタンカップ
バルバロスハイレッティンパシャカップ
●開催地:トルコ・イスタンブール
●開催日:2022年10月28~30日
■公式サイト:https://sailturkey.racing/
■公式YouTube:Sail Turkey Racing
■公式インスタグラム:sailturkeyracing
この記事は2022年3月号の月刊『Kazi』より、「イスタンブールに吹く新たな風 盛り上がる国際レースとセーラーたち」を加筆・再編集したものです。本誌のご購入はこちらからどうぞ。
(文=森口史奈/Kazi編集部 写真=矢部洋一 協力=トルコ観光広報・開発庁)
あわせて読みたい!
●2/4発売、月刊『Kazi』3月号/特集は「Made in JAPAN」