最強レース艇、F50の操縦方法 教えます!前編

2022.03.05

時速100kmで疾走するモンスターヨット、F50(エフゴジュウ、フィフティ)。第35回アメリカズカップで使用されたAC50の流れを汲むフォイリングカタマランである。

SailGP日本チームの広報担当、渡部雄貴さんから、貴重なレポートが届きました。かなりマニアックな内容ですが・・・ヨット好きならついてこれるはず(たぶん)! 最強ヨットレース艇の操縦方法を教えます!(舵オンライン編集部)

※タイトルカット:F50のコクピット(photo by Bob Martin for SailGP)

 

 

 photo by Bob Martin for SailGP

 

F50 spec

●全長15m ●全幅:8.8m ●重量:2,400kg ●ウイング高さ(4 ~10kt:29m、4 ~24kt:24m、20 ~30kt:18m) ●最高速度:53kt(100km/h)

 

 

photo by Jon Buckle for SailGP

船首(バウ)は写真下側。風速によって3~6人で操船するのだ

 

 

最新の制御システム  

F50のようなワンデザインクラスは、セーラーのスキルによって勝敗が決まる点が特徴で、最後までどのチームが勝つか予測できない白熱したレースが展開されます。F50はプラットフォーム(船体)とウイングに制御システムが搭載されており、舵角、メインシート、ペデスタルのような「直接的」なものと、フライトコントローラーのうな「電子的」な制御方法に分類され、それぞれの役割に応じたHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)を通して艇を操ります。

今回は、F50の操船にまつわる、マニアックな内容をお届けしたいと思います! 

まず、ドライバー(ヘルムスマン)用のHMIについて。

ネイサン・アウタリッジが握るこのホイールには2個のツイストグリップが埋め込まれ、ツイストグリップの回転と角度の変化速度を電子信号に変換し、ダガーのレーキが制御されています。これにより、フライトコントローラーがタッキングなどで席を外した時や、軽風時にフライトコントローラーが乗らない時もドライバーによってダガーボードのレーキ角を制御できるのです。 

 

 

photo by Beau Outteridge for SailGP

これがドライバー用HMI。舵輪の中心にボタンが集中。舵輪の10時10分の位置にはツイストグリップを装備。ダガーボードのレーキをコントロールできます 

 

 

メインセール=ウイングのコントロール

ウイングトリマー用のHMIについては、クリス・ドレイパーから説明してもらいます。

「F50には合計で約120 個の操作ボタンがあります。手元を見なくても分かるようにボタンには点字を使っていますが、間違ったボタンを押してしまうこともあります。3種類のウイング(18m、24m、29m)は、それぞれ違った特徴があります。例えば29mのウイングでは重く、レーシングカーというよりトラックのように感じ、ヒールとピッチのモーメントが大きく、扱いが難しいです。24mのウイングは非常に使いやすくバランスも良く、風が20ktを超えると直ぐに力強さを感じるようになります。18mのウイングは、プレッシャーを維持するのは難しいですがアップウインドは簡単です」 

 

 

photo by Beau Outteridge for SailGP

手元に取り付けられたキーパッドを右手で操作するウイングトリマーのクリス・ドレイパー(左)。キーパッドの隣にウイングのツイストをコントロールする1 軸のジョイスティックもあり。フットボタンは、ジブシートイン、 ジブシート・イーズ(アウト)、ダガーボードアップ、ツイスト・イーズの4 個 

 

 

「次に、ウイング下部に搭載されたディスプレイ。これには、ウイングファンクション、形状、プロファイル、トリムする数値、キャンバー(前部と後部の角度。セールの深さ、ドラフト)やツイスト、風向など必要な情報がすべて表示されています。また、レース用のソフトウエアも搭載されています。スタート前はスタートモードになっていて、このディスプレイはスタートラインまでの時間や最初のリーチングの最適な角度、スタート後のコースなどの情報が表示されています。  また、ボートスピードやTWA(トゥルーウインドアングル)も表示されます。スタートすると、タクティカルソフトウェアに切り替わり、バウンダリーやレイラインなどを確認できます。私は主にボートスピードとTWA、風速を意識して最も速い角度でセーリングできるように集中しています」(クリス・ドレイパー) 

 

 

これがウイングトリマー用HMI。ウイングセールシートのインとイーズ(アウト)と同時に、さまざまなボタンでドラフトやツイストをコントロールしているのだ 

 

 

photo by Beau Outteridge for SailGP

ウイング前部を調整しているところ。写真左側の画面が、ウイングディスプレイ。さまざまな情報が表示される 

 

 

ウイングディスプレイのタクティカルソフトウェア・モード画面


 

F50の操縦方法、前編はここまで。後編では、グラインダーのHMIと、フライトコントローラーのHMIについて解説します!  

 

(文=渡部雄貴)

月刊『Kazi』3月号に、関連記事あり。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

 

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